【3年ぶりの大復活! グラストンベリーDAY1レポ】ウェット・レッグ、インヘイラー、ロバート・プラント、アイドルズ、フィービー・ブリジャーズ、セイント・ヴィンセント…etc.

【3年ぶりの大復活! グラストンベリーDAY1レポ】ウェット・レッグ、インヘイラー、ロバート・プラント、アイドルズ、フィービー・ブリジャーズ、セイント・ヴィンセント…etc.

2020年を晴れの50周年記念回として祝賀するはずだったところ、2年連続キャンセルの憂き目に遭った英最大のフェス:グラストンベリーが3年ぶりにゲートを開けた。老若男女20万人が結集し「ひとつの町」と化すこの巨大フェス、諸規制がほぼ撤廃された今年無事成功すれば――と言いつつイギリスにおけるコロナ感染数は再び上昇しているが――音楽界全体にはずみがつく。

色々な意味で「再出発」となる節目を祝い、グラストを1日ごとにリポートしていきたい。(お断りしておくと筆者は現地入りしておらず、以下の文章は同フェスを毎年大規模にフォローしてきたBBCのウェブストリーム桟敷からのレビュー。金曜午前のトップバッターだったリバティーンズは中継開始前で観られなかったりするが、主だったものだけでも5ステージを数える大フェスだけに、時間帯の被ったアクトも観ることができたのでご容赦いただきたい)

若手向け=「パークステージ」の午後2時という早い出演時間にも関わらず大観衆を集め、文字通り今グラストのブレイクスルーアクトとなったウェット・レッグ。圧倒的なチャームとギターポップの楽しさでかっさらう痛快ぶりで、何よりリアンのシンガー/フロントパーソンとしての成長ぶりはすごいっ!


同じくデビュー作で英アルバムチャート1位&グラストデビュー……と言えばインへイラーだが、かすかに80年代の香る王道青春ロックをソツなくこなしたセットはウェット・レッグの天真爛漫に較べやや青く生真面目。同路線では、グッドメロディにスプリングスティーンのガッツと誠意をこめるサム・フェンダーがやはり格上だった。



午後6時を過ぎ、メインの「ピラミッドステージ」にロバート・プラントアリソン・クラウスが登場。フィドル、マンドリン、ダブル・ベース他フォーク/ブルースなバンドを従え、『Raising Sand』を中心に“Rock and Roll”、“The Battle of Evermore”(サンディ・デニー役の大任を果たしたアリソンも素晴らしい)等も交えたセットは渋くクラッシィ。


いい歳の取り方だなと思ったし、グラスト創設者=マイケル・イーヴィスにフェス開催を思い立たせたFestival of Blues and Progressive Music(バースで1970年開催)にツェッペリンが出演したことを思えば、伝統にふさわしい見事なトリビュートだった。

「アザーステージ」に切り替えると、アイドルズがしょっぱなからステージ前方のクラウドを左右に分け“Car Crash”でモッシュ開始! 青筋立ちっ放しの硬派バンドはアメリカでロー判決(堕胎禁止を違憲とする最高裁判決)が覆された報道に触れ、「あらゆる母親に捧げます」で“Mother”に突入、号泣した。


名曲“Motion Sickness”から澄んだ歌声と美メロで体をほぐす秀逸なセットを展開したフィービー・ブリジャーズもこの裁決に「Fuck Supreme Court, Fuck America」と表明しアクションを訴え、トリのビリー・アイリッシュもステージからコメント。フィービーのセットには別ステージでの出演を終えそのままのレディオヘッドTシャツ姿でアーロ・パークス(ヒマワリを飾ったステージから発される優しいヴァイブスが実に良かった)も共演に駆けつけ、シスター団結の図は麗しかった。


ウクライナのゼレンスキー大統領もグラストにメッセージを寄せたように提起すべき問題は他にも多くあり、米女性のプライバシーの侵害ばかりが焦点だったわけではない。US勢のセイント・ヴィンセントクルアンビンにも強い思いがあっただろうが、具体的な言及はなく自らのスタイルやアーティスト性を通じ聴き手自身に考え感じさせるアプローチ。


70年代風ホットパンツ姿のセイント・ヴィンセントは女性バッキング・シンガー3人との掛け合いも含めシアトリカルな世界観――かつてベックの懐刀だったジャスティン・メルダル・ジョンセンがベースを担当しており、なるほどこのキッチュさは90年代後半のベック味――を徹底させた。音楽的には文句なしにスリリングで脳に刺激的だったとはいえ、心の面で観客と繫がりが生まれたのは“Fast Slow Disco”をきっかけとする後半まで待った(でも、セイント・ヴィンセントとジェイソン・フォークナーの繰り広げるガチなギター・バトルは終始必見!)。

リオン・ブリッジズもゲストで登場したクルアンビンは、インスト中心にも関わらず聴かせ、踊らせ、酔わせ、魅了した。米大陸・アジア……と地球を漫遊する彼らのフュージョン性は万国に通じるし、紫メインの照明で「セクシーなジャムバンド」という不可能を実現したところも最高。セイント・ヴィンセントとクルアンビンはプリンスの精神性を見事に継いでいる。


スコティッシュ・ロケンローの貫禄を見せつけた師匠筋=ジーザス・アンド・メリー・チェインにバトンを渡され、「ジョンピールステージ」のトリはプライマル・スクリーム


『スクリーマデリカ』のジャケをプリントした、右上半身の太陽の目を除き全身真っ赤、という特製スーツで登場したボビーの開き直りぶりには驚いた。旧作/最新作曲を交える前半を経て、ゴスペル合唱団が加わっての『スクリーマデリカ』篇はジ・インプレッションズの名曲“People Get Ready”を間に挟んだ“Come Together”で最初のピーク&大合唱に。

団結への思いは「ここしばらく、こんな風にみんなで集まって音楽を楽しめなかったのは最高に暗かった」とMCし、ファンキーなディスコを基調としつつキネティックなギターで沸かせ踊らせたフォールズ(「アザーステージ」のトリ)も全身で表現していた。


いやほんと、これだけ有象無象な衆が集いひとつの「共和国」が再び生まれた様に、映像を観ているだけでも軽く鳥肌が立った。

「ウェストホルツステージ」のトリはリトル・シムズ


彼女の出演時間はビリー・アイリッシュとモロに被っていたので現場にいたら選択にめっちゃ悩んだところだろう(BBC、ありがとう)。

クリオ・ソルが2曲ゲスト参加したのを除き背後にバンドが一列に並ぶだけのストイックなステージで、そのぶん機関銃ラップからUKガラージ、ネオ・ソウルまで乗りこなすラッパー/語り手/演者としての力量とカリスマ&物語性は圧倒的だったし、“Point and Kill”はその真骨頂。スツールに腰掛けアコギを弾く場面の挿入も含め、ビリーのステージングともシンメトリーだった。

そのビリーのセット(および土曜ポール・マッカートニー、日曜ケンドリック・ラマー)の各日大トリ勢の詳細なレビューは、8月発売の『ロッキング・オン』本誌にて!

(文=坂本麻里子)
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