2019年の結成以来、ワンマンライブは全公演ソールドアウト。ライブシーンで地に足をつけて活動しながらも、2023年7月に投稿したMONO NO AWAREの楽曲カバーがアメリカをきっかけにスパイクし、YouTubeの再生回数は1,500万回を突破。Instagramのフォロワーは70万人弱に達し、ネットの海を軽やかに越境するしなやかさも見せる。
その勢いは留まるところを知らず、9月10日、満を持してトイズファクトリーから“それしか言えない”でデビューを果たした。シューゲイザー的なサウンドアプローチに挑戦し、サビでは「それしか言えない」と叫び続けるという、ハク。の鋭い感性をメジャーデビューでさらに研ぎ澄ませた意欲作だ。心の中に渦巻く感情が、言葉にした瞬間に別の意味にすり替わってしまう──そんなもどかしさをノイジーで疾走感のある音に乗せて爆発させたこの曲で、ハク。はシーンを刺しにいく。
インタビュー=畑雄介 撮影=堤 智世
──まずは結成の経緯から聞かせてください。ハク。の曲は自分のありのまま感が出てる。でも、コーラスや歌とリードギターの絡み合いに美しさが少し残ってるのは、サカナクションや中村佳穂さん、青葉市子さんを聴いていたからかなって(あい)
あい(G・Vo) 私とまゆ(Dr)、カノ(B・Cho)となずな(G)がそれぞれ同じ高校に通っていたんですけど、進学する専門学校が開催してる高校生限定の「楽器を教えてあげるよ」サークルにたまたまみんなが行っていて。で、その日に先生が「1回バンドやってみたら?」って言ってくれて、初対面で組みました。
──第一印象は覚えてます?
まゆ めっちゃ覚えてますね。あいとは高校が一緒やったんで、ほんま慣れたもんなんですけど(笑)。カノとなずなとは初対面で、元気っ子が押し寄せてきた感じ(笑)。カノが「あいちゃん、声めっちゃ好きで! めっちゃ嬉しい!」って言ってて、すごく明るい子だなあって。
カノ (笑)今でこそ、みんなの個性がいい感じに絡まり合ってるんですけど、当時はキャラクターがパンッとふた組に分かれてはいましたね。「何聴いてるん?」とか言うのもこっちやったしな。
まゆ こちらは「あぁ……」みたいに、ちょっと引き気味で(笑)。
──みなさんの音楽的なルーツはなんですか?
まゆ 私は元々BIGBANGが好きで、BIGBANGのライブを観に行って、音楽やりたいなと思って、軽音楽部に入ったんですよね。で、ハク。を始めてからは、羊文学とかきのこ帝国をよく聴いてました。サークルで出される課題曲に、そういうバンドの曲が多くて「意外とこういうのも好きかもなあ」って思って。きのこ帝国の曲を聴いて、いいなと思ったドラムのフレーズを取り入れたり──“直感way”と“ふたり基地”とかはそうだったと思います。
カノ 私はずっとORANGE RANGEを聴いてました。姉が聴いてたので、物心がついた頃から車の中で流れてて。LOSTAGEとかAge Factoryもめっちゃ好きだし、ハク。を始めてしっかり音楽を聴くようになってからは、台湾とかアジアの音楽も聴くようになりました。私、歌詞の意味が気になるタイプなので、洋楽は「よし!」ってならないと聴けないんですよ。でも、台湾の音楽は歌詞が気になるというより音のほうが気になって。たぶんどこかで自分が「こういうことをやりたい」と思ってるから聴いてるんだと思います。
──台湾の音楽において、ベースに何か共通する特徴はあったりしますか?
カノ 重心が下にあって、(ルート弾きで)ブンッブンッブンッブンッみたいな感じかと思いきや、めっちゃ動くみたいな。アジアなりの振り幅の大きさを持つベースラインが多い感じがします。私は重めなほうが好きなので、レコーディングの時も「こういう音の感じがいい」とか、自分から言うことが多いですね。
なずな 私は高校生の時、親が好きだったMrs. GREEN APPLEを好きになって、ライブに行ってて。中学校の時から軽音楽部で、高校ではカノと一緒にバンドを組んでたんですけど、SCANDALとかSHISHAMOとか、ガールズバンドの曲をカバーしてました。今、自分でギターフレーズを作る時は、印象に残る、鼻歌が歌えるフレーズにすることを意識してますね。
──あいさんは?
あい 歌詞をしっかり読むようになった時に、サカナクションと中村佳穂さん、青葉市子さんにハマりましたね。みんなが使うような言葉だけど、並べ方によってその人の言葉になるみたいな表現の仕方がすごく好きなんです。この3組の曲には「美しさ」が光ってると思うんですけど、ハク。の曲は美しさは控えめで、自分の素直さというかありのまま感が出てるとは思っていて。ぱっと曲を聴いた時に、美しさよりもポップさのほうが少し上回ってるというか──でも、コーラスや歌とリードギターの絡み合いに美しさが少し残ってるのは、その3組を聴いていたからかなとも思います。
──あいさんが最初に作られた曲は“ワタシ”とのことですが、心と頭のアンバランスな関係のもどかしさを自分の内側に向かって問いかけながら、最後には《やっぱりそうでしょ/アナタも止まっちゃいられないんでしょ》と聴き手に向けて「あなたはどう?」と問いかけるようなドキッとする視点の変化があって。この時点であいさんらしい作詞が確立されていると思いました。“ワタシ”を聴いて、「ほかの人にはベースを弾かせたくない」って思った。歌詞がめっちゃ魅力的で、この人はどっからこの視点が出てくるんやろうって(カノ)
あい でも、最後に投げかけるところの歌詞とかメロディは、今もう1回作ろうってなったら、もっと濃密な曲にできると思っていて──高校生の素直な悩みみたいなのは書かれてるんですけど、自分的には当時は完成した感じではなかったんです。すごく悩みながら書いたから、これでいいのかなって思いながらメンバーに送った記憶があります。
カノ 私は“ワタシ”を聴いて、「あ、この人すごい。ずっとついてこう」「ほかの人にはベースを弾かせたくない」って思った。歌詞がめっちゃ魅力的で、この人はどっからこの視点が出てくるんやろうって。バンドやってて、大丈夫かなあって思う時ももちろんあるけど、この曲を初めて聴いた時の感情を思い出せばやっていけるなあみたいなのを全部詰め込んだ曲を持ってきてくれたと思います。初めてのワンマンでも、“ワタシ”はやってるよな?
なずな うん。
カノ その時、“ワタシ”を演奏しながら、アップテンポな曲なのに涙出てきそうになって。さっきおっしゃってた最後の投げかけるところで、こっちもその思いを振り返られるし、見つめられるから。
──あいさん自身としては、ある程度自信を持って歌詞を書けるようになったのはいつでしょう?
あい いつからというより、曲によってですね。“本物”は、当時から書けたなって感じがあったし、“アップルパイ”はちょっと頑張ったなって思うし。
──書ける/書けていないの違いは、自分が思ってることをちゃんと歌詞に落とし込めたと思えるかどうかですか?
あい 作った時に感じる「書けた」は、自分の頭の中にあることとか──感情が動いて「ここだ」っていう時に出した言葉によって、「書けた」と思えるんです。たとえば“頭の中の宇宙”は、めっちゃ考えて歌詞を出したんですけど、「何言ってるかわからんやろうな、でもいいや」って思ってリリースして。その時点では自分としてはまだ完成してなくて、ライブで何度もやっていくうちに納得してくる、馴染んでくる。「ああ、確かにこういうことを歌いたかったんやわ」っていうことに気づいて、「書けた」ってなる瞬間があるんです。歌詞を書いた瞬間の「できた」と、ライブを経た「できた」のふたつがありますね。
──サウンド面でいうと、初期はストレートなギターサウンドが中心でしたけど、河野圭さんがプロデューサーとして加わってからポストロック的なテクニカルなアプローチの楽曲が増えていったような印象があります。
あい 河野さんの制作スタジオに行って、ふたりでパソコンの前に座って曲作りをすることがあるんですけど、初めの頃「あいちゃん、こういう引き出しもあるんだけど、1回聴いてみる?」って言ってくれることがあって。で、それを聴いてみると、自分が言葉で伝えられなかったことを音にしてくれて、「ああ、私はこれが言いたかったんだ」みたいなことにもたくさん気づくようになりました。その気づいたことを頑張ってみんなに伝えていくタームがありましたね。
──そうやって増やした引き出しにあるアレンジに、メンバーのみなさんがちゃんと応えられるスキルがあるのもすごいなと思います。
まゆ いや、日々練習するしかないです(笑)。あいが言ってくれたアレンジがやっぱりかっこいいから、これができるようになったらめっちゃいいなと思って練習して、レコーディングまでになんとかギリいけるかな……みたいな(笑)。ただひたすら個人練に入ってました。
なずな 私が頑張らないと弾けないレベルのフレーズを与えてもらえるので毎回食らいついてます。ちょっとずつその壁を大きくしてくれてるので、階段を上るみたいにレベルアップできるように頑張ってますね。
カノ 私は、河野さんとやり始めた頃は弾けないことが多くて、ほんとに泣きながらやってて。元々ルート弾きがいいと思ってたから「こんなに動かへん!」と思って、別の道にそれて諦めようとしてたけど、最近は1曲1曲完成していくごとに「これが曲のエッセンスになってるなら、絶対にそうしたほうがかっこいい」と思うようになりました。逆に、あいちゃんや河野さんから出てこないフレーズを「こういう感じもありじゃないですか?」って自分から言った時、曲のイメージに合っていれば否定されることもなくて。できないことに対して「できない」じゃなくて、「これがかっこいいんだ」って納得できるようになってきてから、「これ取りこぼしたらダサいな」っていう小っちゃいプライドが生まれて、練習も頑張れるようになったなと思います……たぶん(笑)。
──活動を通してハク。の音楽性の引き出しがいろいろと開いている中で、メジャーデビューにどういう曲を持ってくるのかワクワクしていたんですが、“それしか言えない”という鋭いタイトルを持つ、シューゲイザー的なギターが軸になった曲が届いて、ハク。のかっこよさに改めてシビレました。これはどうやって作っていった曲なんでしょう?シングルっぽい曲を書いてほしいとは言われていたんですけど、ポップで聴きやすい曲は書けないから、じゃあどういう角度で刺していこうかなあって(笑)(あい)
あい メジャーデビューシングルだから、シングルっぽい曲を書いてほしいとは言われていたんです。「シングルっぽい」というともっとポップで聴きやすい曲のイメージがあるんですけど、自分はそういう曲をたぶん書けないから、じゃあどういう角度で刺していこうかなあって(笑)。最初にデモを作った時は、シューゲイザーっぽいリバーブとかは全然かけてなくて。コードを入れて、次にドラムを入れた時に、なんか面白くないからリバーブ足してみようかなってギュイーンって出したらめちゃくちゃかっこよくなって、じゃあギターもいるわと思って。あとは、そのまま流れでできていきました。早口の部分も最初からここはこうしようって決めてたし、曲の構成はすぐ決まりましたね。
──構成も一般的な曲からはかなり逸脱してますけど、あいさんの中ではこれが自然だったんですか?
あい そうですね。構成が大事っていうのは、河野さんとやり始めてから気づいたんですよ(笑)。今は構成も気にしてるけど、4年前くらいと同じ気持ちで、自分が気持ちいい流れでいくことを大切にしました。
──この曲は構成はトリッキーですけど、それがすべてキャッチーさに繋がってますよね。その早口のポエトリーリーディングっぽいところも効いていて。ハク。がその名を広げるきっかけになったMONO NO AWAREの“かむかもしかもにどもかも!”のカバーでもあいさんの滑舌の良さが際立ってましたけど、この曲でも活かしてきたなと(笑)。
あい (笑)それもカバーしてから気づきました。みんなも歌えるものだって思ってたんです。あ、みんな結構つまずくんだ、じゃあ自分って結構滑舌いいんやなって思って(笑)、この曲にも入れました。
──この曲を受け取ったみなさんはどう思いました?
カノ 私は「今じゃない」って思ったんです。めっちゃいい曲なんやけど、今じゃなくない?って思ってたんですけど、完成していくごとにハク。だと思いました。歌詞もサビで《それしか言えない》しか言わないという、あいちゃんの変な感じを出してきててかっこいいなって。早口になる前の、落ちるところのベースフレーズも、自分がもうドンピシャに弾きたい、「これならすっごい魅力的に弾けるわ」っていうのを持ってきてくれて、「わぁ~ありがとう~(拍手しながら)」ってなって。まさかこの曲がメジャー一発目に出るとは思ってなかったけど、今のハク。だったらこの曲ができるし、この曲ができたらもっとかっこいいものを自分たちが提示していけるなって思える曲になりました。
──ドラムはどうでした?
まゆ 速いしむずいし、もうすんごい曲また持ってきてくれたなと思ったんですけど(笑)、聴いててめっちゃワクワクしました。最初に持ってきてくれたやつは、今よりもむずかったよね?
あい うん。
まゆ バスドラも「どうしたらええねん」みたいな感じやって、自分で変えちゃったんですけど。スタジオに入った時にあいが歌ってるのを聴いて、めっちゃかっこいいなと思って。自分の技術でできるギリギリやけど、絶対やりたいなと思ってたくさん練習しました。
あい さっき言ってた早口の前の沈んでいくベースのフレーズは、「これや!」って最初から決まってたから、それを気に入ってくれてよかった。ドラムも、今のまゆならいけるやろって(笑)。
カノ・まゆ ははは。
あい スタジオで「変えてもいい?」って訊かれるけど、全然変えていい。というかむしろ自分でアレンジしてくれるのが嬉しくて、そういうのも含めて「できるやろ」っていう安心感がありました。
なずな この曲にはワーミー(ギターエフェクター)を入れてるんですけど、今まで使ったことなかったから新しいスタートに向けて使えたなって。自分たちの殻を破って、爆発させる曲だなって思ってます。
──歌詞はハク。らしいテーマというか、自分の内側と対話するような内容だと感じたんですが、どういうところから書いていきました?自分の中でしか言い表せない言葉にするのが難しいこと、自分の中でしか納得させられない出来事=「それしか言えない」。そういう自分の中のぐちゃぐちゃがある人には届くんじゃないかな(あい)
あい サビの《それしか言えない》はデモの時点で決まってました。鼻歌を入れた時に、♪それしか言えない~がハマっただけだったんですけど、そこからなんのことを歌ったらいいんやろう?って考えていった結果、すごく気だるい気持ちになった時に感じたことを書いた曲になりましたね。私は「私があなたを絶対救うから」みたいなことを曲にできないんです。メンバーのみんなには言えるんですけど。
カノ 確かにな(笑)。
あい 「いけるって!」「かわいいよ!」とか。
カノ 「うちがおるよ!」ってな(笑)。
あい でも、それを歌詞に書いて直接的にみんなに届けることはできないんです。ただ、サビで《それしか言えない》って叫んでるのは、みんなにもそういう気持ちってあるかなあと思ってて。私はそれが言いたいわけじゃないのに、意図しない形で伝わってしまったとか──自分の中でしか言い表せない言葉にするのが難しいこと、自分の中でしか納得させられない出来事=「それしか言えない」みたいな。そういう自分の中のぐちゃぐちゃがある人には届くんじゃないかなって思ってます。
──「これしか言えない」じゃなくて、「それしか言えない」なのが重要だなと思っていて。「これしか言えない」だと、この曲が伝えていることがあいさんの視点になるけど、「それ」だと歌い手と距離があるというか、「それ」がなんなのか断定されてないからこそ、誰にとっての「それ」でもあるなと。
あい それが言いたかった(笑)。自分にしかわからない気持ちが「それ」なんだよ、ということです。
──メジャーデビューという重要なタイミングなので最後に訊きたいんですが、いろんなバンドがいる中で、ハク。はメジャーシーンにおいてどういうバンドとして成長していきたいと思っていますか?
カノ ハク。にはいろんな色があるから、「ハク。ってこれだよね」という解釈が人それぞれ違っていて、そういうそれぞれの受け取り方によって、ハク。が成長していくのが面白いのかなと思ってます。曲作りに関しては、あいちゃんの中に沸々とあるものをもっと出していってほしいし、そうできるように私たちで背中を押せるように曲を作っていきたいなって。
まゆ 自分たちがやりたいこととか、「ハク。らしさ」はそのまま変えずにいたいなと思ってます。あと、誰かが「最近ハク。聴いてるんだよね」って言った時に、「あ、ハク。聴いたことあるわ」ってなるくらい、日本でも日本じゃなくてもみんなに広まってほしいなと思います。
なずな ハク。はいろんなジャンルで戦えると思ってて。ジャンルにとらわれずに新しい曲に挑戦することをメジャーでも頑張りたいですね。
──あいさんはどうですか?
あい 私はもしバンドをしてなかったら、こういうかっこいい自分にも出会えてなかったし、もっと内気な感じやったかなって思うんです。バンドを今まで続けてきたことで、こんなに叫べるんだとか(笑)、こういう自分でいられることが嬉しいみたいな瞬間が増えてきたから、そんな自分にもっと出会っていけたらいいなって思ってます。出会っていきたいから、バンドをもっと頑張りたいし。「ハク。らしさ」でいうと、ジャンルにはとらわれず、でも「こういうのが好きだよね」っていう感覚はちゃんと1本持っていたいなと思うし、4人がちゃんと「これは大丈夫」って信じてればずっと進んでいけると思うので、折れずに自信を持って届けていきたいです。これから私が思いつかないようないろんな経験ができると思うし、いろんな壁もあると思うし。でも、そういうのも4人で一緒に経験したいなって思ってます。
スタイリング=umeda kazuhide
●MV
“それしか言えない” OFFICIAL VIDEO
●リリース情報
『それしか言えない』
●ツアー情報
GO -クアトロツアー編
2026年03月04日(水) 東京・渋谷CLUB QUATTRO OPEN 18:00 START 19:00
2026年03月06日(金) 愛知・名古屋CLUB QUATTRO OPEN 18:00 START 19:00
2026年03月13日(金) 大阪・梅田CLUB QUATTRO OPEN 18:00 START 19:00
提供:TOY'S FACTORY
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部