G・ラヴ&スペシャル・ソース @ 恵比寿リキッドルーム

「G.ラヴと言えばフジ・ロック」、いや、「G.ラヴと言えば日本」というくらいの勢いで頻繁に来日してくれているイメージのあるG.ラヴ&スペシャル・ソース、今夏のフジから僅か3ヶ月強のインターバルでの再来日である。それでもツアー最終日となった恵比寿リキッドルームはぎっちぎちに埋まっていて、この人達の根強い人気と指示を改めて確認することになった。

単に超満員というだけではなく、リキッド内がここだけでひとつの「フェス」のような陽性のムードに沸いていたのも印象的だ。バーカウンターが開演前はもちろん2時間に亙った彼らのプレイ中にも常時フル回転だったのもG.ラヴのライヴらしいなぁ、と思ってしまった。酒を適度に流し込みながら彼らのパフォーマンスを、そのヴァイヴを体で感じて楽しむ、そんなマナーがしっかりファンに浸透しているのがG.ラヴ&スペシャル・ソースというバンドなのだ。

この日の一曲目は大阪、名古屋公演のオープナーと同じく“Milk And Sugar”。高速ロカビリーな曲調の中でブン回される超絶テクなアコギ・ソロ、ブッとくセクシーなベース・リフ、そしてG.ラヴのヒプノティックなブルースハーブと、冒頭早々G.ラヴの魅力が大盤振る舞いされていく豪華な展開だ。90年代半ば、あのオルタナティヴ全盛期の中で育まれたG.ラヴのミクスチャー・サウンド――ブルースとヒップホップ、ジャズとロカビリー、サーフ・ロックとカントリー、サイケデリックとフォーク――といった掛け算が幾重にもオーガニックに積み重ねられていく彼らのサウンドは、ライヴの現場でこそその「できたて」「調理したて」のスリルと味わいを感じられるものだと思う。この日の彼らのパフォーマンスはそんな、G.ラヴ&スペシャル・ソースのライヴ・パフォーマンスがスペシャルである理由を真っ先に知らしめる、スタートダッシュ型のオープニングだった。

実際、G.ラヴ&スペシャルソースのライヴはいつ見たって楽しいし、アルバム音源よりライヴ・パフォーマンスにこそ真実を見出すタイプの、いわゆるジャム・バンド的快感原則を非常に強く感じさせるアクトでもある。それは過去の彼らの来日アーカイヴがなにより雄弁に物語っているし、彼らのステージが常にフジ・ロックのハイライトのひとつになることからも明らかだろう。また、彼らは「考えるな、感じろ」を体現するヒッピー・ライクでピースフルな思想を纏ったグループでもある。しかし、その印象は時にG.ラヴを必要以上に快楽主義でレイドバックした「自然体バンド」の枠に押し込めすぎるものだったのかもしれない。

そんなことを感じ始めたのは中盤でプレイされたニュー・アルバム『フィクシン・トゥ・ダイ』からのナンバーを聴いたからだ。特に“Fixin’ To Die”のストイシズム、暗闇の中で一筋のバックライトに照らされながらアコギとブルースハーブだけで織り上げるモダンなリズム・テクスチャ―は衝撃的だったし、そこから雪崩打つストーンズ的なアシッド・ブルースの高揚も今までにはないタイプの展開だった。G.ラヴの堅固なイメージを突き崩していく新文脈の誕生、それはフジ・ロックではなく密室のリキッドルームだからこそ生まれえたエッジだったのかもしれない。レイドバックしたイメージの彼岸で彼らのサウンドの実験場の最前線に立ち会うような興奮、G.ラヴのライヴで息をつめて見守りたくなるようなテンションを感じたのは個人的に初めてのことだ。

そんな新機軸を感じつつも後半戦は恒例かつ怒涛のジャム的展開で一気にぶっとび昇天。永遠にこの時間が続けばいい、と、多くのオーディエンスが感じていたはずだ。そしてG.ラヴがアコギ一本で登場する弾き語りからバンドへとリレーされたアンコールは文字通りオールドスクールなG.ラヴ・メドレー、往年のヒット・チューンが惜しみなく連打されるサービス・セットで、“Cold Beverage”で場内の興奮はクライマックスを迎えた。曲調に拘らずショウを通底したピースフルなヴァイヴ、予想外の新機軸と緊張感、そしてフジ・ロック的フィナーレと、どこを切っても美味しいG.ラヴならではの2時間だった。(粉川しの)