冷静と情熱の間にある歌

Acid Black Cherry『 2015 arena tour L-エル- LIVE CD』
2016年01月27日発売
ALBUM
2015年、僕が最も繰り返し聴いたアルバムの1枚が『L-エル-』だ。癖になる要素はいくらでもあるが、ひと言で言うなら、「この歌でなければできない表現がある」ということが、これほど強烈に伝わってくるアルバムは他にない。「うまい」「綺麗」といったレベルをyasuの歌は超越していて、敢えて言うなら「綺麗すぎて怖い」ということになるが、澄んだ厳冬の景色を思わせるこの声だからこそ、「ひとりの女性の悲劇的な人生を描く」という物語には、誰がどう聴いてもリアルな切なさと、フィクショナルな映画性が浮き上がってくる。つまりひとつの「表現物」として本当に凄い作品なのだ。これはそんな『L-エル-』を冠したツアーの中盤、横アリ公演を収録したものだ。エルの生涯を巻き戻していく映像を引き継ぎ、yasuの歌が彼女の悲劇を綴っていく。名うてのバンドの爆発力、yasuがコントロールする感情の緩急によって、『L-エル-』の世界が立ち上げられる。CDではむしろ怖いくらい透明であったはずの歌声が喜怒哀楽すべてを纏い、新たな物語を物語っていく。そのダイナミズムが最も癖になる。(小栁大輔)