ドノヴァン・フランケンレイター @ 渋谷クラブクアトロ

「チバでサーフィンしてきたんだ。奇麗だったよ。どこのビーチだったかって? わからないけど、チバだよ。明日はチバの、もっと北の方に行ってみるんだ」。新春早々、そんなサーフィン馬鹿一代ぶりのMCまで飛び出して渋谷クラブクアトロを大いに沸かせていたドノヴァン・フランケンレイター。2010年のフジ・ロック以来となる短いスパンでの来日公演だが、単独公演としては2年ぶり。渋谷クラブクアトロでの2日目も盛況、というかもの凄い盛り上がりぶりであった。サーフィン・カルチャーでの支持基盤も相まって、ドノヴァンとファンの絆は益々太く、濃いものになっていることがわかる。以下レポートを進めますが、今後、ドノヴァンは1月9日に富山、10日名古屋、11日大阪とツアーを続けてゆく予定なので、参加予定の方はどうぞご注意下さい。

フジでのオープニングSEがなんとザ・ブルーハーツの“リンダ リンダ”だったこともあって、気の早いオーディエンスは客電が落ちた瞬間に歌い出してしまったりもするのだが、今回のオープニングSEはGファンクの名チューン、ウォーレン・Gの“レギュレイト”だ。さすがドノヴァン、生粋のウェスト・コースト・ローカルである。マーシャル・アンプやオルガンの上にはトレード・マークの巨大キノコが置かれたステージに、例によってまったく気負うことのない、これまたトレード・マークのたっぷりとした口髭をたくわえるドノヴァンが登場、アコースティック・ギターを抱えてバンドと共に演奏をスタートさせた。オープニング・ナンバーは最新アルバム『グロー』からの“Hold On”だ。牧歌的なオルガン・サウンドが映える、柔らかくフォーキーな歌が溢れていった。少しずつ、だが確かに熱量を増してゆくパフォーマンス。前作からのリード・シングルだった“ライフ、ラヴ&ラフター”では、イントロでさっそく大きな歓声が沸き上がっていた。

“ユア・ハート”でキーボード奏者がトランペットを吹いたり、ドラマーが数々のパーカッションを駆使していたり、ドノヴァンのバンド・メンバーは遊び心に溢れた凄腕ミュージシャン揃いだ。ドノヴァンのライブを観るとき、個人的に彼の歌と同じぐらい楽しみにしているのが、このバンドのパフォーマンスであったりもする。フロアに「Tomorrow Is My Birthday」と大書されたフラッグを見つけるとドノヴァン、そちらを指差して「ハッピー・バースデイ」と告げ、缶ビールをプレゼントしたりする。盤石の演奏とどこまでも親密なムード、そして若くして老成してしまったようなドノヴァンの滋味深い歌声がミックスされて、レイドバックしつつも温かく、ときに熱い、生き様そのもののようなグッド・ヴァイブレーションを築き上げてゆくステージなのである。

幻想的な、長いキーボードのイントロから唐突に力強くドライブしてゆくファンク・ロック・ナンバー“ムーヴ・バイ・ユアセルフ”。そして愛嬌豊かに跳ね回るサウンドが心地よいニュー・ソウル風の“ザ・ウェイ・イット・イズ”。ドノヴァンの場合、それらの楽曲すべてが、どんなに静謐にスタートする曲であれ、最終的には熱狂に到達するという特徴がある。ジャック・ジョンソンとの共作曲であった“フリー”では、マイクをオーディエンスに向け《free!》というコーラス・フレーズを歌わせるのであった。ドノヴァンと同じくサーファー/ミュージシャンであり、何よりも自らのレーベルからドノヴァンをデビューさせたジャックなら、そのレイドバック感の先にあるのは大いなる自然への畏怖であり、人として生きる謙虚な姿勢である。そのことはジャック自身が制作する映像作品にも、一貫して込められたテーマになっている。サーフィンでの大事故に遭った過去を持つジャックだからこそのテーマなのかも知れない。ドノヴァンの表現はそれとは似ているようで違う。ブルースを軽やかに乗りこなし、ゆっくりと、しかし力強く山を削って谷を埋めるブルドーザーのように、人生を平坦で穏やかなものにしようとする歌であり、音楽なのだ。生き様そのままのような表現スタイル。でなければ、この熱狂は生まれない。

新作のタイトル・ナンバーである“Glow”では4つ打ちのキックにメッセージが踊り、そして“ヘッディング・ホーム”はオーディエンスが打ち鳴らすハンド・クラップの中に賑々しく展開していった。覚えた日本語をまくしたてるように披露するドノヴァンに、「ドノヴァン、 気持ちいい!」というオーディエンスの声が浴びせかけられる。「イット・ミーンズ・フィーリン・グッド!」という説明を受けて「オー、キモチイー。キモチイー!」とさっそくマスターして使いまくっていた。子煩悩ソング“コール・ミー・パパ”と“いとしのレイラ”で本編を終えたのち、アンコールになると、「キモチイー。新しい日本語を教えてくれてありがとう。すごい曲が出来そうだよ。いや、新しいアルバムのタイトルにしようかな」などと話していたが、もし本当にそうなってしまったらこの日のオーディエンスはお手柄だ。

アンコールのクライマックスは、「これを歌わずには帰れない」級のシンガロング・ナンバー“イット・ドント・マター”。ここでは、サーフィン・ショップNAKISURFで行われていたビデオ・コンテストの優勝者によるゲスト参加という企画も盛り込まれていた。この方、堂々たる良い声の歌いっぷりにも驚かされたが、ドノヴァンが彼の頭に手を掛けると帽子と一緒にカツラが取れて、突然坊主頭が覗くものだからフロアは騒然&大爆笑だ。確かに、これは優勝ものだわ。最高のパフォーマンスが陽気なファンたちに支えられた、なんとも幸福なショウであった。(小池宏和)

セット・リスト
1:Hold On
2:Lovely Day
3:Life, Love & Laughter
4:Your Heart
5:What'cha Know About
6:Keeping Me Away
7:Move By Yourself
8:The Way It Is
9:Too Much Water
10:Free
11:Dance Like Nobody's Watching
12:Glow
13:Heading Home
14:On My Mind
15:That's Too Bad (Byron Jam) 
16:Call Me Papa/Layla
EN-1:Butterfly
EN-2:Swing On Down
EN-3:It Don't Matter