【インタビュー】19年目にして渾身のセルフタイトル作完成──バックドロップシンデレラはなぜファイティングポーズを崩すことなく進化し続けるのか


稀有な存在感を放ち続けるバンドだ。結成から間もなく20年、ソリッドなロックサウンドを引っ提げて全国各地のライブハウスを飛び回りフェスを沸かす、生粋のファイターでありながら、「ウンザウンザ」を掲げるその音楽性はワールドミュージックからの影響も色濃く、中にはノリとアイデア先行型で思わず「???」となってしまう珍曲も多数。どんなバンドかと問われても、「一回観てもらったほうがいいです」としか答えられないのが正直なところである。

そんなバックドロップシンデレラが約10年ぶりのフルアルバム『バックドロップシンデレラ』をリリースしたのが今年の4月。ベテランの域に達しながらも着実に支持基盤を広げ続ける勢いそのまま、どうやらかつてない反響を得ている様子なのである。ならばなんとしても、その好調ぶりの要因を聞いてみたいではないか? ということで企画された本インタビュー。筆者が今年イチ「(笑)」を打ち込むハメになるほど弾みまくったトークの一部始終を、なるべくカット少なめでお届けする。

インタビュー=風間大洋


ステージに立てば全員一緒だと思ってるので、自分は今持っていて出せるものを出せたらっていうだけ(でんでけ)

──19年目にしてセルフタイトル、資料には「この作品がバックドロップシンデレラの全てだと思ってもらって構わない。」とあります。相当な自信や手応えが窺えますが、実際の反響も大きそうですね。

豊島“ペリー来航”渉(G・Vo) ライブの現場も、ネットとかサブスクでの反応も、今までになくいい手応えを感じております。

でんでけあゆみ(Vo) 新曲をフェスとかでやってもお客さんの反応がすごく早いです。前の曲よりも新しい曲のほうが、知らない人もどんどん入ってくるような感覚がありますね。

豊島 それはあるね。新曲で取り込めてるような感覚がある。

──それはバンドとしてとても健全なことですよね。

でんでけ めちゃくちゃ嬉しいです。

鬼ヶ島一徳(Dr・Cho) フルアルバムで曲数も多いから、普通結構飛ばしがちじゃないですか(笑)。でもちゃんと最後まで全曲聴いてくれてるなって気もして。

──最後の曲なんて「最後に入ってて誰も聴かないような曲」というコンセプトなのに(笑)。

豊島 これを最後にしたことによって、みんな「やっぱちょっと聴かなきゃ」っていう強迫観念はあるよね、たぶん(笑)。

アサヒキャナコ(B・Cho) あんまり聴かれないのかなって思う曲も、ライブでやってると知ってくれてて。

豊島 「あんまり聴かれないのかな」とか、バンドを長くやりすぎてだんだん拗れてきちゃってるよ(笑)。

──実際、バックドロップシンデレラは20周年目前のバンドですけど、ずっとジワジワと……と言ったら失礼ですが、停滞することもなく突然大ブレイクすることもなく、着実に評価を高め続けてると思うんですね。

豊島 全くもっておっしゃる通りで(笑)、ありがたいことにちょっとずつちょっとずつ数字が増えていて。10年くらい前から、その時できるフルキャパのワンマンを毎年やってるんですけど、その動員も本当にちょっとずつ増えているんですよ。Zepp Tokyoでやった時に1500~1600人くらい来て「成功だ」ってなったんですけど、ソールドはしてないので次の年もZeppでやろうとなって。当時言われたのは、そういう場合はソールドアウトするか、ごっそり減ってしまうか、ふたつに分かれるよみたいな。そうしたらなんか、前年より200人くらい増えたみたいで(笑)。これはすごく珍しいパターンだよっていう。

アサヒ 地道!(笑)

豊島 そういうことをずーっとやってます、今でも。

──その中でだんだん下の世代と交わることも増えてきて、バンドの立ち位置とか見られ方を意識するようにもなりました?

でんでけ ステージに立てば全員一緒だと思ってるので、自分は今持っていて出せるものを出せたらっていうだけで、後輩とか年下とか年上とか、その時ばかりはあんまり意識してないというか。下手したらやられるって、いつもどこかで思ってるので。どのバンドよりも絶対目立ってやろう、いかに目の前のお客さんを自分らに振り向かせるか?っていうことだけを意識してます。

豊島 後輩からしたら、こんな先輩嫌だと思いますね。妙にアクティブに動いてるし。

──ずっとファイティングポーズだし。

豊島 そうそうそう(笑)。年間120本とか普通にライブやってて、いろんな人に「大変ですね」とか言われるんですけど、意外と僕らはケロッとしてるんですよ。特別辛いことを歯を食いしばってやっているつもりはなくて。でもおそらく、歯を食いしばりながら80本くらいやってる後輩からしたら嫌だろうなと思う(笑)。

アサヒ 初っ端からずーっとそのくらいの本数をやっているので、逆にコロナ禍中とかあんまりライブできなかったりすると逆に調子悪くなるという。

豊島 ずっと同じメンバーでやってるので、ライブ一本に対しての合理化がすごくて(笑)。スポーツとかもたくさんやってるとフォームがよくなってきてカロリーを使わなくなるじゃないですか。移動とか、ライブ以外のまつわるものの合理化、簡素化がすごいから……って、こんな話をしに来たんだっけ?

アルバムになると結構バカな曲、逸脱した曲を作れるのが、まず単純に嬉しかった(豊島)

──「どんなバンドか」を知ってもらうにはこの上ないです(笑)。で、本題なんですが、コロナ禍以降は特に配信やEPでのリリースが続いていた中で、10年ぶりのフルアルバムを作るまではどんな流れだったんですか。

豊島 コロナ禍であまりライブができなくなってから配信の曲も少しずつ増えてきて、今作では“遊びにいきたい”がいちばん古い曲だと思うんですけど、制限ありでライブをするようなタイミングだったので、新曲を出してツアーを回りながらも様子を窺う、みたいな。それを2、3年くらいはやってたよね?

でんでけ やったね。

豊島 そうしているうちに、またお客さんも結構盛り上がってきて、集客も意外と前より増えてるんじゃないの?みたいな状態になって。そろそろちゃんとした盤を出そうかっていう時に、ここはちょっと気合を入れてアルバムにしたろうかっていう感じですね。数えてみたら10年ぶりになるんだっていうこともわかったので、これはやるしかねえ!と。10年ぶりって言いたいし、来年の20周年の手前で10年ぶりのアルバムが出るというのも素敵だなって。

でんでけ 1年ごとにアルバムを出してたらライブで曲を消化できなくなってきたのも、間が空いた要因だよね。このままだと曲がもったいないなって。

豊島 一生やらなかった曲もたくさんあるもんなぁ。

──いざ作るとなってから、どう組み立てていったんですか?

豊島 アルバムを作ろうとなったことで、気持ち的には楽でしたね。最近は作った曲をすべて配信しなければならないという縛りがあったから、要はその時のリード曲みたいな感じになるということを、無意識のうちに考えざるを得なかった。それがアルバムになると結構バカな曲、逸脱した曲を作れるのが、まず単純に嬉しかったんですね(笑)。そういう状態じゃなければ、おそらく最後の15曲目(“サイコビリーバンドのアルバムの最後ぐらいによく収録されている感じの曲”)とか6曲目の“南与野ラプソディー”とかは生まれないので。あとは当然、今までの配信を超えるクオリティのものも作って驚かせたかったから、1曲目の“暁のウンザウンザを踊る”とかは完全にアルバムの1曲目にしようと思って作ってます。

アサヒ 言葉の響きから「口がこれを言いたい」みたいなところでできた曲もあったよね。

豊島 “とんでけ鳥”は語感が好きで、昔すでにふざけた曲を作ってライブでやってたんですよ、盤にすらなってないんですけど(笑)。その曲があるにもかかわらず、“とんでけ鳥”というタイトルが好きすぎて全く違う曲に作り変えてしまった。


鬼ヶ島 すごい作り方だよねえ。

アサヒ “STOP!家族!”っていう曲も前にあって、その2として作ったのが“STOP!家族!2”だし。

豊島 “STOP!家族!”は糖尿病の兄貴が食べるのを家族が止めるという曲で、アルバムにも入ってたんですけど。何かの時にSNSで楽曲人気投票みたいなことをやったら、ほぼ最下位だったんですよ。好きな曲だったのですっげえムカついて、この世界観をもう一度知らしめたくて(笑)。


でんでけ あとは曲の長さとかも気にしなくていいから、楽しくて長くなっちゃうような曲はアルバムに入れてます。

──いわゆる「アルバム曲」の醍醐味ですね。

豊島 うん。かなり遊べたなと思いますね。“サイコビリー~”も、歌詞だけじゃなくアレンジもサイコビリーにしたかったんで、すっごい長ったらしいんですよ。今の感覚だとこうはならないことは、もちろん僕らもわかってるんですけど、「いや、サイコビリーだったら絶対ここを繰り返すだろう」って。歌い出すまでひたすらドンドコドンドコ……何もないんだ!?みたいな(笑)。

1曲目は「このアルバムをちゃんと聴けよ」っていう選手宣誓というか、まずは背筋を伸ばせというところ(豊島)

──似た傾向の曲として“南与野ラプソディー”もありますけど、これはなんでこの内容なんですか?

豊島 もともと埼玉県の3市合併(現・さいたま市)に反対するというスタンスをとっていて──それはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが好きなので、反体制への憧れから合併にでも反対してみようかな?ということなんですけど。

アサヒ もう合併されたあとにね(笑)。

豊島 そのあともちょくちょくさいたま市の曲は作っていて、久々にアルバムを作れるならまた作りたいっていうのがまずあって。プラス、歌詞でも言ってるんですけど、トップシークレットマンっていうさいたま市の後輩バンドと対バンした時に、3市合併断固反対の曲をやったんですけど、話を聞いてみたら彼らは若すぎて合併のあとに生まれてて。生まれた時から「さいたま市民」の……“戦争を知らない子供たち”みたいな(笑)。「俺は長いこと、一体何を歌ってたんだ?」って衝撃を受けたことがきっかけでした。ボーカルをキャナコさんに歌ってもらおうと思いついてからは、かなりペンが走りましたね。

アサヒ 歌詞が多いんで、今でも大変な思いをして歌ってます(笑)。内容は非常に……重要なことは一個もないんですけど。

──でもなんというか、どの都道府県に住んでいても、立ち位置としてこの南与野みたいな街って心当たりがあると思うんですよね。

豊島 ああ、みんな各々のラプソディーとして、自分だけの駅を思い浮かべたらいいのかもしれない。

──そういう面白い曲もある一方で、さっきも話に出た“暁のウンザウンザを踊る”は、20周年を前にあらためてバンドとしての姿勢を打ち出した曲だと受け取りました。

豊島 アルバムなのでふざけた曲が多くなるのはわかっていたんですけど、僕らもこう見えて音楽を非常に愛してまして、一曲目は「このアルバムをちゃんと聴けよ」っていう選手宣誓というか、まずは背筋を伸ばせというところではありますね。僕らは世界各国のワールドミュージックが好きで、そういう曲を聴いていると、言葉とかはわからなくてもその国がどういう国なのか──特に戦争とかをしていると、どういう想いで作ったのかという感情が歌や楽器から読み取れるような気もしておりまして。そこが音楽のすごいところだなと思うので、そういう気持ちも入れてます。


──“ただそんな日々が続いて”も、今感じてる心情とリンクした曲なのかなと。

豊島 そうですね。“暁のウンザウンザを踊る”ほどスケールが大きくはないんですけど。タイトルの通り、ずっとこればっかりやってきたな、繰り返してばっかりだけど繰り返してることが嬉しいっていう。説明するのは難しいですけど、あまり飾らずに書けているのがいいなと思うし、好きな曲ですね。


──せっかくなので、それぞれのお気に入り曲なんかも聞いてみたいです。

アサヒ “あやかし”をわたしは気に入ってて、歌詞も曲も好きです。これは唯一まだライブでやっていないんですけど……やるんですかね?

豊島 難しいからねえ。“あやかし”は作るのにも時間がかかってずっと練り続けていたし、僕ら的に新しいことにも挑戦してるんで。

──いちばん国籍不明な感じがあります。

豊島 そう。そうなんですよね。今後こういうのをさらにできたらいいなというか、この曲はまだ伸びしろがあるな、まだいけるみたいな感覚も実はちょっとあって。

“とんでけ鳥”のギターリフはすごくいいなと思ったので、しっかりいいものにしたいという気合があって(豊島)

鬼ヶ島 僕は“クレイジー☆ビート”が個人的に好きです。MVもこれまでと違う感じというか、肩の力が抜けていて。ライブでやっても他の曲とは違う感じの盛り上がり方をするので。

──ちょっとキラキラした曲ですけど、サビ終わりの《輝いていた》の「た」の一音に哀愁を感じるんですよね。

鬼ヶ島 ああー!

豊島 そうなんですよ。あそこでEマイナーに落ちますからね。メロディが上がったり下がったりしながら、そこまで下がるんだ?っていう。


──あゆみさんはどの曲がお気に入りですか?

でんでけ 僕は“ど~なのアメリカ”がめっちゃ好きです。これは聴いた時から最高だと思いましたね。

豊島 そうなん? どこが?

でんでけ 歌詞。食費や旅費が高いとか、ただアメリカに行った感想だけど、ちょっと泣ける感じで歌うのがいいなと思いました。頭に残るんですけど、歌詞はふざけてて気持ちよくなる、みたいな。たまに勝手に頭の中に流れるんですよ、嫌ですけど(笑)。

──確かに、この曲は耳と頭に残るかも。でもこの曲は配信してる曲ですよね?

豊島 配信してても全然ふざけてますね(笑)。アメリカってやっぱりどこでも景色がいいので、スマホで何撮ってもMVになるからタダで作れるなっていうことで、一回アメリカの曲を作ったんですけど。また1年後に行くことが決まったので続編が作れるぞという感じでした。ちゃんと導入からオチまでスパッときれいに決まったなと思います。


──渉さん自身としてはどうですか、特に思い入れのある曲は。

豊島 やっぱ“とんでけ鳥”ですかね。“あやかし”もそうですけど、“とんでけ鳥”も新しいと思っていて。キャッチーだけど嫌な感じがしないと思いますし、あとはMVもすごくよかったので。監督さんと漫画家の押切蓮介さんにお願いしたんですけど、そのハマりっぷりにひとり感動しまして。しかも押切さんも曲を聴いてかなり前のめりに作ってくれたので、そこも少し特別な気がします。

──和のファンクみたいな印象もありました。

豊島 嬉しいですね、それはすごく。もともとギターリフから曲を作りたい気持ちは結構ありまして、とはいえなかなかいいものが出てこないんですけど、“とんでけ鳥”のギターリフはすごくいいなと思ったので、しっかりいいものにしたいという気合があって。歌詞もアレンジもレコーディングもMVも、全部がバシッと決まったのでよかったなと思います。

アサヒ リフ自体はかなり前からあったけど、いろいろチャレンジしていちばん時間がかかったかもしれないです。

豊島 「こんな展開ではこのリフは使わせてあげられない」みたいな。

──タイトルもリフも、長年温存していたものを投入したんですね。

豊島 そうです。このリフが気に入ってるから、タイトルも長年いちばん好きな言葉にして。

──まさにキャリアの結晶じゃないですか。

豊島 すべてだと思ってもらって構いません(笑)。

──最後に、来年の20周年に向けての心境も聞いておきたいです。

でんでけ まずはいつも「今日のライブで自分の最高を更新できたら」と思ってやっていて、それがたまたま続いてきてるから、このまま続いていけばいいなと思います、怪我せず病気せずに。

アサヒ まだ言えないこともありますけど、「20年です!」っていうこともやれたら嬉しいですね。

豊島 10周年の時はまあまあ騒いだんですけど、15周年は何かやろうと思ったらコロナ禍でそのまま終わっていったからね。せっかく20年やってきてるんで、最近はライブに足を運べてない人とかにも、何か届くようなことがやれたらなとは思います。知ってる人、全員集合!というか、まだ元気にやってますよということを、できるだけたくさんの人に伝えたいなと思います。

●リリース情報

8th Full Album『バックドロップシンデレラ』

発売中
税込価格¥3,630/品番:NAFR-1132

●ツアー情報

8th Albumリリースツアー「バックドロップシンデレラとウンザウンザを踊るツアー」

▼日程
ゲストあり公演
6月19日(木) 山口・周南 LIVE rise SHUNAN
6月20日(金) 福岡・OP's
6月21日(土) 大分・club SPOT
6月22日(日) 熊本・Django
7月12日(土) 栃木・宇都宮 HEAVEN'S ROCK VJ-2
7月14日(月) 兵庫・神戸太陽と虎
7月15日(火) 岐阜・柳ヶ瀬ants
7月21日(祝月) 神奈川・横浜 F.A.D
8月1日(金) 石川・金沢 vanvan V4
8月2日(土) 富山・Soul Power
8月3日(日) 長野・CLUB JUNKBOX
8月21日(木) 福島・郡山 PEAK ACTION
8月22日(金) 盛岡・the five

東名阪ワンマン公演
8月16日(土) 大阪・GORILLA HALL
8月17日(日) 愛知・名古屋 DIAMOND HALL
8月31日(日) 東京・ZEPP HANEDA ※TOUR FINAL


提供:株式会社ナチュラルアフロレコード
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部