【インタビュー】大きな愛と祈りが降り注ぐ──Furui Riho、強力な1曲が完成! TVアニメ『CITY THE ANIMATION』主題歌“Hello”に起きた「奇跡」を語る

この歌が今、マスメディアを通して日本中に鳴り響くことがどれほど幸福であるかを噛み締めている。あらゐけいいち原作のTVアニメ『CITY THE ANIMATION』オープニング主題歌である、Furui Rihoの“Hello”。そもそもゴスペルをベースにしたJ-POPがこの時代にアニメ主題歌として流れること自体が画期的で、それでいてアニメ作品全体に漂う特別な温かさとのマッチング具合は目眩がするほど。《雨は上がって 一緒に歌って/手を繋いで》など、シンプルな日本語をゴスペルに昇華したその音楽は、混沌とした2020年代を生きるすべての人へ愛と祈りが降り注ぐものとして完成している。

そして“Hello”と併せてリリースされたのが、Furui RihoがA.G.Oとともに作り上げた“ちゃんと”。休むのが下手で真面目に働くあなたや、人に迷惑をかけないように気を遣いすぎているあなたへ、「ちゃんと」という語感をユーモラスに昇華したチャントを届けてくれている。

最近ではUNIQLOのWEB CMに出演し、UNIQLOの店内でも彼女の姿を見る。「いいチャンス」と「いいモード」が絡み合った時に、アーティストは階段を何段も駆け上がれるものだと思っているが、今のFurui Rihoはまさにそんなゾーンに突入しているように見える。

インタビュー=矢島由佳子


とにかく「楽しい」を見せたい、子ども時代の無邪気さみたいなものを表現したい。ただ明るいだけじゃなくて、ほっこりして泣けるような深みがある曲にもしたかった

──“Hello”、最高の1曲ができあがりましたね。Furui Rihoらしさ全開な曲で。

もうまさに。本当にそうですね。

──それが『CITY THE ANIMATION』のオープニングとしてテレビから流れてきて、初回放送からグッときました。

グッときましたね。かぶりつくように観て感動しました。曲を作り始めたのは23年12月だったんですよ。リリースされるのは相当先だなと思って、ずっと待ち望んでいました。初めてのアニメタイアップだったから並々ならぬ想いで、作るのにも苦労したし。しかも京アニ(京都アニメーション)の久しぶりの完全新作で、ファンの方々の期待を裏切れないなとも思っていたので、無事に仕上がって、自分の中でも大切な1曲になったと思えたことが嬉しかったです。

──そもそもタイアップが決まった経緯はどんな感じだったんですか?

スタッフから「Furui Rihoが『CITY THE ANIMATION』の主題歌の候補に挙がっています」って言われたんですけど、最初は全然期待していなくて。そういう話って流れることも結構あるんですよ。だから「期待しない!」みたいな(笑)。そうしたら数週間後に「決まりました」って言われて、「本当ですか? 私でいいんですか?」って思いましたね。世の中にはたくさんいいアーティストがいるのに、私でいいのかなって。

──決まったのが23年12月の前ということは、まだアルバム『Love One Another』も出してないし、三浦大知さんとのコラボやUNIQLOの仕事とかもない時期で、そこまで確固たる自信もない頃というか。

そうですね。だからなおさら「私でいいんですか?」という気持ちでした。

──Rihoさんのどういうところに作品との親和性を感じて選んでくれたのか、制作サイドから何か聞きました?

京アニのスタッフさん、石立(太一)監督、あらゐ先生と打ち合わせした時に「“LOA”みたいな曲、というかむしろ“LOA”がいい」って言われたんですよ(笑)。“LOA”はゴスペルっぽさもあって、自分らしさをすごく出せた曲だったので、そういう自分の得意な方向でやればいいんだなと思って。それは嬉しかったし、やりやすかったですね。その打ち合わせであらゐ先生が話していたことを録音して、それを聞き直しながら歌詞を作ったりしていました。


──あらゐ先生はどんなことをおっしゃっていたんですか?

とにかく「楽しい」を見せたい、子ども時代の無邪気さみたいなものを表現したいと。『CITY』は「ガールズ・ラン・コメディ」というキャッチコピーなんですけど、みんなが走り回って、どんどん展開が変わって、他のことを考える余裕がないくらいずっとクスクス笑いながら一気に観てしまうような──とにかく楽しさがぎゅっと詰まった、無邪気で素直なキャラクターたちのお話だったので、先生の言っていることはすごくわかって。あとは、老若男女が楽しめてみんなでシンガロングできるようなイメージとも言っていましたね。ただ明るいだけじゃなくて、ノスタルジーな感じが切なさに繋がるというか、ほっこりして泣けるような深みがある曲にもしたかったんです。そうやって、頭の中にどんどんピースが集まって、その打ち合わせの時にはなんとなく楽曲のイメージが浮かんでいました。

みんなでひとつになって笑って過ごせたらどれだけいいだろうっていう、そういう願いも込めて作りました

──打ち合わせ時点でピースはいろいろとあれど、それを具現化していくのが大変じゃなかったですか?

そうなんですよ。持ち帰って、「これをどうやってはめていこう?」みたいな。打ち合わせの数日後、当時は北海道に住んでいたので東京のホテルに泊まっていて、荷物を片付けていたら急にバッて曲が降りてきて。頭の中で鮮明に聞こえてきたんですよ。それを忘れないようにと思って、急いでスマホのボイスメモに残しました。

Live photo by mofu
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──それは、サビが出てきた感じだったんですか?

もう、曲の頭から出てきました。聴きます?(と言って、当時録音した、手でリズムを叩きながらメロディ、ピアノ、ベースを口ずさんだ音声を聴かせてくれる)

──すごい! この時から曲の全体像があったんですね。ほぼ《Hello, Dear my friends》って言っているし。

そうそう。だからこの曲は天から降ってきた贈り物みたいな感じがします。

──アニメみたいな話ですね。しかもRihoさんのこの歌には、大人が子どもに紙芝居を読んであげるような温かさや安心感、包容力や優しさがあるなあと思って。それがアニメ全体やオープニング映像に合っていて、すごくいいなと思ったんですよね。

嬉しいです。本当に、みんなをハグするような気持ちで書きましたね。歌い方の部分では、あらゐ先生がみんなで歌いやすいようにと言っていたので、日本語をよりはっきりとクリアに、まっすぐ歌うことを意識しました。自分の頭の中では、みんなが手を取って笑っている姿が浮かんでいて、たくさんのファンの方がこの作品を期待して待っていることもわかっていたので、みんなが再会して手を繋いでワアッてやっている感じをすごく出したかったんですよ。みんなでひとつになって笑って過ごせたらどれだけいいだろうっていう、そういう願いも込めて作りました。愛が積み上げられていった歌詞になったし、ただ「表面だけ楽しい」ではないということが、歌声と歌詞で伝わってくれたら嬉しいなと思います。

──アニメのオープニング映像のラストは、まさに今おっしゃったような画じゃないですか?

そうなんです。本当に、想像していた画が来たんですよ。映像を見た時、私の曲が完結したと思いました。歌詞に沿って絵を作ってくださっていて、それ自体もすごく感動したし、私が伝えたかった想いを京アニスタッフのみなさまが受け取って広げてくれた感じがすごくあって。『CITY』という素晴らしい作品を邪魔せず、プラスになれるように関わりたいと思っていたんですけど、それを抱きしめてもらったというか、自分も一部にしてもらった感覚ですごく幸せでした。


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自分がどれだけ足りない人間でも、目の前にいる人を大切に愛していれば、その愛は無駄じゃない

──今の世の中に対して《雨は上がって》ってサビ頭で歌うのは、結構な勇気と思い切りが必要ですよね。それを「祈り」がルーツにあるゴスペルの中で歌っているからこそ、ただ「楽しい」とか「明るい」ではない、人の身体を芯から温めるような愛のある歌になったんじゃないかなと思います。

祈りみたいなものはめっちゃ込めました。自分のルーツはやっぱりゴスペルで、自分にしかできないところかなとも思うので、そこは出していきたいなって思っています。

──しかも『Love One Another』で「自分を愛そう、許してあげよう」というテーマに到達したあとだから出せた表現力なのかなとも思いました。

それは確かにあるかもしれないです。『Love One Another』は、自分に向けて音楽をやっていたのと、人に向けて音楽を書き始めた、その中間地点のアルバムなんですよ。だんだん誰かに向けて曲を書くことが多くなってきて、“Hello”はその究極かな。相手が誰かひとりじゃなく大人数で、たくさんの「誰か」に届いてほしいという想いがいちばん凝縮しているというか、ここまでは初めてかもしれないですね。

──なぜそこまで人に向けて歌を書こうという意識になれたんでしょうね。

19年に初めて“Rebirth”を出した時はとにかく自分が嫌いで。お金もなかったし、売れてもないし、自分の価値が最低ラインだったので、なんとか自分を好きになりたい、自分の価値を高めたいと思って作っていた曲ばかりでした。歯を食いしばっていくぞとか、自分のことは嫌いだけど好きになろうとか、自由になろうとか、自己実現や自己承認、自由への渇望だけを描いてきたけど、『Love One Another』くらいからもうそれが叶ったんですよ。自分のことを好きになったんです。一つひとつ経験して、失敗もして、周りのスタッフが支えてくれたり、たくさんの人に聴いてもらったことで自信を持てて、どんどん自分の心の中のコップが満たされていったんですよね。曲で満たす必要がなくなったので、じゃあどうするかというと、コップから溢れた愛を誰かに向けるような曲を書く、という方向に自然とシフトしていったんだと思います。みんなからもらったり、自分で注いだりした愛を、次は人に使おうっていう感じかな。

──今のRihoさんが歌うから、“Hello”は愛や祈りが降り注ぐような空気感を出せたということですよね。でも、どうやって自分の心の中のコップを満たせたんだと思いますか? それって、めちゃくちゃ難しいことですよね。

難しくて、私もだいぶ時間がかかりましたね。1回ガーンって落ちた時期があって、その時はもう「死にたい」みたいな、それから10年近くはずっと空っぽでした。自分に嘘をつかなくなってから、(コップに)溜まり始めたんだと思います。かっこつけたい人間だったので、たとえば「歌が上手いと思ってもらうように歌う」とかを考えていたんですよ。そうじゃなくて、“嫌い”で歌っているみたいに、足が短い、顔が丸いとか、弱いところも全部さらけ出したほうが生きやすいと思ったんですよね。かっこつけなくていいと思ったら、いつでも失敗できる自分になれるし、無理せず自然体でいられるようになって、そこから毎日がめちゃくちゃ楽になりました。

──その感覚はすごくわかるというか。私も20代の頃って、かっこつけたがったり、失敗を重く捉えすぎたり、自分の地位とか周りからの評価を、誰も気にしてないのに自分がいちばん気にしちゃったりして。

そうそう。「嫌われたくない」みたいな気持ちも昔はすっごくありました。完璧な人間なんてひとりもいないし、失敗するのは当たり前で、全員に好かれることは無理ということに本当の意味で気づいた時に、「じゃあもっと自分らしくいていいんだ」って思い始めましたね。自分がどれだけ足りない人間でも、目の前にいる人を大切に愛していれば、その愛は無駄じゃない。それはいつか返ってくるものだとも感じるし、もし愛して大切にしたけど嫌われたのなら、それはその人の人生にとって私は必要ないということだから、別にそこに執着する必要はない。私はありのままでいて、目の前の人を大切に愛する努力をしていれば、結果、周りに愛される人間になれるんじゃないかというような期待をしています。

──きっとそれはただ期待だけじゃなくて、そうなんだという実感を少しずつ得てきたから信じられるんでしょうし。

やっぱり愛すると返ってくるということを実感しました。自分も完璧じゃないから、完璧じゃない自分を許してもらった時にすごく感謝しますよね。だから相手が何かミスをしたり、傷つけられた時も、受け止めて許す努力をしたいなと最近は思ったりします。

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「ちゃんとしなきゃ」と思っていた自分を、「ちゃんとしなくていいよ」「80%くらいでいい時もあるよ」って許してあげる歌であり、もし悩んでいる人がいたなら「大丈夫だよ」って言ってあげたい

──カップリング曲の“ちゃんと”もまた、私としてもすごく共感しちゃう曲でした。

これは働く人たち、真面目な人たちに届いてほしいですね。

──Rihoさんも休むのが下手で、真面目すぎるくらいに頑張っちゃうタイプですか?

そうですね。去年の秋くらいに、ぶっ壊れちゃって。去年、夏頃から120%くらいで頑張っちゃってて、気づいたら爆発して⋯⋯東京に来て1年目だったので、すごく頑張りたいけど、環境も音楽に対する働き方も全く変わったし、うまいバランスの生活の仕方がわからずにごちゃごちゃっとなっちゃって。「これじゃダメだ」って思って、120%じゃなくて80%で生きようって、仕事への向き合い方も考えるようになりました。余白を作ることの大事さをすごく実感した数ヶ月だったんですよね。今も120%で頑張っちゃう日もあるし、余白を作りすぎる日もあるんですけど、なんとかバランスを保ちながら生活することの大事さを考えている中でできた曲です。「ちゃんとしなきゃ」と思っていた自分を、「ちゃんとしなくていいよ」「80%くらいでいい時もあるよ」って許してあげる歌であり、もし悩んでいる人がいたなら「大丈夫だよ」って言ってあげたい歌ですね。

──今、品行方正を求められすぎるくらいの時代で、みんなが「ちゃんとしなきゃいけない」と縛られている状況で。そういう時代に、「ちゃんと」という言葉をあれだけユーモラスで楽しい音楽にして投げているのが、とても素敵だなと思います。

《「ちゃんと」》の歌詞は、最初「ジャングル」だったんですよ。別の言葉がないかなと思っていたら「ちゃんと」が出てきて、「今の私に必要な言葉だ」と思って、そこからわりと悩まずに書いた覚えがあります。

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──今はアーティストとしてもひとりの人間としてもいいモードで、そこに大きなチャンスもきて。アーティストにとっていちばん幸せな掛け算ができているタイミングだというふうに見えていますけど、実際はどうですか?

私もそう思います。やっときたというか、ここまで長かったなって。“Hello”は今までの活動を全部肯定してくれるような曲で──今まで作った曲の中でいちばん好きなんですよ。自分らしさも出せたし、自分で作り出したというよりかは降ってきた感じがあったので、特別なパワーがあるように感じているんですよね。私のおばあちゃんが2年前に脳出血で倒れちゃって、今病院でほとんど寝たきりなんですけど、この前お母さんが病院で“Hello”を聴かせたら、だんだん目が開いてきて「うわー」って言ったらしくて。お母さんもびっくりして泣いて。

──それはこの音楽に宿っている力を感じさせる話ですね。

そういう意味でもこの曲に何かパワーを感じるんですよね。UNIQLOのタイアップをやったり、Zeppツアーができたりと、ちゃんと階段を上がるように少しずつ世の中から認められてきたのかもなとは思っていて。そのタイミングで“Hello”を出せたので、25年は特別な1年になるんじゃないかなという感じがします。

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発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』9月号にもFurui Rihoのインタビューを掲載!
JAPAN最新号、発売中!SUPER BEAVER/別冊 UVERworld/SEKAI NO OWARI/あいみょん/Vaundy/クリープハイプ/キタニタツヤ/おいしくるメロンパン
ROCKIN'ON JAPAN 9月号のご購入はこちら 7月30日(水)に発売する『ROCKIN’ON JAPAN』9月号の表紙とラインナップを公開しました。今月号の表紙巻頭は、SUPER BEAVERです。 ●SUPER BEAVER 僕らのライブが切り開いた20年── …

●リリース情報

CD+Blu-ray
4,400円(税込)
発売中

<収録曲>
1. Hello(TVアニメ『CITY THE ANIMATION』オープニング主題歌)
2. ちゃんと(フジテレビ系『ジャンクSPORTS』エンディングテーマ[7月~9月])
3. Hello(TV ver.)
4. Hello(Instrumental)

<Blu-ray>
2025年3月14日に開催した初のZeppツアーからKT Zepp Yokohamaのワンマンライブの模様を収録


●ツアー情報
Furui Riho Live Tour 2025 “Dear my friends”
2025.9.7(sun) 神奈川 横浜Bay Hall
2025.9.13(sat) 北海道 函館club COCOA
2025.9.15(mon/h) 北海道 小樽GOLDSTONE【SOLD OUT】
2025.9.20(sat) 宮城 仙台MACANA
2025.10.4(sat) 福岡 DRUM Be-1
2025.10.11(sat) 香川 高松DIME
2025.10.18(sat) 名古屋 NAGOYA CLUB QUATTRO
2025.11.2(sun) 広島 SECOND CRUTCH
2025.11.3(mon/h) 岡山 IMAGE
2025.11.6(thu) 北海道 PENNY LANE24
2025.11.15(sat) 大阪 BIGCAT
2025.11.24(mon/h) 東京 EX THEATER ROPPONGI


●イベント
2025.10.11(sat)-13(mon/h) FM802 MINAMI WHEEL 2025
2025.10.26(sun)第7回京都アニメーションファン感謝イベント『私たちは、いま!! ー京アニのセカイ展ー』


提供:LOA MUSIC / PONY CANYON
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部