【10リスト】羊文学、一生聴き続けられる名曲10はこれだ!

【10リスト】羊文学、一生聴き続けられる名曲10はこれだ!
「文学」という言葉が入っていることが示す通り、羊文学の音楽はとても文学的だ。「文学的」というのもいろいろな捉え方ができるが、彼女たちの場合は「世界や人間の本質をダイレクトに貫く鋭さと強さ」みたいなことだと思ってもらえればいい。なんだかモヤモヤした気分とか、漠然と漂い続ける不安とか、ずっと昔に飲み込んだ苦々しい出来事とか、口には出せない本当の思いとか、そうしたものすべてにオルタナティブ・ロックのささくれだった音像と研ぎ澄まされた言葉のセンスで命を吹き込み、そこにあることの意味をもたらしていくバンド。それが羊文学である。メジャー進出を経てその魅力と必要性が多くの人に届き始めた今だからこそ、改めてそのディスコグラフィから必聴の名曲を紹介したい。この10曲の中に必ず、あなたの人生にとって欠かせない音楽があるはずだ。(小川智宏)


①春

2015年にリリースされた自主制作盤『BiRTH.ep』に収録され、のちにEP『トンネルを抜けたら』にも収録された初期曲。イントロからぐんぐんと加速していくような伸びやかなサウンドとともに《きっと春のせいだから/何も言わず聞いて》と綴られるメッセージ。しかしリスナーの期待を裏切るかのように、煌めくサウンドは暗いトーンとともに鳴り止む。そしてつぶやくように歌われるのは《嫌い。》というインパクトのある言葉だ。そうして吐き捨てられる本音。その言葉を合図にして、嵐のようなノイズまみれのギターサウンドがかき鳴らされる。そのダークさと根深さ。その後羊文学の歌詞のムードはどんどん変わっていくことになるのだが、塩塚モエカ(Vo・G)の歌の中には、今も《嫌い。》と言いたくても言えなかったあの時の彼女自身がいる気がする。

②天気予報

“エンディング”という曲から始まり、歪んだギターとともに希望や未来像とは無縁の、どんよりと澱んだような(だからこそ痛いほどに生々しい)若者像を描き出していくファーストアルバム『若者たちへ』。そのラストに収録されているのが、羊文学史上でも屈指の明るさを感じさせるこの“天気予報”だ。リヴァーブのかかったクリーントーンのギター、力強いアタック感でリズムを刻むドラム、ゆっくりと、しかし確実に上へ上へと階段を上がっていくようなメロディ。《いつか来る時代に憧れた彼らの火を/ワクワクするような未来で繋ぐかい?》と問いかけで書かれているように、ここで歌われているのは確信や確証ではない。しかしここで歌われている、かつてあったはずの「未来」はまだ生きている。言葉の途中で終わるような歌詞は、そう言っているように思う。

③1999

クリスマスソングとして作られた楽曲だが、こんなクリスマスソングは他に聴いたことがない。《街は光が溢れ/子供達のあしおと/カウントダウンがはじまった ほら》。そのフレーズだけを抜き出せばハッピーなムードを想像するかもしれないが、そのあとに《世紀末のクリスマスイブ/僕が愛していたあのひとを/知らない神様が変えてしまった》というフレーズが続くことからもわかる通り、その《カウントダウン》は「何かが変わってしまう」、「何かが終わってしまう」という残酷な現実の到来を告げるものなのだ。まさに《世紀末》的な不安が、このポップな曲を覆っているのである。と書くとめちゃくちゃ暗い曲みたいだが、実はそうでもない。最後に《夜が明ける頃 迎えにゆくよ》という言葉があるように、ここにはそんな不安すら潜り抜けようという意志があるからだ。その意志がちゃんと伝わっているからこそ、この曲は今も羊文学の代表曲であり続けているのだと思う。


④ロマンス

ジャキジャキと刻まれるギターとアッパーなビート、ハイトーンを効果的に使った塩塚の歌唱。「女の子」をテーマに作られたポップなEP『きらめき』の中にあっていちばんパワー感のあるロックンロールとなっているこの曲だが、ここで歌われているのはガールズロックのキラキラでも恋する乙女のトキメキでももちろんなくて、《女の子はいつだって無敵だよ》というキラーフレーズの裏側に隠された切なさのほうだ。どこまでも解放的な、躁的とも言えるテンションで《無敵だよ》と言い張るたびに募る報われなさや寂しさ。そんな彼女の中に育つ気持ちを《悪魔のタネ》という言葉で言い表すところに、塩塚の本質を見る鋭利な視線を感じる。徹底的に「女の子」に振り切ったぶん、かえってそんなカテゴライズを超越した羊文学のロック性が顔を出す、そんな曲。

⑤恋なんて

『きらめき』に収録された“ミルク”に続き、羊文学が恋の歌に挑戦した一曲。そういう意味では珍しい曲だとも言えるが、通り一遍の意味ではなく、その恋を描く一つひとつの言葉の裏の裏の裏まで暴き出してしまうようなところがやはり羊文学である。“ミルク”同様壊れていくふたりの関係を歌った曲だが、その状況を《それでいいの》という言葉で飲み込もうとしていた“ミルク”に対し、この“恋なんて”の主人公は最終的にちゃんと悲しみ、ちゃんと引きずり、ちゃんと傷ついている。傷ついているからこそ《恋なんて》という言葉が出てくる。「なんて」などと少しも思えないのに、そう口をついて出てしまう切なさが、ダンサブルなビートや控えめなギターのサウンドも相まって一層強く伝わってくる。歌詞にある通り《呪い》でもあり《祈り》でもある恋のあるがままの姿を、この曲は教えてくれる。

⑥砂漠のきみへ

F.C.L.S.に移籍後初のシングルとして“Girls”との両A面でリリースされた楽曲。この2曲は音楽的にも歌詞のムード的にも羊文学の両極端なふたつの側面を象徴しているのだが、それと同時にそこには強がったり突っ張ったり絶望したりしても決して消えない、塩塚モエカという表現者の中にある深い愛のようなものが滲んでいるように思える。“砂漠のきみへ”は自分から遠く離れてひとりで旅を続ける「君」へ投げかけるようにして歌われる(《書く》という言葉で表されていることからもわかる通り、手紙をイメージして書かれたのだろう)。手を伸ばしても決して届かない「君」に向けて、塩塚は《いつか笑って戻る日まで待っているよ》と歌う。何もできないけど、ここにいて、「君」のことを思っているよ、と。遠くへ遠くへと願うように鳴らされるギターソロに込めた思いは、その後の羊文学の音楽をどんどん優しく、大きなものにしていったのだと思う。

⑦あいまいでいいよ

羊文学の音楽は、白にも黒にも染まれない、微妙なところを揺らぎ続ける心を掬い上げる。好きと嫌いの間とか、守りたいけど守れないものとか、不安と期待が入り混じった感じとか、息苦しい日々の中にふとよぎる希望とか。そうしたものをまるっと歌うから、塩塚の歌詞は簡単には読み解けない、でも深く刺さる言葉になる。そんな、まさに「あいまい」な部分を真正面から受け止めようとするのが、メジャーデビューアルバム『POWERS』収録のこの曲だ。微妙にすれ違っていることにも気づいているし、口には出せない《本当のこと》があることも知っている。《夢のようだ》というフレーズは、それがかりそめであることを図らずも暴露する。だが、少なくとも今はそれでもいいのだ、とこの曲は言う。2020年という時代の空気の中で自分たちの音楽の役割を自覚した羊文学の宣言だ。

⑧マヨイガ

アニメ映画『岬のマヨイガ』主題歌として書き下ろされたのがこの“マヨイガ”だ。塩塚は物語の主人公であるユイとひよりに手紙を書くようにして歌詞を書いたという。だからこそこの曲で彼女は《花束いっぱいに抱きしめて/世界を愛してください》と、羊文学らしからぬ言葉も歌うことができたのである。だからといってこれが完全な「イレギュラー」というわけではない。歌詞だけを見ればバラードでもおかしくないような雰囲気だが、疾走感のあるバンドサウンドが気持ちいいアレンジとなって完成したのは、この曲をちゃんと羊文学の音楽として消化できたことの証だろう。映画との親和性もさることながら、重要なのはこの曲が明確に「誰か」に向けたメッセージとして書かれたこと。自分自身に向けては言えないことでも、誰かを願った言葉には乗せることができる。その新たな視点は、その後の“光るとき”、そして『our hope』というアルバムへと結実していった。

⑨光るとき

TVアニメ『平家物語』のオープニングテーマとして書き下ろされた“光るとき”。作品のテーマやストーリーに徹底的に寄り添うことで生まれたサウンドと歌詞は、同じくタイアップで生まれた“マヨイガ”同様、それまでの彼女たちの楽曲とは一線を画すものになった。《何回だって言うよ、世界は美しいよ》という印象的なフレーズはそれまでの塩塚からは決して出てこなかった言葉だろう。彼女は、世界は美しいだけではない、むしろ醜さのほうが大きい場所だという出発点に立ち、それでもなんとか肯定しようともがいてきた人だと思うからだ。しかし、そうやっていつもとは違う自分で書かれた曲だからこそ、この曲の持つ優しさと強さは特別なものになった。《混沌》、《悲しみ》、《永遠なんてない》、随所に織り込まれた「現実」をすべて希望に転化するようにひた走るメロディと歌。生命感そのもののような音のきらめき。羊文学の音楽がまたひとつ可能性を押し広げた瞬間がここに刻まれている。

⑩OOPARTS

曲名の「オーパーツ」というのは、当時の技術や文明ではどう考えても作れないはずの不可思議な歴史的遺物のことだ。この曲で歌われる《地球はオーパーツ》というのはおそらく、テクノロジーの進化によって人の手に余るものになってしまった文明の行き着く先を暗示しているのだろう。かなり辛辣な曲だと思うが、それを補って余りあるほどにこの曲はポップでもある。刻まれるハイハットとこの曲で初めて導入されたシンセの音色がスペーシーな浮遊感と広がりを生み出すし、後半で入ってくる歪んだギターサウンドが羊文学のアイデンティティを示し、シビアな内容とは裏腹のアッパーなサビのメロディがリスナーを鼓舞する。《誰か聞いて、ただ、生きたいだけ》という一行の鋭さに感動するが、より重要なのはその前、《今ならばまだ間に合うのに》という部分のほう。ここでもまだ、ギリギリ希望は失われていないのだ。


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