【6/22 ロンドン公演を現地からレポート】シカゴ発の新星、ホースガールの初UKツアーを見た!

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いま私たちはどのような物語のはじまりを見ているのだろうか。2019年にシカゴで結成され、先日米国の名門インディ・レーベル〈Matador〉からデビュー・アルバム『Versions of Modern Performance』をリリースしたホースガール。その6月22日のロンドン公演は、彼女たちの底知れないポテンシャルを感じさせるものだった。

会場のバーモンジー・ソーシャル・クラブは、鉄道の高架下という立地がいかにもロンドンらしい、小規模ながらも雰囲気のあるライヴ・ハウス。キャパシティも120人と少なめだが、ホースガールは今回の初UKツアーで、この公演を含めて4回のロンドン公演を実施し全てソールドアウト、さらにグラストンベリー・フェスティバルにも出演するというのだから、英国での盛り上がりは相当なものだ。実際、この日も、オルタナティブ・ロック新世代のホープの演奏観るために、幅広い世代のファンが詰めかけた。

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まだ全員が10代の若さながら、インタビュー等では、ギャング・オブ・フォーやソニック・ユース、ステレオラブ、ペイヴメント、ブリーダーズなど、80年代や90年代をサバイブしてきたバンドを中心に、オルタナティブ・ロックの先達への敬意を公言する彼女たち。実際、スティーヴ・アルビニのエレクトリカル・オーディオで録音され、名匠ジョン・アグネロがプロデュースを手掛けた『Versions of Modern Performance』を聴くと、オルタナティブ・ロックの古今の系譜上の様々なバンドの影響を昇華した、完成度の高いサウンドに驚かされる。

この日のライヴは、アルバムのフィジカル版(LPとCD)でも冒頭に置かれるインスト曲「Electrolocation」からスタート。その雰囲気のある演奏から、すぐさまノラ・チェン(g, vo)がリード・ヴォーカルをとる「Emma」こと「World of Pots and Pans」の演奏へ移る。もう1人のヴォーカル、ペネロペ・ローウェンスタイン(vo, g)とチェンは、声質も顔立ちも服装も全く違うものの、並んで歌うとまるで双子を見ている気分になるような独特の空気感を共有している。ジジ・リース(ds)は常にタイトなドラミングを披露し、曲の盛り上がりではライド・シンバルを激しく叩いて演奏全体のノイズ成分を増加させる。その演奏全体、バンドの佇まい全体に、観るものを強烈に惹きつける魅力がある。

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チェンに比べるとキーの低いローウェンスタインが先に歌い出し、途中からチェンのヴォーカルが交差的に入る「Ballroom Dance Scene」は、ステレオラブやブロードキャストを思わせる浮遊感がライヴで一層際立つ。声質の異なる2人が交互にヴォーカルを重ねることは、バンドの華やかさに大きく貢献している。また、インタビューやレビューで、ほぼ必ず言及される6弦ベースを使ったメロディ・オリエンテッドなプレイも、音の“空間”を感じるこの曲の重要な要素となっていた。

演奏中は、ほとんど表情を崩さずクールな3人だが、その分、MCでの初々しさとの落差がすごい。「(地元の)シカゴを出て行う初めてのツアー」だと楽しそうに語るローウェンスタインの言葉と、その前後に披露されている完成度の高い演奏とを交互に味わう経験には、ちょっとしたシュールささえあった。

中盤では「Option 8」や「Anti-Glory」といったダンサブルな曲を立て続けに演奏。テンポの早いこれらの曲でも、ミニマルさと同時にグルーヴを感じさせるリースのドラミングの素晴らしさも、音源版よりハッキリと感じることが出来た。

リースは「Live and Ski」のイントロでもセンスの良いドラム・ソロで演奏を盛り上げる。さらにこの曲では、6弦ベースではなく、チェンとローウェンスタインの2人ともがギターを演奏。この2人は他の曲でも、ギターや6弦ベースを次々と持ち替えながら演奏していて、その柔軟さも印象に残った。

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「Sea Life Sandwich Boy」の演奏では、彼女たちと同じシカゴ出身のカイ・スレイター(ドゥアール・トゥループ/Dwaal Troupe)が、ステージの横からひょいっと登場してタンバリンで演奏に参加。シカゴの「青少年芸術プログラム」で出会い、自らを若きシカゴのギター・コミュニティの代表として位置付けることもあるホースガールだが、ギャング・オブ・フォー顔負けのカッティング・ギターや、マイ・ブラッディ・バレンタイン(特に『Isn’t Anything』期)を思わせるフィードバックまでを自在に操るチェンやリースのハイセンスで巧みな演奏は、時にその実年齢とのギャップさえ感じさせるもの。その技術を培った現行シカゴ・シーンへの関心も強烈に刺激される経験だった。

最後は「Beatiful Song」や「Billy」といった代表曲を演奏してライヴは終了。本編終了後、客出しのSEが鳴り始めても観客が退出せず、急遽アンコールを行うことになるほどの大盛況だった。

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終演後、3人は演奏時とは対照的な笑顔で、物販ブースやフロアでファンと交流していた。その姿が、どこにでもいる普通の10代のそれに見えたことは、同時にちょっとした末恐ろしさを強めてもくれた。冒頭にも書いた通り、まだホースガールの物語は始まったばかりで、この先どこへ向かうかも分からない。だが、その笑顔の向こう側に、彼女たち自身をインスパイアしたギター・ロックへの愛情と、音楽家としての強い情熱があることは疑いようがない。

そして、前述のようなオルタナティブ・ロックのレジェンドたちを、それこそ80年代や90年代当時から現在まで、世代を経ながら支持し続け、良好な関係を築いてきた日本の音楽コミュニティが、ホースガールの音楽についても最良の理解者の1人となり得ることも、また疑いようがない。そんな直感をますます強めてくれる素晴らしいライブだった。(佐藤優太)
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