前作『太陽歩行』からおよそ1年半のスパンで届けられた4枚目のフルアルバムに、これからズーカラデルがバンドとしてますます強固な存在感を放っていきそうだという、期待感とワクワクを禁じ得ない。セルフタイトル作『ズーカラデル』の「2」にする案があったというのも納得の、彼らが好きなものや美しいと感じるものと忠実に向き合った傑作。この一枚に『ポイントネモ』という名前がついたことはまるで、これまでの活動の答え合わせのようじゃないか。
言葉の意味の説明はインタビュー内に譲るが、吉田崇展(G・Vo)の歌い続けてきた孤独感や人生観や愛情に、これほどハマるタイトルはそうないと思う。なぜ『ポイントネモ』だったのか、『ポイントネモ』になったことはどう作用したのか、そのあたりをじっくりひもとくとともに、「これまでは出てきてなかったけど確かににしっくりくる」要素や「バンドをやってるからにはやっぱりそこにグッとくるよね」といったポイント、思い切りよく突き抜けた遊び心までが随所にちりばめられた楽曲群の制作風景についても訊いていく。
インタビュー=風間大洋 撮影=オバタチヒロ
──去年3月にアルバム『太陽歩行』が出て。そこから今作への出発点はいつ頃だったんですか。そもそもなんで曲を作ってるんだっけ?とか、なんでバンドやりたいと思ったんだっけ?みたいなことを問いただしていった(吉田)
吉田崇展 アルバムが出たあと、5月くらいには「とりあえず1000本ノックでたくさん曲を作りましょうか」みたいなことを言い始めて。
鷲見こうた(B) 1000本ノックの2本目にあたるのが“バードマン”で。
吉田 1本目が“デク”ですね。結局は1000本ノック、すぐやめちゃったんですけど(笑)。
──その時点では「次はこういうものを」というより、とりあえず手を動かしてみようかというような?
吉田 一回いろんなものをフラットにして、自分たちの好きなものや得意なものを出した曲を、まずは1曲作ろうじゃないかというふうに動き始めました。
──『太陽歩行』の受け入れられ方が、自分たちの気に入り具合ほどではなかったと以前話してくれましたけど、そのこともどこか意識はしていたんですか?
吉田 やっぱり曲の大元、コンセプトとなるものを出す時にはずっと頭の片隅にありましたね。どうやったら人に働きかけられるだろう?という追求ではなく、より本能に近い部分でやりたいなという思いはあって。よりプリミティブというか、論理じゃなく情緒みたいな気持ちでやってた気がします。最近は、ずっと辿り着きたかったけどどうやったらいいかわからなかったものに、ちゃんとパーツを積み重ねていくことで到達できるようになってきていて。そういう意味では自分たちの円の中心からできるだけ遠く、手の届くギリギリを狙った曲が多かったけど、逆に今回は円の中心に近いところで純度の高いものを、という気持ちがありました。『俺の中で最高』なものをバンドで演奏すれば、さらに最高になるだろうという気持ちで。
──自分の中のリスナー視点を重視したということですか?
吉田 その逆かもしれないです。リスナーとしての今の気分とか「2024年にこういう音楽が聴きたい」みたいなものに向かっていくよりも、そもそもなんで曲を作ってるんだっけ?とか、なんでバンドやりたいと思ったんだっけ?みたいなことを問いただしていったのが、今回の個人的な心の動きでした。
鷲見 その結果として、デモ作りがめっちゃ楽しかったのはありました。周りよりも自分のワガママに作ってみようというタカピー(吉田)の姿勢に乗っかるじゃないけど、僕も自分が試したいことをやってみようというか。たまたま今聴いている曲のこういう音色を試したい、こういうエッセンスを取り入れてみたい、みたいなことをあまり相談せずに入れて。意外とそういうのって大きく逸れていかないというか、普段3人で話してても「おもろいね」って思うポイントが合致するから、一緒にやっていてストレスを感じない部分もあるんだろうし。それぞれが引っ張ってきた面白いものをその場に出したら、結構みんな面白がってくれたので、過去作以上に余計なことを考えずにやれたと思います。
──結構フレッシュな、1周目みたいな作り方ですよね。自分たちの真ん中に行きたいみたいな部分で、今まで以上に強い気持ちを持ってるんだろうなって(山岸)
鷲見 そうですね。10周年だからってわけでもないんですけど、周期的に「今までがこうだったから、そのアプローチはしばらく控えようかな」みたいなことを一切考えず、いちばん最初に出たアイデアをそのまま活かすような作業でした。他の楽曲と似通う部分があったとしても、それが楽曲に対してのいちばんのアプローチなんだったらあまり気にせずに。
山岸りょう(Dr) あと、今回はデモに対して「もう一歩いけそうだけど、まだ足りない気がする」って吉田が言うシーンが多かったなと。それで一旦置いておくかってなったり、何時間もかけたけど結局その日の最初の形に戻すとか、そういう日も結構あって。さっき言ってた、自分たちの真ん中に行きたいみたいな部分で、今まで以上に強い気持ちを持ってるんだろうなって感じたりもしました。
吉田 確かに。それを口に出す回数が今回多かったのは、いつも以上に自分のイメージやゴールの像を大事にしたいと思って制作していたからで。「もう一歩いきたい」って言ってる時でもたぶん、別の角度から見ると「今の状態がベストじゃない?」って言える瞬間はたくさんあったと思うんですけど──。
山岸 それだと方向性がちょっと違う、みたいな?
吉田 そうだね。それ自体が音楽として悪いわけはないんだけど、ちょっと違う角度も見えているなら、そこをちゃんと目指したほうがいい気がする!と思いながら今回は制作してました。
──俯瞰より主観重視で。
吉田 はい。もともとバンドでやりたいのは、自分の視点じゃない何かが見えるのがいいとずっと思ってきたからなんですけど、それにしたって自分の最初の気持ちもあるよねっていうふうにあらためて思い直したというか。なのでしつこく、自分の心根の気が済むまでは主張を続けようというタームではありましたね。とはいえ、自分の細かいジャッジの一つひとつすべてに自信をもって生きてるわけではないので、話し合って音を出し合って、リアルタイムで更新しながら考えていきました。
──作品の全体像はいつ頃見えてきました?
鷲見 曲だけで言うとこの倍はあるので、アルバムとして組むことは結構前からできたことはできたけど、多分タカピーはそこから引っ張ってくるよりも、今作りたいものを持ってきていて。“猫背”とかもそうだし。
吉田 確かに。去年末くらいから一気にダダダッて作った曲が、結構入ってるかもしれないね。
鷲見 結局そういう曲がバンド内でも「いいじゃん」ってなったりもしたから、最終的にアルバムの形が整って見えてきたのは本当にレコーディングに入る直前とかで、それまではずっと新しい曲を触る作業をしてたんじゃないかな。
山岸 レコーディングも3回くらいに分けてたし、最後が4月くらいか。
吉田 作品としていいものにできそうだと思えたのは、そのくらいになってからでした。
──完成に向けて最後のほうでハマったピースはどのあたりでしたか?
吉田 それこそ“ポイントネモ”とか。
鷲見 “ムーンライトにお願い!”も、収録するか否かを結構ギリギリまで迷ってた気がする。それこそ、いいけど一歩届いてないみたいな期間が長かったのは“ムーンライトにお願い!”じゃないかな。サビのメロディとか最終的にはコード進行も変えて。
──この遊び心みたいな要素は最初からあったんですか?
吉田 その遊び心をどうやって出すんですか?みたいなのも考えましたね。どこまでキラキラしていいのか、はたまたもっと汚いほうがいいのかとか、最適なポイントをめっちゃ探した曲ではあります。
──結果としてめっちゃ面白いですよ。
吉田 面白いですよね(笑)。レコーディングもすごくうまくいったし、リズム隊がすごくいいプレイだったなって。気に入ってます。
──この曲、ドラムは打ち込みも使ってますか?
山岸 使ってないんです。アルバム前に新しいドラムセットを買ったんですけど、それがうまくハマって嬉しいなって(笑)。パーカッションは今まで別録りで入れることが多かったんですけど、この曲に関してはドラムセットに組んじゃって、なるべく通しでパーカッションまで叩こうという試みをやってみたりして。自己満足の領域だとは思うんですけど、聴いてみると統一性があってアリだし、新しいアプローチになったなと思います。
──それによって出るグルーヴもありそうですよね。そして、アルバムタイトルにもなった「ポイントネモ」という言葉が素晴らしいですね。陸地から最も遠く、それゆえに生物もあまりいない、だから役目を終えた人工衛星の墓場となる場所。そこには悲哀やロマンなどいろんな感覚を覚える余白もあって。この存在は元々知っていたんですか?産まれてこのかた一度たりとも人の気持ちをわかったことがないなって思っているんですよ(吉田)
吉田 いや、知らなかったんですよね。何気なくネットで調べてる時に「ポイントネモ」っていう単語が見えて、なんかいかにもかっこつけた言葉だなと思って調べてみたらめちゃくちゃ……親近感っていうわけでもないんですけど、この言葉の裏側に勝手にいろんなものを感じてしまうなって。そんな気持ちを持ちながら歌詞とかを書いてたら、だんだん「このアルバムの名前かもしれないな」と思ったりして。
──自分のどんな部分とシンパシーを感じたんだと思います?
吉田 人がいる場所からいちばん遠い場所、いちばん関係ない場所に名前がついてることに、まずすごくハッとして。……産まれてこのかた一度たりとも人の気持ちをわかったことがないなって思っているんですよ。思ってもないことを告げられてビックリすることもあるし、こう思ってるんだろうなという想像の的が外れてたり、なんなら一つひとつの言葉の意味も勝手に解釈してるだけで、俺と今まで出会った誰しもが別の世界の存在同士だよなって。それ自体はまあそんなものというか、特段変わったことではないなと思っていたんですけど、この「ポイントネモ」っていう場所に特別な名前がついてて、なんなら人工衛星を安全に落とすために使われていたりとか、意味づけをしている人間たちがいることを知った時に、『あ、その気持ちに名前をつけてよかったんだ』みたいな気づきがあって。自分が一人であるということに対して、新しくできるアクションが増えたというか。一人だから何か叫びたいんだけども、寂しいでも悲しいでも『虚無だ!』でもないそれはポイントネモなのかもしれない。今自分が向き合ってる曲に対する気持ちともシンクロする部分があるかもしれないなって。
──そこから、じゃあこの表題曲も書こうという流れで?
吉田 ということでもないんですよ。曲自体はMVを作っていただいた大石(拓郎)さんとお話をした時に──っていうのも、そもそもずっとストップモーションで何かを作りたいんだ!って言ってたら、レーベルが「10周年だからいいよ」って言ってくれて(笑)。大石さんのスタジオまで「何かやりましょう」って言いに行ったら、月並みなんですけど、人間が何かをした時に否応なく起こってしまう結果の一つひとつがちゃんと、私たちの生きた証なんですね、みたいな気持ちになって。その日のうちにギターを持ったらすぐ出てきて、次の日にはもうスタジオで合わせて形作れたくらいだから、コンセプトありきというよりは、その時の瞬発力で作った曲でした。
山岸 そのあとからアルバムタイトルが決まって、さらにあとに曲名にもしたという。順番的にはそんな感じでした。
──タイトルに相応しい孤独感も抱きながら、これまで以上に言葉がまっすぐ寄り道せず伝わってくる曲ですね。アルバムを作るタームでずっと考えてきたこと、「ポイントネモ」という言葉に出会った時から直感的に表したかったものが結実した(吉田)
吉田 自分の作品の中で、なんか新規性があるなと強く感じながら作ったものではなかったんですよ。ただ、普段から持ってるライブラリーからそのまま、手グセのように文字やメロディに起こしたわけでもないなと思っていて。ちょっとまだ、なんでこうなったのかは自分でもあまりわからないんですけど、実際に書いてレコーディングをしてみてすごく……アルバムを作るタームでずっと考えてきたこと、「ポイントネモ」という言葉に出会った時から直感的に表したかったものが結実した、ちゃんと表現できた歌詞だということは言えると思います。
──他の曲についてもいくつか触れたいんですが、まず“イエスタデイ・ワンスモア・ワンスモア”がすごく面白い。このオリエンタルなシンセの感じは今までなかったし、でもちゃんとズーカラデルの音にフィットしていて。
吉田 そうですね。なんかいいメロディを思いついて、バンドでやったらかっこよくて。最高でしたね。
鷲見 ベースも好きにやっちゃってます(笑)。オリエンタルなムードは漂っているんですけど、下にはカントリー調のアプローチがあったり、根底にあるのは結構バンドが得意としていることな気がしていて。なのでずっとやってきたスタイルは持ちつつ、ちょっと新しいスパイスを加えることで見え方が変わったというか。
──あと、個人的には“330”がとても好きです。このインディーロック、オルタナなギターの音がこのアルバムの中にひとつ入っていることの嬉しさがあって。
吉田 ありがとうございます。ギターのリフというかコードストロークから始まるんですけど、自分の持ってるギターでかっこいい音を出したいなと思って弾いたら、なんかかっこいい音が出たぞ!というところから制作自体も始まったので。やっぱりそういう、楽器でかっこいい音を出せるって嬉しいんですよね。
──わかりますよ。しかも普段はもうちょっとクリーン寄りの音を使うイメージもあるけど、特に間奏のエフェクトとかはかなりキツめで。でも、元々ルーツの中にはこういう音もあるわけですよね。
吉田 そうですね。こんなのばっかり聴いてるっちゃ聴いてるし、間違いなく自分の中の最初のほうにいるというか。ずっと歩み寄りたいけど届かない場所に、勇気を持って入っていった気持ちはあったかもしれないです。オルタナの感じとかインディーっぽい感じとか──。
山岸 イントロの長さとかね(笑)。
吉田 (笑)。
鷲見 イントロが長いものは出しづらい世の中な気はしてるけど、この曲がいちばん輝くのはこのイントロの長さだったし。どうしても入れたい曲のひとつではあったので、こういう曲を入れられるのもアルバムを作る意味だなと感じました。イントロのギターの音色作りも結構な時間を費やして……火も出たり。
──え?
吉田 一回、最高な音が出た!って喜んでしばらく置いておいたら、出し方を忘れちゃったことがあって。その時にいろいろやってアンプから火を出しました。
鷲見 無理させちゃって(笑)。
──そんなことになるとは(笑)。で、その次に最終曲として収まってる“ローリンローリン”がある意味浮いた感じで流れてくるのもいいですよね。
鷲見 確かに。
吉田 本当、人様に書いた曲なんですけど、やってみたらすごく自分事としてしっくりきたところもあったし、すべてを回収してくれる気もしたので、最後に置きました。
──これからツアー等で演奏して気づいていくことも多いでしょうけど、バンドにとって大きな一枚になりそうですね。
鷲見 レーベルの人がいる前でだいぶ無責任な発言ですけど(笑)、セールスとか置いておいても「これを作れてよかった」と言えるところまでいけたことに、すごく満足してます。だからこそちゃんと今まで以上に遠くまで届いてほしいという願いもあって。
山岸 これがズーカラデルのやりたいことだと自信を持って言える一枚になったので、じっくり聴いてほしいし、かつ多くの人にも広まってほしいという欲張りな気持ちがあるんですけど……売れてくれたら嬉しいです(笑)。
──吉田さんは自分のやりたいことに忠実に向き合った成果、どうでしたか?
吉田 2025年の7月くらいまでの自分はかなり詰め込めむことができたなと思うし、バンドで録音することで思った以上にかっこよくできたという点で、非常に最高だったなと思って……最近は新しい曲を作り始めてます。
──あ、既に?
吉田 (笑)。本当にフルスイングした感触はあるので、それがどんな結果になるのかが楽しみですし、「いいですよ」と自信を持って言いたいです。
●リリース情報
『ポイントネモ』
<収録曲>
1.猫背
2.イエスタデイ・ワンスモア・ワンスモア
3.大喝采
4.ヨルガオ
5.ムーンライトにお願い!
6.バードマン
7.友達のうた
8.ポイントネモ
9.デク
10.330
11.ローリンローリン
<初回限定盤付属Blu-ray>
3rd Full Album”太陽歩行”リリースツアー「太陽旅行」から2024年3月22日の東京公演の模様を収録
【形態】
通常盤(CD) VICL-66087 / ¥3,700(税込)
初回限定盤(CD+Blu-ray) VIZL-2464 / ¥6,500(税込)
VOS限定盤(CD+Blu-ray+GOODS) VIZL-2464 +NZY-10339 / ¥8,150(税込)
●ライブ情報
ズーカラデル 4th AL"ポイントネモ"リリース&10周年記念全国ツアー『マイ・スイート・サブマリン・ツアー』
10月17日(金)宮城・ 仙台Rensa
10月18日(土)新潟・ 新潟LOTS
10月25日(土)愛知・ 名古屋DIAMOND HALL
11月1日(土)北海道・札幌PENNY LANE24
11月2日(日)北海道・ 札幌PENNY LANE24
11月8日(土)福岡・DRUM LOGOS
11月9日(日)広島・LIVE VANQUISH
11月15日(土)大阪・なんばHatch
11月22日(土)香川・高松DIME
11月23日(日)岡山・YEBISU YA PRO
11月28日(金)京都・磔磔
11月30日(日)静岡・UMBER
12月5日(金)東京・Zepp DiverCity
提供:グラスホッパー
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部