亡霊よ、故郷へ帰れ

マイ・ケミカル・ロマンス『ザ・ブラック・パレード・イズ・デッド!』
2008年07月23日発売
ザ・ブラック・パレード・イズ・デッド!
結局ここ日本では、5人揃ったマイ・ケミカル・ロマンスのライブとしては再現されることはなかった『ザ・ブラック・パレード』。そのステージでの完全体を観ることができるという意味でも、また彼らが『ザ・ブラック・パレード』という一連のアクションを通して訴えようとしたものが結局何だったのかを解明する意味でも、マイケミ史上でも重要な位置を占めるに違いない作品。

ライブCD+DVDという構成の今作。DVDに収録されているのは、07年10月・メキシコ公演でアリーナ・バンドとして「ザ・ブラック・パレード」を堂々演じきったアクト、そしてツアー終了後、地元ニュージャージーの小さなクラブでの、正真正銘マイケミとしてこれ以上ないくらい素のライブの2本(CDにはメキシコ公演のみ収録)。それこそグリーン・デイがアメリカを告発するために別人格=セイント・ジミーを必要としたように、マイケミは己の暗黒と死生観を対象化するために自らの魂をザ・ブラック・パレードという黄泉の国の使者に売り渡す必要があった。マイケミの、ジェラルドの自我を糧に、死のパレードは世界を巡って巨大なうねりを生み出し、それがバンドをさらにスターダムという死の淵へ追い詰める……というスパイラルに、彼らはいずれかのタイミングで終止符を打つ運命にあった。メキシコ公演での、魂を乗っ取られた勇猛たる亡霊としての“ウェルカム・トゥ・ザ・ブラック・パレード”と、まさに憑き物がとれた5人のバンドマンとして“ウェルカム〜”を鳴らす彼らを比べることで、この1年半の熾烈さが浮かび上がる、残酷なまでに凄絶な作品。(高橋智樹)