SUPER BEAVER、あなたの隣で鳴らされる最も人間的なアルバム『東京』が示すバンドの現在地――徹底ロングレビュー!

SUPER BEAVER『東京』
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バンドマンとしてはもちろん、人として歩んできた日々の中で感じたこと、思ったこと、経験したことのすべてを音や言葉に託して鳴り響かせている4人、それがSUPER BEAVERなのだと再確認させてくれるのが『東京』だ。そして、今作の特筆すべき部分をさらに挙げるのならば、年齢を重ねる中で感じるようになってきた事柄が様々な切り口で示されているという点だろう。たとえば、《またひとつ歳を重ねて またひとつ意味を宿して》というフレーズが出てきたりもする“スペシャル”は、まさしくそういうものを感じさせてくれる。自分自身にとっての楽しさの尊重が自ずと「誰かのため」と化していくことを《人間冥利》と言い表すこの感覚は、おそらく10代、20代あたりのバンドからはなかなか生まれない。また、“ふらり”も同様の姿を示している曲として挙げられると思う。様々な経験を通じて物事の捉え方、価値観が変化することを肯定し、発見を求め続ける様をこの曲は伝えてくれる。

年齢と経験を重ねる中でいろいろなことが見えるようになる一方、世の中に存在する複雑さ、人間の本質を完璧に捉えることの難しさも知る姿が多彩な切り口で描かれているのも印象深い。後悔や失敗を避けては通れない人生に芽吹く希望を描いた“未来の話をしよう”。「これが真理である」という認識に固執するのが思考停止に等しいことを肝に銘じ、矛盾を無数に抱えた人間への愛しさを溢れ返らせている“人間”。恋が始まったばかりの頃はシンプルに想いを言葉にできたはずなのに、関係が深まるほどに上手く言い表せなくなることの尊さと向き合う“愛しい人”――これらの曲もメンバーたちの実像と地続きであることが窺われる。

そして、人としての成熟を示す表現が色濃く香りつつも、素直、無邪気、真っ直ぐ……どのような言い方が適切なのかはわからないが、飾らない言葉をさらりと投げかけて、「ほんとその通りだよね!」という想いを度々呼び起こしてくれるSUPER BEAVERならではの作風が薄まるどころか、ますます研ぎ澄まされているのも、このアルバムを聴く大きな喜びだ。《今さら馬鹿みたいなこと言うけど/巡り合うことは やっぱり すごいね》から始まり、《馬鹿みたいなことをもう一つ ねえ 今 楽しいな》と歌ったりもする“名前を呼ぶよ”にはドキリとさせられる。《馬鹿みたいなこと》と称するのも理解できる朴訥としたトーンではあるが、何百もの言葉を重ねても描き切れないくらいの想いを感じずにはいられない。本当に心が動かされた瞬間、我々の口から出てくる言葉も案外他愛ないものであり、言葉ですらない雄叫びのほうが感情を雄弁に言い表してくれることも度々ある。装飾過多に陥らず、感情を活き活きと躍動させられる言葉を的確に紡ぎ出すソングライティングの切れ味、託された表現に瑞々しい生命を与えている歌声、楽器隊の音が抜群に冴えわたっている曲だ。

彼らの音楽の特質でもあるストレートさは、《青臭くたって/人と人が支え合いながら生きてる その様が好きだ》と歌っている“ロマン”の言葉を借りるならば、「青臭さを恐れない姿勢」とでも称するべきものだ。「青臭い」は若者の未熟さを指摘する際に頻繁に用いられるが、「青臭い=間違っている」と果たして言い切れるものなのだろうか? そもそも「理想」は「気恥ずかしさ」と近しい。「青臭い」という言葉で安直に切り捨ててはいけない何かが、希望を捨てない理想主義には含まれていることが度々あるように思う。人と人が支え合う様に宿る希望を描いた“ロマン”も、そういうことについて考えさせてくれる。そして、“最前線”も理想を見つめることを恐れない覚悟を示す曲だ。《情熱に幸あれ》という言葉を掲げながら虚無主義を蹴散らすパレードをする人々をイメージできるこの曲には、リスナーに対してだけではなく、音を鳴らしている自分たちへのエールも込められているのを感じる。

最後に“東京”にも、ぜひ触れておきたい。夥しい人々が行き交う東京は殺伐とした場所とされることが多いが、そこで暮らしている一人ひとりにもかけがえのない人生がある。実は血の通った無数の感情が息づいていて、素敵な出会いも様々な形で重ねられている街、東京を拠点としているSUPER BEAVERが噛み締めてきたものが、《愛されていて欲しい人がいる/なんて贅沢な人生だ》と歌う“東京”に凝縮されているのを感じる。日々の営みの中で湧き起こる感情は喜びばかりではなく、悲しみ、やるせなさ、痛みも限りない。しかし、人々が集うからこそ感じられる、温かい何かが存在するのも事実であり、奇跡的に誰かと笑い合えた時は堪らないほど嬉しくなる。そういう希望を秘めた場所の象徴として、彼らは「東京」という単語をアルバムのタイトルに選んだのではないだろうか? そんなこともなんとなく想像させてくれる今作は、決して美しい面ばかりでもない人の心を捉えた12曲が収録されている。とても説得力のある人間讃歌たちだ。(田中大)

(『ROCKIN'ON JAPAN』2022年3月号より)


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