【インタビュー】パーカーズが新章を刻みつけたミニアルバム『HUG』を語る。今、彼らのPOPSがフレッシュなグルーヴを生み出す理由

ギターボーカルに加えてギタリストがふたり、そしてドラムという4人体制で活動を続けてきたパーカーズに、サポートで参加していたタクオ(B)が正式メンバーとして加入したのが2025年3月。「POPS日本代表」を旗印にキャッチーな音楽の楽しさを全力で届けてきた彼らが、新体制初のミニアルバム『HUG』をリリースした。
タクオが正式メンバーとなったことにより、フカツ(Dr)とともに支えるリズムがより有機的に自在なグルーヴを生み出し、ナオキ(G)のロックギターがここぞという場面で存分に光る。そのアンサンブルのフレキシブルさからか、豊田賢一郎(G・Vo)のソングライティングはソウルやファンクの要素を取り入れた新機軸を見せたり、ねたろ(G・Cho)の書く楽曲は伝えるテーマがよりビビットに描かれるようになったりと、パーカーズはより豊かで多彩な景色を描くバンドへと進化した。『HUG』はまさにバンドの新章の始まりを映し出している。この重要作について、メンバー全員に話を聞く。

インタビュー=杉浦美恵 撮影=堤 瑛史


“Hug me!!”は、タクオちゃんが加入してくれて、フカツとタクオちゃんのグルーヴ感が高まったからこそ挑戦できた曲(豊田)

──『HUG』はタクオさんが正式加入したあとの、初のアルバム作品となりました。

タクオ 正式加入前からサポートを1年半くらいやっていたので、すでに普通のメンバーのようでもあったし、ずいぶん前からいずれ入っていくんだろうなというイメージはありましたけどね(笑)。

豊田 正式加入するまで、すでにトータルで100回以上は一緒にライブをやっていたしね(笑)。

タクオ ライブ1本1本にも真摯に取り組んで、みんなバンドに対して真剣に向き合っているなあと思っていて、しかもプライベートではみんな仲いい。そういうメリハリもあって、自分としてもバンドに入りたいなという気持ちはどんどん高まっていったんですよね。

──今回の『HUG』以前にも、タクオさんがレコーディングでベースを弾いている作品もあったんですか?

フカツ 1stアルバムの『POP STAR』あたりからタクオが入ってくれているんですけど、今回とは録音の仕方が違っていたんですよ。前は、アレンジとかに関してはそこまで深く携わっていなくて。でも今回の新曲たちから、まず僕と同時に録音する形になったので、それによってグルーヴ感とか土台がだいぶ変わったのかなと思います。

──そう! それをすごく感じました。『HUG』を聴いていてまず、リズム隊の絡み方というか、屋台骨を支えるグルーヴがより増していると感じたんです。

タクオ 前まではベースの入っていないレコーディングデータを受け取って、その隙間を埋めるようにベースを入れているだけだったけど、今回はデモの状態から一緒に作っているので。

タクオ(B)

──そういうこともあり、パーカーズの新章が始まったということを印象付ける作品になったと思います。

タクオ すごい楽しかったんです。パーカーズといったらウォーキングベースとか跳ねとかのイメージがあったので、それを落とし込みながらも、自分らしいベースを意識して弾きました。“Hug me!!”なんかは、自分が弾くのは初めてのリズムで新しい挑戦でした。

豊田 今回から挑戦してみようというので取り入れたのがブラックミュージックの要素で、ファンク、ソウルをイメージして作ったのが“Hug me!!”です。これはタクオちゃんが加入してくれて、フカツとタクオちゃんのグルーヴ感が高まったからこそ挑戦できた曲でした。タクオちゃんが正式メンバーに入っていなかったら、こういう曲には挑戦できていなかったような気がします。


──“Hug me!!”はクラップが入ったり、コーラスワークがあたたかみを感じさせたりとゴスペル的な要素もあって。ギターソロには光が差し込むようなイメージもありました。

ナオキ “Hug me!!”はひと言でいうと、めっちゃ我慢したんですよ(笑)。普段のリードギターだったら結構弾き倒すんですけど、タクオさんが入ってグルーヴが増してとなると、ここは僕はお休みするほうがいいのかなと。弾き倒すという選択肢もあったんですけど、そこは我慢してメリハリをつけまして。そのメリハリのおかげで起承転結のある楽曲に仕上がったと思います。

ねたろ 僕が“Hug me!!”の聴きどころだと思うのは、間奏の部分。ゴスペルのハモリが出てくるんですけど、いつもだと僕がハモリのコーラスを入れるんです。でも今回は豊田が全部、主旋律もハモリもやっていて。そしたらめちゃめちゃきれいで。

豊田 メンバーにめっちゃ褒められました(笑)。

ねたろ 歌詞のワードも相まってキャッチーな曲になったというのと、実は裏でベースソロが鳴っていて、一回聴いただけではわからない部分もあると思うので、そこを聴いて、良さを噛み締めてほしいです。

フカツ “Hug me!!”は最初にサビのメロディを聴いた時点で、あ、いいなって思った。最初はいつもどおりのパーカーズらしい跳ねる感じの曲になるのかなと思ったけど、すり合わせていったら、リズムワークが今までにない感じで。今後はこういう、今までとは違ったポップスの魅せ方にも挑戦していくようになるのかなと思えた1曲でしたね。

豊田賢一郎(G・Vo)

「ポップ」とは聴いた人にヒントを与えるもので、「ロック」とは既に自分の中に答えがあるもの。それでいうと“大恋愛”は「ロック」(ねたろ)

──そして豊田さんの作った楽曲として注目したいのが“大恋愛”。このタイトルをつけられる曲ってそうそうないと思うんですよ。

豊田 僕もこのタイトルはかなり踏み込んだというか、少し重いかなと思いつつも、どうしても“大恋愛”という言葉を使いたくて。まず最初に《これは大恋愛》っていうサビの歌詞とメロディが同時に生まれてきて。そこから、自分の経験も踏まえつつ、小説みたいな、映画を観ているような作品にしたいなと思って書き始めました。メロディワークと歌詞で時の流れを描けるように1番と2番とで譜割りを変えるとか、後半に進むにつれて臨場感のあるクライマックスを描けるように、かなりこだわった楽曲でした。

──作詞の段階で照れたり恥ずかしくなったりしたら、このタイトルってつけられないと思うんですよね。だから、ここまでまっすぐ描いている歌詞は、豊田さん的には珍しいんじゃないかと思ったんですよ。

豊田 ああ、そうか。言われてみればいつも照れちゃっているかもしれない、歌詞。

──少し捻ったり、視点を自分からズラして物語として描くのが豊田さんの持ち味でもあるんだけど、すごくまっすぐに感情を描くラブソングに仕上がっているから、ああ、逃げずに書き切ったなという印象でした。

豊田 ありがとうございます。恋愛の曲なんですけど、僕の中では「恋」じゃなくて「愛」というテーマを強く表に出した曲ですね。

ねたろ 今回のアルバムはポップだと言いつつも、この“大恋愛”に関しては、僕はロックだと思っているんです。というのは、これは個人的な考えなんですけど、「ポップ」とは聴いた人にヒントを与えるもので、「ロック」とは既に自分の中に答えがあるものだと思っていて。それでいうと“大恋愛”は、豊田の中にある「答え」がそのまま色濃く出た作品だなと思うので「ロック」なんです。いい曲だと思いました。

──おお。すごく本質的なことを言ってもらえた気がします。確かにそうですね。

ナオキ 賢ちゃんの書く歌詞って、人を大事にしたいとか、思いやりに溢れた人柄が出ているなあと思う。“大恋愛”ってほんとに小説みたいな曲で、どんどんクライマックスに向けて盛り上がっていくので、ギターでも力になれたらなあと思っていました。

──アウトロのソロもグッときますよね。

ナオキ あれ、いいっすよね(笑)。自分でも自慢したいくらい。

ナオキ(G)


最初は作るのが苦しかったけど、大切な人がいなくなった体験を聴き手に聴いてもらわないと、僕がアーティストである意味、作り手である意味がないのではないかと思った(ねたろ)

──では、次はねたろさんの作った曲について。まず“トマトジュース”。これはまた、ねたろさんらしいユニークな着想で。

ねたろ 曲を作るぞというときに、たまたま机にトマトジュースがあったんです。トマトジュースでラブソングを書いたら面白いんじゃないかなと。前にも“ONSEN”とか“中華で満腹”とか、いわゆる王道ではない曲を作るのも好きで。その路線の代名詞になる曲ができたなと思いました。自分の中ですごく好きな曲ですね。

豊田 トマトジュースから歌詞を書いて、恋愛の曲になるのが面白い。でも歌ってみると確かに、恋愛って甘いだけじゃないよな、どろどろした瞬間もあるよなって、すごく共感できました。あとはねたろっぽいロックなサウンドで、《甘くなくていい》って歌うところのギターとメロディが大好きで。バンドでガッガッガッてブレイクで合わせるところも気持ちよくて、これは僕の中にはないものだったので、これもまた新たな発見でしたね。


──“トマトジュース”はシンプルにかっこいい曲なんだけど、転調が入ってくる感じとかも、ピリッと、ちょっとトマトジュースっぽいなあと。

ねたろ そうですね。雑に不協和音を入れてみたりとか、そういうのもトマトジュースの濁った感じを意識してみました。

ナオキ この曲は僕もめっちゃ好き。爽やかなギターロックで、これはもう最高のギターソロを作るしかないなと(笑)。ギターやってる人にはコピーとかしてほしい。難しいんですよ、このギター。普通に速いんで──速いフレーズを作った自分が悪いんですけど。あとこの曲は2回転調するので大変です。頭がこんがらがる(笑)。

──フカツさんは“トマトジュース”をどう表現しようと思いましたか?

フカツ トマトジュースってミキサーをグワーッて回してできあがるイメージがあったので、そのグワーッと回している感じをどこかで出したくて。1番のサビ終わりから短いドラムだけのソロがあるんですけど、そこではタイコを一気に4つ鳴らしてるんです。ミキサーで混ぜてる感覚を表現しています。これは僕なりの音楽の考え方なんですけど、歌詞をドラムで表現できたらすごいなと思って。

タクオ 僕はこの曲、ギターロックなんだけど、なんかかわいいイメージがあるんですよね。ここでは自分もリードっぽいベースを弾いた気がします。楽しかったです。弾いてる自分のことをかっこいいなと思わせてくれる曲です(笑)。

ねたろ(G・Cho)

──ねたろさんの作った楽曲では“おやすみのキス”に少し驚きました。バラードですよね。

ねたろ “おやすみのキス”は、僕の大切な人がいなくなってしまって、それがきっかけになって作った曲なんです。アルバムではこの曲だけちょっとネガティブ。でもこのネガティブなものも、生活の中で何かを考えるヒントとして聴いてもらって、曲を受け取った人が最終的に幸せになってくれたらいいなあという想いで完成させました。なので、楽器もピアノやストリングスを入れて、より感情が聴き手に伝わりやすいものにしたかったんです。

──その実体験を曲にしたい、しておきたいという気持ちが湧き起こった?

ねたろ 逆に曲にはしたくないなと思っていたんです。曲にすると、自分の中にいたその人が消えてしまうような気がして。なので最初は作るのが苦しかったんですけど、この体験を聴き手に聴いてもらわないと、僕がアーティストである意味、作り手である意味がないのではないかと思って。曲を作って自分も前に進んでいくし、聴いてくれた人も前に進んでくれたら嬉しいなという気持ちでした。ずっと、大切な人をなくした自分の想いに向き合うことから逃げていたんですよね。でもそこに向き合いました。

豊田 この曲をもらう前から、ねたろからはプライベートな出来事として話は聞いていたんです。なのですぐに重なって、ねたろがすごく自分と向き合って頑張って作ったんだなと思いました。曲としても完成度の高いミドルバラードで、歌入れのときも、ねたろが向き合ったことはもちろんですけど、自分が経験してきた出会いや別れのことも盛り込めたらいいなと思って、気持ちを込めて歌いました。

──ねたろさんの中で、豊田さんが歌ってくれるなら曲にできるという部分もあったのではないですか?

ねたろ そうですね。豊田なら歌えるというか、豊田の歌だったら僕の気持ちを代弁してくれるような気がしました。

タクオ これ、歌詞を見ながらスタジオで弾いているときにすごく切なくて、泣きそうになっちゃって。ねたちゃんが表現したかったものを今まではできなかったスケール感で表現できた、すごくいい曲になったと思います。すごく好きな曲です。

ナオキ 僕もねたろの話は聞いていたから、歌詞を読んでまた悲しいなあと思ってしまったけど、すごくいい曲ができたと思います。ねたろとは大学時代から一緒に遊んでるけど、あまりプライベートな出来事の気持ちとかは話さないんですよね。

ねたろ うん。あんま話さないよね。

ナオキ だから“おやすみのキス”の歌詞を見て、あ、自分のことをちゃんと曲にしたんだなって思った。これは、ネガティブな曲ではあるけど、前に進んでいきたいという気持ちも込めた曲だと思うので、それがみんなにも伝わったらいいなと思います。

フカツ この曲、珍しくねたろから、「ここのリズムは原曲通りにしてほしい」って言われたんですよ。そう言われたのは初めてのことで、それだけ思い入れが強いんだなと思いました。“おやすみのキス”にはサビが二段階あるので、シンバルの音をハイハットとライドで使い分けるようにして。後半のサビではどこか夢の世界に行ってしまった《君》のことを、ライドのキラキラした感じで表現できたらいいなと。そこでねたろの気持ちがさらに表現できればいいなと思ったんです。

フカツ(Dr)

音楽って嬉しいときも悲しいときも、その感情に寄り添うものだと思う。誰かにとって、それがパーカーズの音楽だったらいいなと思います(豊田)

──正式に5人体制になった、その意味をしっかり感じさせてくれる作品になったと思います。この先、5人でどんなバンドになっていきたいですか?

タクオ 自分が参加する初のアルバムが、ピアノやシーケンスを取り入れたサウンドになったのはすごく嬉しいことで。僕はそういうバンドが大好きだし、パーカーズには絶対そういう音楽が合うと思っていたんです。でも、メンバーが5人いて、ギターが3本で、ナオキがロックなギターを弾くというパーカーズのその特徴はこれからも生かしていきたいんですよね。この竿陣が持っているそれぞれの個性は生かしたまま、さらに世界観を広げていきたいなと思います。

ねたろ パーカーズの音楽にはすごく「あたたかみ」があると思うので、これからもその温度を大事にしつつ、いろんなことを表現できるバンドになっていきたいですね。タクオも正式に入ったことだし、これからまた大きくなったパーカーズをみんなに見せていきたいです。

フカツ 僕らの中の正解みたいなものに1歩近づけたと思える作品ができて、ここからライブもまた進化していくんじゃないかと感じているので、パーカーズの今後の歩みを楽しみにしていてください。

ナオキ ストリングスやピアノが入ってサウンドが壮大になっても、ギター3本、ドラム、ベース、ボーカルという、パーカーズの芯は大事にしていきたいですね。自分たちの音を大事にしながら、ライブでは「パーカーズ、めっちゃよくなったね」って常に言われたい(笑)。

豊田 僕らがずっと目標にしているもののひとつに「『紅白歌合戦』に出る」というのがあって。そこに届くための自分たちの音楽を、今ようやく見つけ始めたような気がしています。ねたろが書く曲、そして僕が書く曲、それぞれに個性はあるけれど、どちらも歌うのは僕なので、歌う意味や、この5人のメンバーで表現する意味をしっかり考えて音楽を鳴らしていきたいです。僕は、音楽って嬉しいときも悲しいときも、その感情に寄り添うものだと思うので、誰かにとって、それがパーカーズの音楽だったらいいなと思います。これからも、ポジティブな感情にもネガティブな感情にも寄り添えるバンドでありたいですね。

photo by 後藤 壮太郎
●リリース情報

3rd mini Album『HUG』

配信中


M1. Hug me!!
M2. トマトジュース
M3. Ding Dong Dang Dong
M4. おやすみのキス
M5. ASOBO
M6. 大恋愛
M7. Zoo
M8. 旅するココロ

●ライブ情報

Hug me!! TOUR


提供:株式会社Noisy
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部