米インディの無頼派、再生

ディアハンター『フェイディング・フロンティア』
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ALBUM
2年ぶり、7枚目となる本作は、一種つきものが取れたように軽やかな、美がたゆたう1枚になった。先行公開されたM7にこそ中心人物:ブラッドフォード・コックスらしいアクの強いポップネスが刻印されているものの、前作における閉所恐怖症的なガレージ・ギター・ロックとは対照的に、ここでの主調はメランコリックなリフの円環とクラウス・シュルツェ〜ゲイリー・ニューマンを思わせるシンセや繊細なエレクトロの縁取り。ステレオラブのティム・ゲインとブロードキャストのジェイムス・カーギルの客演も納得、な音作りと古今のメロディに精通した才人の感性からM2、M3、M5といった新たなディアハンター・クラシックが生まれている。

このシフト・チェンジをきっかけに、本作向けのネット取材で触れていた昨年遭遇した交通事故があったようだ(M2、3の歌詞にその影響がうかがえる)。少年時代や痛みや思春期の淫靡な密室にこだわってきたこの人だが、生死に関わる体験によって、ノスタルジアではなく「今」への欲求を掻き立てられたのだろう。ジャケ写の窓の外に広がる青空、その日常的な美しさを受け入れ愛することから、また始まるのだ。(坂本麻里子)