『狂気』でアルバムを貫くテーマ作りを完成させ世界中でビッグ・セールスを獲得したグループは逆に多くのプレッシャーや問題を抱えることになる。現代音楽まがいの実験的な試行錯誤も行われるなか、最終的に帰着したのが初期の中心だったシド・バレットという存在であった。その才能を自ら削り取り、ついに帰り着くことができなくなってしまった“クレイジー・ダイアモンド”を歌うことはグループの歩み、現在の姿を客観的にとらえ、さらに人間社会の諸相を投影しようという試みだった。
その後も追求される機械文明への疑義を歌った“ようこそマシーンへ”やロイ・ハーパーがヴォーカルをとって驚かされた“葉巻はいかが”、フォーキーな味わいが印象的な“あなたがここにいてほしい”といったコンパクトなナンバーが2つのパートに分けられた大作の“クレイジー・ダイアモンド”に挟まれる構成はわかりやすい。もともとレコーディング、サウンド・デザインも充分丁寧に行われたアルバムだけに、今回のリマスターでも驚きはないのだが、それでも一つ一つの音の湿度は増したように感じるし、それがこのアルバムのコンセプトとアプローチにはよくあっている。(大鷹俊一)