新たな“デビュー”・アルバム

ミシェル・ブランチ『ホープレス・ロマンティック』
発売中
ALBUM
じつに14年ぶりとなる3作目のニュー・アルバム。その最大のニュースは、公私のパートナーであるブラック・キーズのパトリック・カーニーがプロデュースを務めている点だろう。2000年代の女性SSWムーヴメントを代表するひとりだった彼女だが、その「カントリー・ポップの歌姫」的なかつてのイメージはここにはない。ベックやノラ・ジョーンズの作品に携わるガス・セイファートも迎えて制作されたサウンドは、グラミー候補にも選ばれた前作『ホテル・ペイパー』とは趣を変え、ぐっとタフでルーツィーな佇まいに。タメの効いたドラムが印象的な“ユーアー・グッド”を筆頭に、バンド演奏を従えた「ロック・アルバム」とでもいった仕上がりを見せている。もちろん、彼女らしいポップなフィーリングは健在。一方、“ノック・ユアセルフ・アウト”を始めとするアメリカーナとドリーミーなシンセが織りなす楽曲からは、彼女がインスピレーションを得たというビーチ・ハウスやジェニー・ルイスの面影も重なって興味深い。「自分でとても誇りに思えるアルバム」とは彼女の弁。新たなキャリアの始まりを告げるにふさわしい力作だ。(天井潤之介)