年を追うごとに肉体性と力強さを増していく、壮大かつ有機的なバンドサウンド。まるで空に向かってぐんぐん枝葉を伸ばす樹木のように、まっすぐでナチュラルな進化を遂げるねごとの「今」が、ヴィヴィッドに反映されたアクトだった。3月12日リリースの2ndミニ・アルバム『“Z”OOM』を引っ提げ、「お口ポカーン!!”Z”OOM in X,Y,Z day」と称する東京3公演を開催した、ねごと。その5月1・2日の渋谷・Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREでの2DAYS公演に引き続き、六本木・EX THEATER ROPPONGIにて開催されたファイナル公演。その全貌は「今のドキドキしているモードがギュッと詰まったアルバムを3月にリリースしました。それから何度かライヴをやってきて、今日も作品が育っているような気がしてます!」という蒼山幸子(Vo・Key)の言葉も高らかに響きわたる、大充実のステージだった。
暗転と同時に野太いキック音が鳴り響き、ステージを覆う赤いカーテンが開いてねごとの4人が登場。そのまま“真夜中のアンセム”へ流れると、藤咲佑(B・Cho)のタイトなベース音とともに幸子の透き通った歌声が伸びていく。キラキラとした輝きを放ちながら、スリルと神秘の狭間を駆け抜けていくバンドサウンド。その輝きは次第に光量を増していき、“メルシールー”では澤村小夜子の(Dr・Cho)の野性味あふれるドラミングで盛大なハイジャンプを誘引する。そして、抑えられない衝動の扉を開け放つような“シンクロマニカ”で流星の彼方へ。そんな目も眩むような高揚感に満ちた幕開けから、生き生きとした躍動感に彩られたバンドの姿に驚かされる。「皆、よく来たね、ありがとう! 今日は『“Z”OOM in』ということで、ここにいる一人一人にもズームインしていこうと思います!」(幸子)というファーストMCから“彗星シロップ”へ突入すると、何かが始まるワクワク感に満ちたカラフルなアンサンブルが炸裂。沙田瑞紀(G・Cho)の鋭利なギター・リフが冴えわたる“メイドミー…”“M.Y.D.”の連打では、ハンドマイクを握って熱っぽい歌声を響かせる幸子の姿も見られ、音を奏でる楽しみを全身で謳歌しながら場内の多幸感と狂騒感を同時に突き上げていく4人なのであった。
その後も目を見張るのは、バンドのアグレッシヴなパフォーマンス。ねごと特有のエキセントリックなメロディが疾走する“風惹かれ”。血沸き肉躍るようなグルーヴが縦横無尽に駆け巡る“Dreamin’”。そして、メンバー全員のコーラスとともにソリッドな音塊がスリリングに爆発した“nameless”……そこには、かつてない強靭な推進力と生々しさに満ちたサウンドを迷いなく解き放つ4人の姿があった。瑞々しくてキュートな彼女たちのステージに魅了された経験は何度もあるけれど、正直、こんなにもライヴバンドとしての迫力に圧倒されるのは初めてだ。かと思いきや、エモーショナルなピアノの旋律に彩られた“そして、夜明け”からは、1曲ごとにディープな世界へ足を踏み入れていくような深淵たるムードを演出。喜びも哀しみも目いっぱい吸い込んだファンタジックなオルタナ・サウンドで、オーディエンスを一人残らず抱きしめていくような親密な展開が素晴らしい。特に圧巻だったのは、「不確かなことほど確かなものなんだなぁと思ったときに作った曲です」という幸子の言葉とともに響きわたった“たしかなうた”。4人の決意そのもののようなメロディとサウンドが、固唾を呑んで見守るオーディエンスの心のヒダを震わせていった。
そんな柔剛のコントラストによって、バンドの「進化」と「深化」を同時に見せつけていく4人。その集大成として初披露されたのが、9月24日にリリース予定の新曲“アンモナイト!”である。イントロから豪快な四つ打ちビートが届けられるこの曲は、ねごとならではのキュートなポップネスと、ここに来て爆発力を増したバンドサウンドのダイナミズムが見事に合致したニュー・アンセム。初披露に拘わらず盛大なハンドクラップとシンガロングを誘っていて、今後のライヴで重要な役を担っていくだろう予感に満ち満ちていた。その後は“迷宮ラブレター”“greatwall”とアッパ―・チューンを畳み掛け、フロアにでっかいハンドウェーブを巻き起こした“ループ”へ。すっかり興奮の坩堝と化したフロアを更なる高みへ連れ去った“カロン”では、佑がお立ち台に激突して転びながらプレイするシーンもあったけど、そんな瞬間にも彼女たちのほとばしるような熱量がリアルに映し出されている。そして、本編ラストを飾ったのは“勲章”。「私たちはもっと前に進みたいと思っています。その為にはここにいる皆の力が必要です。これから先もっともっといい夢を見せることを約束するから、どうかついて来てください!」という幸子の言葉通り、夢に向かって毅然と歩みを進める壮大なオーケストレーションを伸び伸びと広げて、4人はステージを去った。
アンコールでは“Re:myend!”“sharp ♯”を力いっぱい叩きつけ、フロア一丸のオイコールを導いて終了。メンバーが去った後、開演前にもライヴ中の注意事項を告げる影アナウンスを担当していた佑による、終幕アナウンスが届けられる。思わず感極まったのか、涙で声を震わせながら、最高の日が作れた喜びを感謝の気持ちとともに伝える佑。そのアナウンスに、ひときわ熱い拍手が送られたことは言うまでもない。ガールズバンドとしてのキュートでしなやかな魅力は勿論のこと、ライヴバンドとしてのタフネスをも存分に見せつけた圧勝のステージ。そのラストを飾るに相応しい、微笑ましくも感動的な幕切れだった。(齋藤美穂)
■セットリスト
01.真夜中のアンセム
02.メルシールー
03.シンクロマニカ
04.彗星シロップ
05.メイドミー…
06.M.Y.D.
07.風惹かれ
08.Dreamin’
09.nameless
10.そして、夜明け
11.week…end
12.街
13.たしかなうた
14.B.B.B
15.アンモナイト!(新曲)
16.迷宮ラブレター
17.greatwall
18.ループ
19.カロン
20.勲章
(encore)
21.Re:myend!
22.sharp ♯