おいしくるメロンパン/Spotify O-EAST

おいしくるメロンパン/Spotify O-EAST - all photo by 郡元菜摘all photo by 郡元菜摘

今年5月にリリースしたミニアルバム『cubism』を引っ提げて6月から7月にかけて行ったツアー、「サンセット・フィルムショー」は全6公演がすべてソールドアウトし、そのライブの鮮烈さはいまだ記憶に新しく、おいしくるメロンパンのさらなる飛躍を見せつけるものであった。そして季節が夏から秋へと移ろうタイミングで、『cubism』ツアーの第二弾「トワイライト・フィルムショー」が9月、千葉LOOKを皮切りにスタートし、この全国14ヶ所を巡るツアーは、11月23日(水・祝)、渋谷・Spotify O-EASTでファイナルを迎えた。「トワイライト・フィルムショー」も各地でソールドアウト。O-EASTももちろん完売で、さらなる期待の高さを物語る。同じく『cubism』の世界をライブで表現するツアーであるという点では「サンセット」と「トワイライト」は同意義でありながら、季節や時間の移ろいによってその時にベストなセットリストが組まれ、同じ楽曲の演奏であってもまた違った風景を生み出していた。おいしくるメロンパンは、ナカシマ(Vo・G)がライブのMCでも語っていたように、楽曲ひとつひとつがパズルのピースのような存在であり、その組み合わせによって違う絵を見せることを当初から意識してきたバンドである。あるライブでは深く内省的な世界観を伴う楽曲が、次のライブではふっと軽やかな光を感じさせるものになったり、爽やかさを感じさせる楽曲がセトリの妙で思い切りロックバンドであることを感じさせる楽曲だと気付かされたり。つまり、人としての生活やそこで揺り起こされる感情は、決して一面的なものではないのだと彼らの音楽は伝えているような気がしたのだ。

おいしくるメロンパン/Spotify O-EAST
おいしくるメロンパン/Spotify O-EAST

「サンセット・フィルムショー」とは大きくセットリストを変えてきたのも、そうした意図の表れだろう。そしてその変化が楽曲ごとに新たな表情を見せていく。「サンセット」がバンドサウンドに夏の爽やかなイメージを感じさせていたとすれば、「トワイライト」はその明るさのなかに秋へと差し掛かる、言葉で表現しづらい微かな切なさを滲ませた。この日の1曲目は“命日”。「サンセット」では演奏しなかった楽曲であり、この日はよりロックバンドとしてのアンサンブルを印象づけるプレイで、骨太なリズムが耳を惹いた。続く“夕立と魚”は、バンドとしては初期曲でありながらライブではおなじみの人気曲。「サンセット」でも中盤のアクセント的な曲として効いていた楽曲が、「トワイライト」では序盤を彩る。軽快なバンドサウンドに乗るナカシマの歌声がいつにも増してクリアに響いて、日中の暑さから夕暮れに至る景色の爽やかさと儚さを描くように鳴っていた。その流れでの“look at the sea”。峯岸翔雪(B)のコーラスが繊細なハーモニーを生む。ナカシマの歌声はもちろん、演奏の緩急のバランスが素晴らしく、そのサウンドが時の移り変わり、景色の変遷を表現しているよう。純粋にバンドアンサンブルだけで物語を描けるようなバンドだと思う。さらに“色水”へと、彼らのライブでは重要な位置を占める楽曲が続く。ナカシマの性急な弾き語り的な始まりからバンドサウンドへ。速い。いや、シンプルにBPMが速いのもあるが、バンドサウンドのドライブのかかり具合がその速さの体感に拍車をかける。ブレイクから大サビへと炸裂する瞬間のカタルシス。夏の終わりのあっけなさ、その切なさをこの日の演奏は強く感じさせた。

おいしくるメロンパン/Spotify O-EAST - ナカシマ(Vo・G)ナカシマ(Vo・G)

駆け抜けるような序盤は(“命日”はさておき)、夏の終わりや夕暮れ前の風景を感じさせた。そして5曲目にしてようやく新作『cubism』の楽曲が披露される。変拍子が不思議な没入感を生む“灰羽”だ。青空と白雲がステージ背後のLEDスクリーンに映し出され、大空を浮遊するように、また旋回して落ちていくように、視覚的な演出が楽曲に合致する。各パートはそれぞれ自由な音を奏でながらも重なり、また疾走し、3ピースのダイナミズムを惜しみなく表現していく。世界のどうしようもなさと美しさ、秩序と混沌とを同時に表現するような歌世界は、そのまま4thミニアルバム『flask』収録の“走馬灯”へと連なる。“灰羽”に引き続き、晴天の美しさと悲しさを感じさせる楽曲が、独特のグルーヴを携えたギターリフで鳴り響いていた。この2曲は彼らが持つ地図的に近い位置にあるものだということがよくわかる。ライブならではの気づき。そこから再び『cubism』から“水びたしの国”、そして“蒲公英”と続く。草も生えない砂漠の山脈の風景が映し出される。原駿太郎(Dr)はスティックをブラシに、峯岸はアップライトベースに持ち替えて、洗練されたアンサンブルを魅せる。映像が夜明けの風景に変わるのとともに“蒲公英”へとつながるのもよかった。音と映像とが季節の移り変わり、あたたかな感情の湧き上がりを思わせ、また新たなストーリーを見せていく。日常の風景を映し出す映像、そしてナカシマのファルセットが有機的な「生活」を感じさせた。そして「サンセット・フィルムショー」では「新曲」として初披露された“マテリアル”は、すでにおいしくるメロンパンの楽曲として不可欠なピースとなっていた。“蒲公英”でスクリーンに映し出された「生活」の風景は、“マテリアル”ではよりミクロ視点で生活空間に存在する様々なオブジェクトにフォーカスし、3人のアンサンブルがその映像の切り替わりとシンクロするように小気味好いテンポで響く。“マテリアル”もまた『cubism』の世界と地続きにある楽曲である。というか、この「サンセット」と「トワイライト」のライブツアーは、おいしくるメロンパンの楽曲はすべてどこかでつながっているということを明確に表現するものだったのだ。

おいしくるメロンパン/Spotify O-EAST - 峯岸翔雪(B)峯岸翔雪(B)

ライブ後半、“caramel city”がこれまでとは違ってどこかソリッドなロックバンドのグルーヴを見せていたのも興味深かった。“泡と魔女”で聴かせたクリアな出音でのギターソロにも、“dry flower”で展開するカッティングからアルペジオ、そしてコードストロークへと自在に表現するギタープレイにも、ナカシマのプレイの成熟が光った。アップテンポで駆け抜ける“あの秋とスクールデイズ”で響く峯岸の獰猛なベースと原のタイトなドラムにも、バンドサウンドの飛躍的な成熟を感じ取る。そしてここでさらに新作からの“トロイメライ”。クリーントーンのギター音、コーラスのハーモニーが懐かしい景色を連れてくる。スクリーンには曖昧なピントで映し出される追憶の風景。歌で表現される景色はまた“走馬灯”へと戻るような感覚を伴って、立体的な世界観を見せていく。

おいしくるメロンパン/Spotify O-EAST - 原駿太郎(Dr)原駿太郎(Dr)

「秋、感じてますか?」とナカシマのMCは「秋っぽかったり、夏っぽかったり、秋の侘しい感じとか、どこかゾワゾワしてくる感じとかが伝わったらいいなと思います」と語りかけ、やはり今回の2つのツアーは季節の移り変わりを意識してのセットリストでもあったのだと実感する。そして終盤は、セッション的に紡ぎ出されるエキセントリックなアンサンブルから“シュガーサーフ”へ。ソリッドなガレージサウンドに峯岸の動きが大きくなる。大きな拍手が止まないなか即“架空船”へと突入。シンプルにループするリズムとともにめまぐるしく展開する楽曲だ。ナカシマのスポークンワードを含め、その歌声の伸びやかさも格別。本編ラストは『cubism』のなかでも最もポジティブな響きを感じさせる“Utopia”。《響く心臓の音が近い》と締める歌の、未来に向けての強烈な予感が空間を満たした。

おいしくるメロンパン/Spotify O-EAST

アンコールでは、ナカシマが「今年はありがたいことに忙しくさせてもらって。いろんな作品を出せたり、ツアーも2回できたり。来年はさらに全速力で駆け抜けていきたいと思っているので、みなさんも振り落とされないようについてきてください」と語ると、思わず峯岸が「かっこよ」とつぶやく。ナカシマは少し照れたように「僕っぽくないか」とはにかんだが、おいしくるメロンパンは、そうしたポジティブなメッセージを外に向けて発信することも多くなってきた。そして「新曲作ってきました」と、今ツアーで披露されてきた新曲“garuda”も演奏された。1コード2コードで歌のメロディを際立たせるような楽曲は、平歌からのサビへの跳躍力、緩急が素晴らしく、バンドの強さをしっかりと感じさせる出来栄え。リリースが楽しみになる。ラストは各パートのソロまわしを交えながら“5月の呪い”。陽性のメロディ、力強いロックサウンド、キレの良いビート、とても豊かな音が鳴っていた。フロアのハンドクラップも大きくなる。ラストはスクリーンにバンドロゴが大きく映し出され、ツアーは大団円を迎えた。

おいしくるメロンパン/Spotify O-EAST

「サンセット」と「トワイライト」の2本のツアーで全20ヶ所を巡ってきたバンドは、原がMCで語っていたようにとても「たくましくなった」。すべての音に隙がなく、サウンドは自由自在に景色を映し出す。おいしくるメロンパンにとって、新たなアルバムができあがるということは、風景を映し出すためのパズルのピースが増えるということだ。そのピースの当てはめ方は無限で、季節が巡るようにバンドの表情も変化していく。つまり新たな作品ができあがれば、過去作にも無限にアップデートを加えることができるということ。それを証明してみせたツアーだったと思う。また次なるアルバム、そして新たなツアーにも期待が高まるところである。(杉浦美恵)

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●セットリスト
01.命日
02.夕立と魚
03.look at the sea
04.色水
05.灰羽
06.走馬灯
07.水びたしの国
08.蒲公英
09.斜陽
10.マテリアル
11.caramel city
12.泡と魔女
13.dry flower
14.あの秋とスクールデイズ
15.トロイメライ
16.シュガーサーフ
17.架空船
18.Utopia
(アンコール)
EN1.garuda(新曲)
EN2.5月の呪い

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