超絶な人々による無邪気な宴

モース/ポートノイ/ジョージ『カヴァー・トゥ・カヴァー(ジャパン・エディション)』
発売中
ALBUM

このプロジェクト名を目にした人の多くは、まず「ポートノイが元ドリーム・シアターのドラマーなのはわかるけど、他の2人は誰?」と思うのではないだろうか。ここでマイク・ポートノイとともに名を連ねているのは、スポックス・ビアードのギタリストだったニール・モースと、アヤロンのベーシストであるランディ・ジョージで、彼らはキーボードも演奏。面白いのはプログレ界の凄腕という顔合わせでありながら、彼らがいわゆるビートルズ遺伝子系の音楽に精通していて、それを共通のルーツとしていることだ。

本作は、そんな彼らがこれまでに発表してきた3作の中から選び抜かれた全15曲のカバーで構成された日本独自企画盤で、ビートルズの楽曲はひとつも収録されていないのにジョン・レノンを除く3人のソロ楽曲や、バッドフィンガー、トッド・ラングレンからデヴィッド・ボウイキング・クリムゾンに至るまでの名曲が並んでいる。しかもイエスのカバーには同バンドの現シンガーであるジョン・デイヴィソンもゲスト参加。こうした事実関係だけをみても「気のおけない仲間同士による楽しげなセッション」といった作風には察しがつくだろうが、決して緻密に作り込まれているわけではないのに妙な緩さや雑さとは無縁で、すべての楽器が正しく必要充分な音を奏でている安心感がある。確かに超絶技巧の連続がもたらすような興奮は伴わないが、各自が持ち技のすべてを出そうとするのではなく、余力を残しながら隙間多めの音像を構築し、むしろボーカル・ハーモニーなどに重きを置きながらお馴染みの曲をプレイしているさまには、音を聴いているだけでもなんだか微笑ましい気持ちになってくる。甘いのに何故か酒に合うスイーツのような1枚だ。(増田勇一)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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『rockin'on』2021年1月号