【インタビュー】TOOBOEが20曲入りの大作で挑んだ不朽の大衆性──新作『EVER GREEN』は彼をどこへ導くのか

インタビューの中でTOOBOEは、「メジャー」という単語を何度も口にしている。曲の聴かれ方や届け方が多岐にわたる時代、単純にレーベルがメジャーかインディーズかというのは、以前ほど重要なファクターではなくなっている、というのは肌で感じている人も多いはずだ。

つまり、彼の言うメジャーはそういう意味ではない。もちろん、タイアップソングも多く手がけており、本人もそれをやりがいと公言しているという点では「メジャー」に所属していることは大きなアドバンテージではあるのだが、ここで言う「メジャー」の意味するものは、大衆性や普遍性ということなのだと思う。現に、これまでも彼は「歌謡曲を作りたい」と口にしてきている。

そう考えると、常に色褪せないものや普及を意味する『EVER GREEN』と名のついた2ndフルアルバムは、TOOBOEのキャリアの中で極めて大きな意味を持つだろう。実際、アニメ『光が死んだ夏』のエンディングテーマ“あなたはかいぶつ”やYouTubeで3000万再生に迫ろうかという“痛いの痛いの飛んでいけ”といったシングル曲を筆頭に、これまででもっともメロディアスな歌メロで迫る“追憶”や、紫 今をフィーチャーした“jewel”など、自らのカラーは残したままでより大衆へと開かれた楽曲たちが居並ぶ、全20曲の大作。その誕生までの日々と、込めた想いについて語り合う。

インタビュー=風間大洋


既に向こう2枚、5枚目くらいまではなんとなく構成があって。5枚目がいちばん人に知られるものになると想定して逆算で動いてる

──曲数も内容の濃さも含め、大作が完成しましたね。

前作の『Stupid dog』はいい意味でしっちゃかめっちゃかでしたけど、今回は“光”からリリースしてきた中盤くらいからもう『EVER GREEN』=常に色褪せないものにしたい、基本的には前作よりトーンは落ち着いてるんだけど歌謡曲みたいにずっと残るものを作りたい、と固まってました。今はサブスクで単曲でしか聴かない中で、こういう現物を購入するにあたってはすごく安いかすごく豪華かの両極端になっていると思っていて。だったらすごく豪華にしたいなということで、セルフカバーの“真っ白”とか“コラージュ”も含めて全部入れちゃおうと(笑)。

──昨今のアルバムって、その時期ごとのベスト盤みたいになりがちじゃないですか。

そうですねえ。

──その中で、新曲たちがいわゆるアルバム曲と呼ばれるようなバリエーションや遊び心を意識したようなものではなく、むしろこのアルバムのテーマの部分を新曲のほうに強く感じたんですよね。

ありがとうございます。ちゃんと全部シングルでも切れそうだった曲たちばっかり入れてるイメージで、フィーチャリングの(紫)今ちゃんとやってる曲もそうですし、シングルじゃない曲は偉くないというのはあまりやりたくなかったので、全曲同じくらいのパワーがあるものにはしたつもりです。

──印象としては、タイトルにもなっている『EVER GREEN』がまさにぴったりだと思ったんですね。前回のインタビューでもおっしゃっていた歌謡曲というワードもそうですが、いわゆる普遍的なものを希求するタームは、TOOBOEの活動においてどんな期間になりましたか?

これでインディーズも入れたら3作目のアルバムなんですけど、僕の頭の中にはもう既に向こう2枚、5枚目くらいまではなんとなく構成があって。言っちゃえば、5枚目がいちばん人に知られるものになると想定して逆算で動いてるんですよ。1枚目はインディーズなんでクオリティも粗いけど好きなことをやれたし、2枚目はメジャーに行ったことでリッチになったしタイアップも初めて入って、賑やかでいちばんポップ。で、3枚目はトーンを落としても聴かれるもの──激しい曲が好きな子たちには刺さらないかもしれないけど、あえてターゲットを変えて、こういうこともできるんだなっていう一面を見せるのもありますし、僕の脳内では一旦ここを耐え切れば4、5枚目で大衆的なものが作れるっていう想定で動いてました。

──じゃあこの2年間の経験に左右されるよりも、もともと描いていたロードマップに基づいた方向性というほうが近い?

はい。ただ、個人的に大きかった『光が死んだ夏』であったり、いろんなタイアップによってアルバムが想定より強化されたのはあります。正直言うと、ヒット曲はないけどいい曲がキュッと集まったようなものになるのかな?とも思ってたんですけど、そこはラッキーでしたね。

──逆に自身が見てきたものや感じてきたことが反映されてるのは、どのあたりですか?

フレデリックと対バンしたり、フェスではポルノグラフィティと一緒になったり、個人的に岡村靖幸とか斉藤和義のライブに行ったりもしてたんですけど、長く残るものを何曲も持ってる人たちから刺激を受けたのはあると思います。前作はボカロのトレンドを結構踏襲してるぶん、20年後に聴いたらいい曲であっても「古い」と感じるかもしれない。こういう時代もあったなって。でも今作は、20年後でも聴けるものであるっていう自信があります。

今まで培ってきた自分の武器となるものを残したまま、全世代に受けるものにどこまで寄り添えるかはすごく研究した

──確かに、時代性とは真逆の概念が『EVER GREEN』だと言えますよね。そう考えるとポピュラリティとどう向き合うかになりますが、単純に9割の人がすんなり「ああ、いい曲だね」となるようなアプローチにはなっていないと思うんですよ。毒気であったりちょっとした気持ち悪さみたいな、これまで構築してきたサウンドの特色は残したまま、もうちょっとバラード寄りであったりメロディで刺していけるように範囲を広げようとした作品なのかなって。

おっしゃる通り今まで培ってきた自分の武器となるものを残したまま、よりメジャーっぽくなりたいというか。テレビ番組に出たりカラオケで老若男女が歌ってもいいような、全世代に受けるものにどこまで寄り添えるかはすごく研究したと思います。僕の中で“痛いの痛いの飛んでいけ”とか“あなたはかいぶつ”は、僕より上の世代の人にも刺さる日本歌謡としても聴けるし、アニメを観るような層にも届くものができたかなと思います。

──だから今作をもってTOOBOEというアーティスト性、作家性を周りから見た時の「こうだよね」という輪郭が定まった気がします。

嬉しいです、それは。本当に。

──サウンド面に関してのテーマは何かありました?

前作よりも明らかに周りの人の手を借りている実感はあります。“Nýx”とか“追憶”、“世界の終わり”もそうですけど、いつものバンドメンバーだけでなく新しい人にお願いしました。そうしないと手癖で作っちゃって新しいものができなくなりそうな時期があったので、僕とは違うルーツ──ロックバンドだったりメタル、ジャズとかクラシックをやってる人にお声がけして、自分じゃないものを作ろうという時期でもありました。


──だからか、落ち着いたトーンとは裏腹に、ロック色がかなり出ている印象なんですよね。

たぶんマインドもあるんじゃないですかね? フェスとかに出るようになって、横がゴリゴリのロックバンドが多かったので無意識に。フェスのメインステージ級にいる人たちの音楽って、意外とルーツとしては通ってきてなかったんですけど、強制的に触れるようになったことで、今になってやってるのかもしれないです。あとはライブ自体も増えたので、こういうふうに始まってここはお客さんにも歌ってもらったら楽しいよなとか、曲を作る時に想定するようにはなってます。

──“GUN POWDER”とか“epsilon”あたりは、ここ最近というよりもう少しオーセンティックなロック感がさらっと入ってる印象もあって。

それはなんでしょうね?……メンバーのルーツなのかもしれないです。僕がファンクな曲を作って、弾いてもらう人がロックの人だから、違う解釈でミクスチャーされるんじゃないかなと思います。プレイヤーの方にはどんどん曲を壊していただいて、そこからチューニングし直して妥協点を見つけるというか。それである意味交通事故みたいにおもろい音が出ることもあるんで、そういうのを楽しんで作ってる感じです。

今作はほとんどの曲に、自分の中で原作があるんですよ。読んだ漫画とか観た映画とかと、擬似的なタイアップをしていて

──“GUN POWDER”はアルバムタイミングで世に出るタイアップ曲ですが、これまたエネルギッシュですね。

ありがとうございます。原作を読ませていただいて書き下ろした曲で、基本的にタイアップは好きなので前のめりにやらせていただくんですけど、1個前とか2個前のシングルをちゃんとフリにできるかどうかを大事にしていて。“あなたはかいぶつ”の前には“初恋”というすごくデジロックなものを出して高低差をつけたので、“あなたはかいぶつ”の次をどうしようか?となった時に、同じようなバラードを出すよりはすごくファニーなものを作れれば楽しいかなという、そのタイミングがちょうど噛み合ってこういう曲になりました。

──ロックンロール感や明るいビート感もありつつ、どこか不穏なTOOBOE色もあるというバランスですよね。

歌詞にある《この街は患っている》っていうのが最初に出たワードでしたね。原作も街自体がすごく狂っているんですよ。エーテルっていうよくない薬剤で暴れてる勇者と魔王みたいなのがいて、その中で自分は生きるしかないっていう状態の主人公がいる。数人の友人との日常だけが大事で、そのためにつまんないクズみたいな仕事をやるっていう話なんですけど、今の日本はそこまで狂ってないにせよ、現代社会もどこか患っていると感じてる人もいると思うんですよ。

──そうですね。

自分にとって不条理なものでもその中で生きるしかない、身を投じながらなるべく楽しく生きるしかないっていう原作から感じたものを、曲調は楽しいけど狂いすぎて笑ってるとか、そういうふうに表現できればいいかなって。それは僕がもともとやってきたものにも近かったと思いますね。


──紫 今さんとの“jewel”はどういう出発点からコラボに至ったんですか?

前作では楠木ともりさんをゲストに呼んでいて、今回も一枠は(ゲストを)入れたいなと思ってたんですね。で、この曲に限らず今作はほとんどの曲に、自分の中で原作があるんですよ。読んだ漫画とか観た映画とかと、擬似的なタイアップをしていて。この曲の原作が性別の概念よりだいぶ広いところでの愛情、友愛とか姉弟愛とかをテーマにしていたので、男性である自分と女性ボーカルが掛け合うようにしたほうが面白くなるんじゃないかな?と。この曲に合うボーカリストって誰かな?というところから紫 今さんにお願いしました。ちなみにこの曲をお願いしたあとに『勇者のクズ』のエンディング(“メンタルレンタル”)を紫 今さんがやることを知ったので、めちゃくちゃ偶然でした。

──ちょっといかつめのラップといい、そのあとの鮮やかな歌声といい、素晴らしいですよね。

そうですね。ちょっとトラップっぽいビートもありながら。この曲は楽器を全部僕が演奏していて、プログラミングもしているので、完全に僕ひとりで作った中に外部のボーカルが入ってくる状態を作ってみました。

──本来なら完結しているものを、ボーカルだけでどこまでぶっ壊せるか。

そういうアプローチですね。すごく楽しかったです。器用な方なので、言えばどんなテイクでも録れるから相互にやり取りをしながら……なんか、昔を思い出しました。初音ミクを打ち込んでた時を。

──ボカロの調声を(笑)。

それを擬似的に、すごく素敵な人がやってくれているのが楽しかったですね。

このキャリアになって、特に言いたいこともないのに文脈のない曲をノンタイアップで出すのはドラマ性としても違うと思う

──あと、アルバムの大きなテーマを象徴する楽曲として“追憶”は素晴らしいなと思いました。

ありがとうございます。これの原作は歴史物の漫画で、名前や生きた証が時を経てもどこかに残って今日に至るっていう奇跡的な状態を曲にしたいと思って作りました。『EVER GREEN』というタイトルもそうですけど、この精神性がずっと残ればいいなというのもあって、すごく普遍的なバラードだと思います、僕の中では。今日出しても10年後に出しても味が変わらないというか。

──歌謡曲を作りたいという願いが、とりわけメロディの部分で実現できた曲じゃないかと思います。「いい曲」への真正面からのアプローチ、それはある意味勇気のいることでもあって。

そう。これは僕の主観ですけど、ボカロP出身の方はそこで苦労すると思っていて。ボカロの文化的に、ガチャガチャしたものとか、リズム感がよくて速いもので人を掴んで売れる人って、メジャーに行ったり他の人と組むとなった時に、どれだけスイッチを切り替えられるかが課題だと思うんですね。昔のほうがよかったという人も多分いると思うんですけど、そこを逃げずに。

──その一歩を踏み越えた感は強く感じました。

ギターとか8ビットのピコピコした音で好かれてきた人間が、それを捨てることでどこまでTOOBOEっぽさを残せるか、これはずっと課題なんですけども、その中でのひとつのチャレンジですね。


──多くの人に聴いてほしい曲です。で、逆の方向に振り切った曲もあるんですよね、“世界の終わり”とか。

これはもう、本当に(笑)。これは異種間の友情みたいな、『E.T.』とか『かいじゅうたちのいるところ』のような、人間と化け物とか宇宙人という作品をすごく観た時期があって。理解できないとしても友情が成り立つことって、男女とかジェネレーションギャップにも言えると思ってて、そういった友愛を描きました。これはもともと“心臓”とか“錠剤”みたいな、僕の手に収まるポップスとして書いたんですけど、“きれぇごと”でもお世話になったRED in BLUEの田口悟くんに自由にアレンジしてくれないか?って頼んだら、すごいものが出てきましたね。これこそルーツの違いを存分に出してくれたんじゃないかと思います。自分じゃ絶対にしない音作りや展開、フレーズなんかが入っててすげえ嬉しかったし、普通に馬鹿馬鹿しいものも作りたいのはずっとあるので、やってて楽しかったです。

──最初にも言った通り、本当に大作だと思います。デビューから5作目でTOOBOEが完成する想定でいくと、今作はちょうど中間の3作目。気は早いですが、今後はどんなモードになっていきそうですか?

ボカロから数えるともう7年くらいやってるので、実はもう自分から伝えたいこととかってほとんどないわけですよ。ここから何が生まれるかは僕も全くわからないし、『EVER GREEN』がこういう曲たちになるのも、ボカロデビューした頃は思ってもなかった。なので、人との出会いや色々な作品に触れることで出てくるものに頼るしかないんですけど、次のアルバムはもうちょい多分……なんていうんですかね、基本的にはタイアップがいっぱい入ってるような、いわゆるメジャーっぽいアルバムまで持っていけたらいいなと思っていて。入ってるシングルは全部何かしらの箔がついていて、アルバム曲もなるべくたくさん入るものにしたいという意味では、このキャリアになって、特に言いたいこともないのに文脈のない曲をノンタイアップで出すのはドラマ性としても違うと思うので。一個一個を然るべきタイミングに、ちゃんと前提があるものとして出していきたい。そのために、何年かかってもちゃんと曲が溜まるまでしっかりやって、次のアルバムに向かっていきたいと思ってます。

──より一球入魂というか。

そうですね。究極を言えば今日できた曲が明日にはサブスクで配信できる時代ですけど、一曲一曲をどこまで面倒見られるか。それがちゃんとライブで育ってポジションが決まっていく様を、一個ずつ見ていきたいと思ってます。

●リリース情報

『EVER GREEN』

発売中

●ライブ情報

TOOBOE ONE MAN TOUR 2026 〜銃爪は視線〜

提供:Sony Music Labels Inc./CON(S)EPT
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部