やっぱり本家はこちら

M.ウォード『ア・ウェイストランド・コンパニオン』
2012年04月25日発売
ALBUM
本人にとっても夢のようなレコーディングだったのでは? タスカムの4トラ・レコーダーをこよなく愛し、歩くレコード辞典とでも言うべき造詣の深さを誇るM・ウォード。新作は世界8ヶ所を巡りながら、総計18人のミュージシャンが参加する形で作られたという。それぞれのスタジオ固有のサウンドに目を瞠り、気の置けないミュージシャンと作られていった様子が、音を聴いてるだけでも目に浮かぶ。特にリズム隊の音の強さとやわらかさは、このアルバムに格別の瑞々しさを与えている。なにげないコード・チェンジが眩しい輝きを放つのもこの人ならではだ。

かつてのレコードと対話するように紡がれてきた彼の楽曲だが、その真価が明らかになるのは、やはり現在との距離に目を向けた時だと思う。イラク戦争後リリースの『ポスト・ウォー』の素晴らしさは言うまでもないが、本作もそのレコーディング環境ゆえか開かれた印象があり、基本的なサウンドスタイルは揺らぐことがないながらも、まさに今にフォーカスされた作品になっている。どんどん肩の力が抜け、核心に近づいているそんな印象がある。魔法使いにまた一歩彼は近づいた。(古川琢也)