2018年の結成以降、R&B、HIP HOP、ファンク、ブルース、ロックなど様々な音楽性を混ぜ合わせながら、独創的なポップスを世に放ってきた5人組バンド・Kroiが、メジャー1stアルバム『LENS』を、Official髭男dismやスカートなども所属するポニーキャニオン内のレーベル「IRORI Records」よりリリースした。独自のポップセンスと言語感覚を、まるで軟体動物のような不可思議さと生々しさでミックスした12曲が並ぶ本作。2021年という時代を生きる若者たちのレアな皮膚感覚と、音の質感にまでこだわった鋭敏な音楽的感性は、どのような意志と過程を経てこの1作に刻まれたのか。全員インタビューで解き明かす。
インタビュー=天野史彬 撮影=山川哲矢
自分の体なのに全然言うこと聞かない。でも、そういう時ほど歌詞が書きやすかったりもするんです(内田)
――メジャー1stアルバム『LENS』、全12曲を通して繊細なバイオリズムを感じることができるアルバムだと思います。前提となるコンセプトなどはありましたか?関将典(B) 曲を作った時期もバラバラなので、コンセプトを立てたり、そこまで細かく意識していたわけではないんですよね。ただ、聴いてもらえればわかると思うんですけど、「時間」を感じさせる曲が多いんです。曲順を決める時、そういう時間の流れみたいなものは若干意識していました。
――何故、「時間」を感じさせる曲が多いのだと思いますか?
内田怜央(Vo) たとえば、“夜明け”や“帰路”は「朝」のイメージの曲なんですけど、僕らの生活って昼夜逆転しているんです(笑)。夜に曲作りを始めて、朝に歌を入れて、それから死んだように眠る生活を繰り返している。だからですかね。
――それは、その時見ている景色を率直に歌詞やサウンドに落とし込むことが大切なことである、とも言えますか?
内田 情景を描く曲が多いわけではないんですけど、その景色がきれいだったらっていう感じですね。ただ、普通に生きていてもなかなか「この景色、きれいだな」とか、「この風、気持ちいいな」とはならないですけど、俺の場合は自分の体が状態異常の時に「この景色、めっちゃいいな」と思うことがあって。“帰路”は朝帰りの曲なんですけど、めちゃくちゃ疲れて朝帰りした時に、いつも歩いている地元の駅前で見た朝焼けをめちゃくちゃきれいに感じたんです。“帰路”は、そうやって自分の体が異常に疲れた状態であることを表しながら、きれいな景色を書こうとした曲ですね。
――「状態異常」というのは、身体的な疲労感であったり?
内田 そうです、そうです。常に体が不調なんです、俺は(笑)。鼻炎で年中酷かったりして、自分の体なのに全然言うこと聞かないことが多い。でも、そういう時ほど歌詞が書きやすかったりもするんです。自分の体が状態異常の時は自分の気持ちが音楽以外のところにある。そういう時の「なんでこの体は俺の言うことを聞かねえんだよ!」みたいな怒りが曲になると、パワーがあるんです。たとえば、“Fire Brain”は俺がインフルエンザで家に籠っていた時に書いた曲なんです。それで、あの凶暴な曲が生まれたっていう(笑)。
今回のアルバムは「音の空間」もすごく意識したんです(千葉)
――なるほど(笑)。今回のアルバムは、最後に1分ちょっとの“feeling”という小品的な名曲で終わるのがとてもいいですよね。千葉大樹(Key) しっくりきますよね。もし、あからさまに感動するような壮大な曲でアルバムが終わっていたら、自分たちでも気持ち悪いと思う。最後に“feeling”のような小さな曲でスッと終わるのが、規模感やテンション的にも、この5人には丁度いい。僕は最終的なミックスも担当していますけど、今回のアルバムは「音の空間」もすごく意識したんです。賑やかでウワーッと盛り上がるような曲でも、「距離の近い音」で録る。そうすることで生まれる違和感を、バランスを取りながら探っていった感じはあります。
内田 俺たちって、大人数でわらわらしたくないんですよ。デカいパーティーよりも、仲のいい友達数人と、こぢんまりとしたスペースで夜を明かすような感覚がいい。俺が作る曲は、デモの段階からそういうテンション感があるんですよね。それに、今はこうやって自分たちで音像までデザインしたものを「曲」や「作品」と呼ばないといけない時代になっているなと思います。作曲のデザインだけではもう足りないというか、「バンドマンも、今はそこまでできていいんじゃない?」と思う。
益田英知(Dr) ドラムの音作りもかなり意識的にやったんです。「どういう空間で録ったのか?」とか、「距離感はどういうものなのか?」とか、そういう音の細かいところまで意識しながら、こだわって録りました。
――関さんと長谷部さんは、それぞれのパートに関してどうですか?
関 俺は、サウンドメイクやエフェクトに新しいアプローチを入れつつ、レコーディングにいろんな竿を持ち込んだんです。そもそも俺は自分で楽器をいじるのが好きで、ヤフオクで買ったジャンク品を自分で直して使ったりするんですけど、今回は特に、曲ごとで違うベースサウンドが聴けるアルバムになったんじゃないかと思います。ただ、その中でもフレージングやニュアンスには「あくまでも俺が弾いている」と言える部分があるし、その「らしさ」に関しては保証できますね。
長谷部悠生(G) 僕も録り音についてはすごく考えたんですけど、ギターにしか出せない音域を失わないようにしながら、でも、きれいになりすぎるとつまらないので、「人間味を音としてどう出すか?」って悩みました。自分が弾くことに意味があるピッキングやフレーズのニュアンスが出ていないと意味ないなと思って。
――今作の制作を通して改めて発見する自己はありましたか?
長谷部 やっぱり、自分はブルースが好きなんだなと改めて思いましたね。フレーズを考えていても、自分らしさや人間味を求めていくと、僕の場合すごくブルースライクなものが出てくることが多くて。
内田 今回、人生で初めてフルアルバムを作ったけど、「自分ってこうなんだな」っていうことが、結構見えてくるもんだよね。
千葉 わかる。自分では意識していなかった癖とかも、曲をたくさん録っていくとわかってくる。
内田 俺はアルバムができあがるちょっと前に、トイレの中でふと「俺、このアルバムができあがったら、人生の第二章始まっちゃうんじゃないかな」みたいなことを思いました(笑)。22歳にして、「ここでやっと人生に一区切りつくな」って。
子供たちに伝えたい気もする(笑)。「大人って仕方がないんだよ。いろいろ考えたくなっちゃうんだよ」って(内田)
――内田さんにとって、人生の第一章はどんなものでしたか?内田 それは……訊かれると難しいっすね(笑)。
――メンバーから見て、出会った頃と比べて、内田さんに変化はありますか?
長谷部 僕は高校生の頃から一緒にバンドをやっていますけど、怜央は昔より詞に向き合うようになったと思います。高校の頃の怜央の作る曲は、1番と2番の歌詞が同じ曲が多くて、「なんで?」って訊くと、「面倒くせーから」って。でも、Kroiを結成してからは歌詞にすごく向き合うようになったと思う。
益田 精神性が見える歌詞が増えたよね。怜央が常々言っている「多様性を大事にしたい。解釈は人それぞれだから」っていうことも含めて、興味関心事が増えていく中で、その時々の考え方が歌詞に出ている感じがする。
内田 昔は「歌詞に意味がなければいけない」っていう様式美が最悪だと思っていたんですよ。でも音楽を続けていくうちに、自分が書く歌詞にどんどん意味がついてきてしまって……。どうしても意味が浮かんできてしまうんですよね。自分ではちょっと気持ち悪いんです。自分が嫌いだった大人に自分がなってしまっている感じがして。ただ、「そうなっていくんだよ」っていうことを、作品を通して子供たちに伝えたい気もする(笑)。「大人って仕方がないんだよ。いろいろ考えたくなっちゃうんだよ」って。
千葉 そうだよね。
内田 考えずにいられる人のほうがすごいなって思いますよ。俺は、考えずにい続けることに耐えられない。怖くなって、すぐに意味をつけちゃう。でも、それに抗うというわけじゃないですけど、歌詞を書く時、なるべく意図が伝わらないように書くんです。伝わりすぎると捉え方が限定されてしまうので、伝わらないように自分の想いを入れるっていう、謎の行動をしています(笑)。
――いや、でも、わかります。
内田 “shift command”という曲のタイトルが象徴的なんですけど、自分たちが提示するのは「シフト」キーと「コマンド」キーまでであって、その先で、あなたたちが好きなアルファベットを打ち込めばいいよっていう感じなんですよね。俺にとって、作品は聴いている人の頭の中でできあがるものなんです。なので、理想としては、作品を聴いてその人が思ったことを、その人の「正解」としてもらって、で、その正解を俺に教えてほしい(笑)。友達と話し合ってくれてもいいし、「こうなんじゃないか?」と勘繰ってくれてもいいし。いろんな正解があるのがいちばん面白いですから。
――何か特定のことを訴えかけたい、ということではない?
内田 提案みたいなことではあります。「こうしたら、もっと楽に生きられるんじゃない?」っていう。でも、それを人様に向かって「こうしたらいいですよ!」とわざわざ言うのはなんか違うなって。まあ、俺の曲は日記みたいなものだと思うんですよね。日記を書き起こすために曲を使わせていただいている感じです。
――1曲目“Balmy Life”の《混乱から逃れる術どこ?》というフレーズは、どういったところから出てきた言葉なのだと思いますか?
内田 “Balmy Life”は、コロナ禍になって、配信ライブがめちゃくちゃ多くて大渋滞していたじゃないですか。表現する人の多さで大渋滞を起こしている状況の中で、「本当に特別なものってなんなんだろう?」と思ったり。あと、そういうこと以外でも、世の中でいろんな混乱があったと思うんですけど、“Balmy Life”という場所だけは、混乱しない場所というか。混乱からの逃げ場所を作って、そこに自分を逃がそうと思ったら、この曲ができたんです。
現実逃避のためというか、生きていくための増強剤というか、そういうものだと思うんです、音楽って(内田)
――音楽に「逃げ場所」を求める感覚は、内田さんの根底にあるものですか?内田 あると思います。気づいたらそういう歌詞を書いているので。現実逃避のためというか、生きていくための増強剤というか、そういうものだと思うんです、音楽って。やっぱり面倒くさいじゃないですか、毎日仕事したり。コロナ禍になって「音楽やライブは生きることに必要のないものだ」という言われ方をすることもあったけど、俺はやっぱり、いちばん必要なのってエンタメだと思うんですよね。死ぬために生きるのであれば必要ないのかもしれないけど、そうじゃないですよね、みんな。そんなふうに生きたくなんてないじゃないですか。
――そうですね。
内田 人生を豊かにするもの……それは食事であったり、家族であったり、いろいろあると思うけど、やっぱり音楽や芸術、エンタメも、俺は人生を豊かにするものだと思うんですよね。
――今作の歌詞には「労働」をイメージさせる言葉も多いなと思いました。
内田 そうですね。僕は中学を卒業してすぐに機材を買うために高校に行きながらバイト生活をしていて、その時結構、ブラックバイトみたいな感じのこともやってきたんですけど(笑)、「世の中こういうのっていっぱいあるんだろうな。嫌だなあ」と思って。僕自身は大学を1年で辞めたんですけど、最近、同世代の周りの人たちが就活している姿を見て、大変そうだなと思うし。
――なるほど。22歳ですもんね。
内田 働くことに嫌な気持ちを抱いている人に対して、どうにかできないのかなって考えているフシはあります。別に、どうにかできると思っているわけではないけど、そういう部分は、ちゃんと見ていたいというか。音楽をやっていると、普通の感覚ではなくなっていくと思うんです。長い間音楽を第一線でやられている人の書く歌詞って、段々と現実味がなくなっていくような気もするから。もちろん、それはいい進化だと思うんですけどね。特別な場所で活動し続けてきた人にしか表現できないものはある。でも、その反面、現実から離れていく部分もあるなと思って。
――今の話もそうですけど、Kroiの音楽は、音楽的にとても華やかで快楽的でありながら、様々なことに対しての疑問符も常に抱えていますよね。今回のアルバムは、その疑問符がかなり明確に浮き彫りになっているアルバムという感じもして。
内田 それはあるかもですね。「疑う」ことは大事だなと思う。信じると、良くも悪くも視界は狭くなるじゃないですか。それによって集中はできるんだけど、周りが見えなくなって、知らないうちに何かにぶつかっちゃっていたりする。それは嫌なので、自分をちゃんと疑うことができる人になりたいです。
――話が遡ってしまいますけど、最初に名前が挙がった“夜明け”は、厚みのあるソウルフルなサウンドと、《もうじき朝が来る 正直まだ寝てない》という生活感のある歌詞のギャップが面白いですよね。
内田 ああ、それはふざけて作ったんで。
――ふざけて(笑)。
内田 ふざけることは大事ですよ。やっぱり、真面目にふざけられないとダメなんです。新しいことをする人って、大体、最初は「あいつ、ふざけてるな」と言われるんですよ。それが何年か経って「やっぱり正しかった」とか言われるわけで、マイケル・ジャクソンとか、最初はヤバいくらいふざけてるじゃないですか(笑)。でも、あれが「キング・オブ・ポップ」と呼ばれるようになる。最初に聴いて「ふざけてるな」と思われるような作品を作らないと、新しいことはきっとできないんですよね。
6月30日(水)発売の『ROCKIN'ON JAPAN』8月号にKroiが登場!
“Balmy Life”MV
●リリース情報
『LENS』
形態/品番/価格:
CD+DVD/ PCCA-06044/ 4,400円(税込)
CD Only/ PCCA-06045/ 2,970円(税込)
[CD収録曲](全12曲)
01.Balmy Life
02.sanso
03.selva
04.夜明け
05.Pirarucu
06.ichijiku
07.a force
08.侵攻
09.NewDay
10.shift command
11.帰路
12.feeling
[DVD収録内容](全18曲)
Kroi「3rd EP 『STRUCTURE DECK』Release Tour "DUEL”」 from 2021.03.27 Shibuya WWW X
01.Noob
02.Finch
03.Monster Play
04.Suck a Lemmon
05.dart
06.Mr.Foundation
07.Flight
08.侵攻
09.Never Ending Story
10.MAMA
11.Polyester
12.risk
13.Custard
14.Page
15.HORN
16.Network
17.Fire Brain
18.Shincha
[初回生産限定 封入特典]
オンラインライブ「Kroi "LENS" Acoustic Studio Session」視聴シリアルコード
「Kroi "LENS" Acoustic Studio Session」
開催日時:2021年7月7日(水)20時〜
イベント内容:Acoustic Studio Session
(※アーカイブは8月31日(火) 23:59までご視聴いただけます)
●ツアー情報
「Major 1st Album『LENS』リリース記念全国ツアー『凹凸(オウトツ)』」
[日程]7/4(日)北海道PLANT
7/10(土)横浜FAD (SOLD OUT)
7/11(日)千葉LOOK (SOLD OUT)
7/16(金)大阪バナナホール
7/18(日)名古屋SPADEBOX
7/30(金)福岡DRUM Be-1
8/1(日)京都 KYOTO MUSE
[追加公演]
8/27(金)東京 LIQUIDROOM
前売り 自由 ¥3,800(税込、ドリンク代別)
チケット受付URL:https://w.pia.jp/t/kroi-t/
提供:©PONYCANYON/IRORI Records
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部