【インタビュー】NEK!はなぜ今、「スラングロック」でSNS社会と対峙するのか。メジャーデビューを控えた最新作『MEME』をメンバー全員で語る

2024年2月に結成されたガールズロックバンドNEK!は、SNS上に蔓延る匿名の誹謗やフェイク、多数派が正義とされる風潮から目を逸らさず、その世界で「自分」を見失わずに生きていくことの大切さを歌い続ける。まず「スラングロック」というコンセプト自体が唯一無二であり、さらにはメンバー全員の演奏スキルが相当に高いというのも、注目すべきポイント。
今後メジャーデビューすることも決まっているNEK!だが、その新章への弾みとなる1stフルアルバム『MEME』(ミーム)がリリースされたばかり。NEK!ならではの強く、あたたかく、頼もしいメッセージに溢れたこのロックアルバムは、ソリッドなロックアンサンブルからバラード曲まで多彩な音楽性を見せる。そして確かな技量に裏打ちされたサウンドと、力強さと柔らかさを併せ持つ歌声には、底知れぬ可能性を感じる。今回は、NEK!とは一体どんなバンドなのか、そして大充実の『MEME』について、メンバー全員に話を聞く。

インタビュー=杉浦美恵


ずっとロックバンドをやりたいと思っていたんです。それで、SNSでメンバーを探して、私がそれぞれに声をかけていきました(Hika)

──1stフルアルバム『MEME』が完成して、その濃密な最新作の話をお聞きしたいのですが、まず、NEK!はどんなふうに結成されたのか、というところから教えてもらえますか?

Hika(Vo・G) 最初はSNSで弾き語り動画を投稿したり、ひとりで音楽活動をしていたんですけど、ずっとロックバンドをやりたいと思っていたんです。それで、SNSでメンバーを探して、私がそれぞれに声をかけていきました。

──ロックバンドの基本形である、ベース、ドラム、ギターのメンバーを探そうと。

Hika はい。ガールズバンドをやりたかったので、かわいくて演奏が上手いメンバーを探していました(笑)。

──意外とそのハードルは高いですよね(笑)。しかも、同じくらいの熱量でロックバンドをやりたいと思う人を探り当てるというのは。Hikaさんはそれぞれ、メンバーのどんなところに魅力を感じて声をかけたんですか?

Hika バキバキのロックバンドを理想としていたので、ギターは鋭いリードを弾いてくれる子がいいなと思っていて。それでNatsuがSNSでギタープレイを投稿しているのを見て、一発で興味を持ちました。こんなにビジュアルもいいのに、めちゃ鋭いリードも弾けてタッピングもできて音色もよくて。これは声をかけるしかないと。

Natsu(G) 私ももともとロックバンドが好きだったので、いろんなアーティストさんの曲を弾いてSNSに上げていたんです。確かHikaは、私がBABYMETALさんのギターを弾いてるのを見て連絡をくれたんだよね。そのあと、いろいろ遡って見てくれて。それで直接DMが来ました。

──BABYMETALの曲って、すごく難度が高いと思うのですが。

Natsu いちばん好きなアーティストさんだったので。ギターを続けるモチベーションとして、私はベビメタの存在が大きかったんです。ベビメタの曲を演奏したいという気持ちでずっとギターをやっていて、そしたらこんな縁があって。

Hika(Vo・G)
Natsu(G)
──ドラムのCocoroさんは?

Hika Cocoroはインスタで「1日1フィル」を上げているのを見て、これはすごいと思って。毎日やり続けるのは大変なことだし、この人はきっと、最後までやり遂げる人なんだなって思って。で、またかわいいので(笑)。上手いし、激しい曲もカバーしていて、かっこいいなあって。

──Cocoroさんは、どういうきっかけで「1日1フィル」をやるようになったんですか?

Cocoro(Dr) 私が中学生の頃から通っていた音楽スタジオがあって、そこのオーナーさんがギタリストの方で、「毎日投稿できるコンテンツを自分で生み出したら強いよね」みたいな話をしてくれて。そこから私にできることって何かと考えて、いろんなジャンルの、自分の好きな曲の中で使われてるフィルを叩いて投稿していこうと。毎日投稿していくうちに、みんなに反応してもらえることも増えたので、続けるのって大事なんだなって感じましたね。

──ドラムを始めたきっかけは?

Cocoro 兄がB'zのファンだったんですけど、私が中学のとき、兄がチケットを4枚取ってくれて、家族全員をライブに連れていってくれたんです。そのライブを観て、ドラムがめちゃくちゃ力強くてかっこいいなと思って。スタジアムでのライブだったんですけど、遠くの席にいても届いてくる音圧に衝撃を受けて、「ロック」を目の当たりにしたような思いでした。そこからはもうB'zさんの曲をいっぱい聴いて、高校のときには知り合いのミュージシャンと一緒にB'zのコピーバンドをやってました。

──Kanadeさんについては、Hikaさんはどんなところに惹かれましたか?

Hika Kanadeさんは当時高校生くらいで、かわいらしいのにすでにスラップもバキバキにできていて。どんなジャンルにも対応できるスーパーベーシスト、スラッパーだなって思って、DMを送りましたね。返事は返って来ないかもなあと思ってたけど、お返事をくれて、一緒にやってくれることになりました。

Kanade(B) 当時、ショート動画とかが主流になり始めた頃だったので、短めの「弾いてみた」を週1くらいで上げてたんです。それこそボカロからバンドまでいろいろと。原曲をそのまま弾くのではなくて、ちょっとアレンジして自分らしさを出した投稿をしていたんですよね。まだまだ駆け出しだったので、そんな私を見つけてもらえて、びっくりしました。

──Kanadeさんはどういうアーティストに憧れてベースを弾くように?

Kanade ロックへの入り口がX JAPANさんだったんです。TAIJIさんのベースがすごい好きだったので、当初は今ほどスラップに特化した感じではなかったんですけど、Gacharic Spinの(F チョッパー)KOGAさんのプレイに出会って、こんなきれいな人がこんなすごいベースを弾くんだって衝撃を受けて、自分もスラップを武器にしたベーシストになりたいと思うようになりました。

Cocoro(Dr)
Kanade(B)

もうこのメンバーでどこまでもいける気がしました。このメンバーでよかったなって、いつも思いながら活動しています(Hika)

──では、Hikaさん自身のバックボーンと言うと?

Hika 小学生のときにアニメ作品の『けいおん!』に出会って、バンドを組みたいって思ったんです。でもまわりにはピアノを習ってる子はいたけど、一緒にバンドを組めそうな子はいなくて。高校に入ってからもまわりに音楽をやってる子はいなかったから、自分で弾き語りを始めて、それをSNSに上げていました。でもやっぱりどうしてもバンドをやりたかった。なので、地元は長崎なんですけど、これはもう東京に出るしかないと。東京で勉強しつつ、その期間にメンバーを探し始めました。

──このメンバーが集まって音を出してみたとき、これはいけるという手応えがありましたか?

Hika ものすごくありましたね。もうこのメンバーでどこまでもいける気がしました。

──NEK!独自の「スラングロック」というコンセプトはどんなふうに生まれたんですか?

Hika 私たちはSNSで出会ったので、何かネット用語を使ったいいバンド名、「SNSで出会ったガールズバンド」というのを表すようなものはないかなと思っていたんです。そこから、頼れる姉貴=ネキっていうのが浮かんで、それもネットスラングだから、じゃあ「スラングロックバンド」ってめちゃいいじゃんっていうことになって。SNSで起こっていることや、言葉にできない感情を音楽に乗せて伝えていきたいという思いもあって、このコンセプトができあがっていきました。

──その後もライブの場数を踏むごとに、バンドとして成長していっていますよね。

Hika ほんとに、ひとつのライブごとに成長している感じがあって。お客さんもどんどん増えていって、NEK!はやっぱりすごいんだって実感できています。このメンバーでよかったなって、いつも思いながら活動しています。

photo by Seijiro Nishimi
photo by Seijiro Nishimi
photo by Seijiro Nishimi
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当事者が言うからこそ響くものがあるはずで、SNSで受ける賛否は、どちらも自分たちの武器にできるのが私たちの強み(Cocoro)

──音源もリリースするごとに評価が高まる中で、今回、1stフルアルバムが完成しました。ロックバンドとしては1stアルバムというのは特別なものだと思います。完成して、今どんな気持ちですか?

Natsu 今までEPは2枚出しましたけど、1stアルバムっていうのはやはり一度きりだし、もっとNEK!を好きになってもらいたい、もっとNEK!の輪を広げたいと思いながら作った1枚だったので、できあがって全部聴いたときは、自分もすごく感動しました。

──1stアルバムとして、非常に内容の充実したアルバムが完成したと思います。

Cocoro EPの制作よりもちろん曲数も多いし、次から次へと作っていく感じで、鍛えられましたね(笑)。EPの制作で培った実力をしっかり発揮できた1枚になったと思います。

──より多彩な楽曲が詰め込まれて、新たなNEK!の魅力を発信する1枚でもある。『MEME』というのは、やはり「拡散」の願いを込めて?

Hika そうですね。1曲1曲、各々の実力のすごさを感じてもらえると思うので、いろんな人に聴いてほしいなっていうのはありました。

Kanade 成長記録というわけではないですけど、自分がさらに大きく1歩を踏み出せた作品になったと思うし、とにかく弾いていて楽しかったです。

photo by Seijiro Nishimi
──まず先行配信された“GiMMiCK”が素晴らしいですよね。これは疾走感溢れるロックナンバーで。

Cocoro この曲はやばかったです。テンポが速めのBPM185で、1曲叩いたらもう汗だくになるくらい、ものすごいカロリーを消費する楽曲です。

Kanade 曲の中でベースラインに表情をつけるっていうのが難しかったです。サビではストロークみたいなのも入れてるし、手数も多くて強弱の表現もかなり必要とされた楽曲だったので。でも、これも楽しかったですね(笑)。

Natsu ギターソロや、その前のタッピングで効かせるフレーズも難度が高くて、レコーディングで集中して弾くときはまだしも、初めて4人で通しで合わせたときに、やばい、この曲めっちゃ忙しいって思って(笑)。そのぶん聴きどころがたくさんある曲だと思います。

──歌詞の《普通なんてシナリオ通り全てまがいもの》というフレーズが印象的ですが、この曲にはどういう思いを込めていますか?

Hika 自分自身を見失わずに生きていこうという力強い歌詞にしたかったんです。他人に何を言われようとも「これが自分」だっていうことを、魂を削って歌ったつもりです。


──それはこのアルバム全体を通してのメッセージでもありますよね。さらには、NEK!というバンドの重要なテーマでもある。

Hika 自分たちが本気で思っていることを伝えていきたくて。NEK!は言葉では伝えられない思いも音に乗せて、いろんな人の背中を押せるような存在になりたいんですよね。中でもその思いは、絶対に大事にしていきたいです。

──NEK!として伝えたい思いやテーマは、4人の共通認識?

Natsu そうですね。話し合っていると、4人の思っていることや考えていることが一緒だと思える瞬間がすごく多くて。特に私たちはSNSのことを歌った歌詞が多いんですけど、SNSに対して思うことは本当に一緒だなあと感じています。

──それはたとえばどういう部分で?

Cocoro SNSでは日々、いろんな意見や反応があって、中傷のターゲットにされてしまって苦しい思いをしている人が世界中にいっぱいいるという状況があって。私たちの曲を聴いて、少しでもそんな苦しい心が軽くなったり、救われたりしたらいいなあっていうのが根底にあります。ダークな部分も多々あるSNS社会だからこそ、「前を向いて生きていこうよ」っていうのは、総じてNEK!のテーマとしてありますね。

Kanade 特にルッキズムに関して思うところがあります。今はみんなが「これがいい」って言っているから「これが正義」みたいなところがあるけど、それがすごく嫌で。どんどん自分らしさがなくなってきているというか、個々の意思が薄れていっているような気がしていたんですよね。だからやっぱり、まわりに流されずに前に進んでいきたいと思っています。

photo by Seijiro Nishimi
photo by Seijiro Nishimi
──“rip-off”はまさにそういうテーマだし、Kanadeさんのその思いが、炸裂するスラップベースにも込められてるような気がします。

Kanade あのベースはめっちゃ楽しんでますね(笑)。もう、やってやるぜ!っていう感じ。女の子ですけど、こんなベースも弾いちゃうんだから、舐めないでくださいよっていう(笑)。強めの意思が込もっています。

Natsu できあがったときに「きたなこれ」っていう手応えがありました。レコーディングでは最初ドラムとベースを録って、Hikaのギターも録って、その音を聴いて私はギターを弾くので、「これは、やってくれたな」って思いながらレコーディングしたのを覚えています。歌詞は、それこそ不毛なルッキズムを私たちが突き破ってやるぞっていう気持ちを込めて作ったので、みんなに届いてほしい。

──ガールズバンドとしてルッキズムに対して「NO」を突きつける楽曲は非常に頼もしく響きます。

Cocoro ルッキズムに関して言えば、私たちもその攻撃の対象になりやすいんですよね。顔を出して活動しているミュージシャンなので、いろいろ言われることもある。でも当事者が言うからこそ響くものがあるはずで、SNSで受ける賛否は、どちらも自分たちの武器にできるのが私たちの強みだと思います。“rip-off”は《同担拒否》とか《ミュート祭り》とか、SNS社会を切り取るワードをちりばめているんですけど、何年後かに聴いたときに、「ああ、こんな殺伐としてた時代だったなあ」って、過去のものにしたいんですよね。「今も変わらず共感できる」とはなってほしくないという思いがあります。

photo by Seijiro Nishimi
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《「たかがガールズロックバンドw」》なんて言葉をぶち壊してやるよ、そんな見方を壊してやるよっていう思いで歌っています(Hika)

──そうした強いメッセージを発信していくことも、Hikaさんは今、この4人でならやっていけると感じていますか?

Hika それはすごくありますね。まず、SNSで発信して音楽を届けたいという思いが全員共通してあったのと、何かを伝えたいというのはみんなそれぞれに同じ思いとしてあって。メンバーが鳴らす音からもそれが伝わってくるのが嬉しいです。

──“Tic Tac Toe”にも決意と覚悟が滲み出ていますよね。《「たかがガールズロックバンドw」ってさ/舐め腐っている Snarkster》という歌詞がズバリで。そういえば、もう随分と昔から「ガールズバンドなんて」っていう見られ方は変わらずあるよなあって。

Cocoro なんなら、今はさらにその見られ方が増長している気がします。

Hika だからこそ《「たかがガールズロックバンドw」》なんて言葉をぶち壊してやるよ、そんな見方を壊してやるよっていう思いで歌っています。でもここは、歌詞が力強いからこそ、あえてファルセット気味に優しく歌っているんですよ。あと、“Tic Tac Toe”は英語で「◯×ゲーム」っていう意味なんです。日々、自分自身を見失うこともあると思うんですけど、結局は自分の中にしか正解はないから、自分自身に◯をつけてあげようっていう思いで作った曲でした。

──ラストの“OOAK”も、これこそ「自分」であることの大切さとか、閉じた世界から出ていこうというメッセージです。“OOAK”は「One Of A Kind」の略とのことですが。

Hika 「One Of A Kind」は「唯一無二」という意味で、この曲が、聴いてくれた人にとって唯一無二の存在であってほしいという思いもあってつけたんですけど、これもSNS社会で戦っていく人たちに寄り添える曲にしたいなと思っていました。最後のみんなで歌うコーラス部分とかは、狭い世界から一緒に抜け出して、明るい未来を作っていこうよっていう、前向きな歌詞になっています。

Natsu あなたは世界にひとりだけの存在、唯一無二の存在だっていうことを歌っているから、この曲を聴いた人が「そうかもしれないな」って思ってくれたら嬉しいです。

Cocoro ドラムフレーズに着目して言うと、他の曲では聴いたことのないフレーズを、イントロや、サビ前でボーカルとドラムだけになるところ、落ちサビでやっていて。そのフレーズ自体が「唯一無二」だなと、私は思っていますね。

Kanade 私も、このアルバムではベースを3本使っているんですけど、そのうちの1本は“OOAK”でしか使っていないんですよ。そこでもその「唯一無二」のメッセージを密かに体現しています。

photo by Seijiro Nishimi
──NEK!として、申し分のない1stアルバムができあがりました。このリリースを経て、NEK!はこれからどんなバンドになっていきたいとか、成し遂げたいと目標にしていることはありますか?

Hika やっぱり目標は「日本武道館」です。しかも……。

Kanade 「ガールズバンドとして最速で」武道館に立ちたいです。

──今デビュー後の最速記録を保持しているガールズバンドはSILENT SIRENですよね。

Cocoro SILENT SIRENさんは、デビューして2年2ヶ月で武道館に立ったんですよね。

Hika 来年デビューして、デビュー後最速で武道館に立つという目標を達成したいと思っています。

──それを成し遂げるために、どんな活動をしていきたいですか?

Kanade 今回のアルバムですごく音楽性が広がったので、今後さらにいろんな人に刺さる曲を届けられたらなと。

Hika NEK!界隈を広げていきたいよね。

Natsu 今の時代を生きている私たちにしか伝えられない音楽って絶対にあるから、その「今」を歌うという軸を大切にして、NEK!の輪が広がっていったら嬉しい。そうなるように自分の演奏スキルも成長させていきたいです。

Cocoro ネットで毎日「NEK!」っていうワードを見るくらい、ネット社会をNEK!で埋め尽くしたいですよね。今年の8月末に初めてZepp Shinjukuに立たせていただいて、そのときにXのニュースみたいなところに載ったんですよ。これを「トレンド」のほうにもっていきたい(笑)。

──このアルバムのリリースを機に、大きく広がっていくような気がしています。

Hika ありがとうございます。憧れの日本武道館に立つためにバンドとしてさらに成長して、1日1日を大事にしながら、一つひとつのライブを、愛を持って届けていきたいなと思っています。

●リリース情報

NEK! 1st Album『MEME』


●ライブ情報

NEK! 2nd ANNIVERSARY LIVE TOUR 2026

提供:NEK!
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部