ニューヨークの若手バンドを中心に、ネオフォーク、ネオサイケと呼ばれる新しい音楽スタイルの胎動がある。簡単に言ってしまうと1960年代、70年代のフォークやサイケデリックロックを今の時代に合わせた形で表現しようとする動きだ。当初は大学生や音楽ファンが支持する動きだったが、ここ数年はポップミュージックの大きな潮流になった。
ダーティー・プロジェクターズは、そうした動きを牽引するブルックリンのバンドである。最新作において、彼らのポップで洗練されたメロディーラインと絶妙なコーラスワークが作り出す世界がひとつの完成形に達したので、とても期待していたライヴだった。もともとはデイヴ・ロングストレスのソロプロジェクトから発展したバンドで、メンバーも流動的だったりするのだが、ステージではまるで何十年もこのメンバーで活動して来たかのような絶妙なアンサンブルを聞かせてくれた。
男3人女3人のメンバー構成が声のキャラクターとしても、視覚的なイメージとしても独特な世界観を感じさせる。音数が少なく実験的要素の多い、ある意味不親切なサウンドスタイルなのだが、メロディーのポップさと歌の圧倒的な肉体性で観客を魅了してしまう。コンピューターで打ち込んだリズムを使ってはいるが、徹底して肉体性にこだわった演奏スタイルを貫いている。これは他のネオフォークのバンドにも共通するものだ。その証拠にやたら観客に手拍子を要求する。しかも難しいリズムの手拍子なのだ。バンドも観客も全く合っていないのを全然気にしていないのが面白かった。最も新しいロックの時代性と肉体性が感じられる素晴らしいライヴだった。
9日、渋谷 O-EAST
(2012年10月23日 日本経済新聞夕刊掲載)
日経ライブレポート「ダーティー・プロジェクターズ」
2012.10.24 19:19