ハード・ファイ @ 恵比寿リキッドルーム

21世紀のワーキング・クラス・ヒーローたるハード・ファイが、帰って来た。期待をすべて引き受けた上での堂々たる帰還に、かつて以上の新たな信頼感が募る。そんなステージであった。2011年8月発表の3作目となるフル・アルバム『キラー・サウンズ』を携えたジャパン・ツアー、1/6大阪を経ての東京・恵比寿リキッドルーム公演。バンドの登場時から、性別関係なく「雄々しい」という表現がピッタリの歓声を挙げて出迎えていたオーディエンスである。リチャード・アーチャー(Vo./G.)は何度も感謝の言葉を投げ掛け、バンド演奏の熱量がまったく衰えることがなかった約1時間半。オーディエンスのライヴへと向かう積極的な姿勢が、ハード・ファイの4人を駆り立てているのは明らかだったろう。

まずは“Tied Up Too Tight”や“Gotta Reason”といったデビュー・アルバムからの曲群を歌い、歌詞の通りにボーイズ&ガールズの血を滾らせるリチャード(立派な眉毛は健在)。歌の最中にも「戻って来れて嬉しいぜ!」と声を上げ、早くもユニオン・ジャック柄のジャケットを脱ぎ捨てていた。そしてファットなブレイクビーツを用いたシングル曲“Good For Nothing”のイントロに歓声が上がる。彼らのヒップ・ホップ嗜好が前面に押し出されたナンバーだが、コシの強い作曲のフックとスペイン語混じりのユニークな歌詞がハード・ファイならではの部分を演出してゆく。リチャードがメロディカのフレーズを吹き鳴らす名曲“Cash Machine”に沸き、そこから新作におけるレゲエ/パンク・スタイルの成熟“Excitement”に繋げて「どうだ? いい感じだろ?」と問いかけてみせるのだった。エモーショナルな歌メロを備えた4つ打ちのダンス・ロック・ナンバー“Fire In The House”では、オーディエンスの頭上でハンド・クラップが自然発生する。

ハード・ファイは、彼らに与えられた「UKパンクの後継者」というレッテルを、どこか足枷のようにも感じていた部分があったのではないか。我々リスナーはそのレッテルを好意的な意味で使っていたはずだが、ハード・ファイは21世紀現在を生きるバンドとして、彼らならではのより明確な同時代性を打ち出さなければならないという危機感を抱いていたはずだ。ヒップ・ホップやテクノにもレベル・ミュージックとしてのシンパシーを寄せ、その上でレゲエ/ダブやヒップ・ホップやテクノの推進力と拮抗するだけの、ハード・ファイらしいタフな作曲をこなさなければならなかった。それが『キラー・サウンズ』という4年ぶりのアルバムとして、結実したのではないかと思う。

カイ・スティーヴンス(B.)がコーラス・フレーズを口ずさみながらスタートしたのは、セカンド・アルバムのオープナーを飾っていたシングル曲“Suburban Nights”だ。上手い。ライヴ映えするシンガロング・ナンバーを中盤に配置する。そして間を置かずに“Like A Drug”でシンガロングが続く。『キラー・サウンズ』ではボートラ扱い(サントラ提供曲)だったものの、豪快さとポップなメロディを併せ持つ秀逸なロックンロールである。アコースティック・ギターのループを用いた“Better Do Better”、最新シングルとしてカットされたソリッドなニュー・ウェーヴ“Bring It On”、リチャードが「最高のクラウドだ! みんな飛び跳ねて、踊れ!」と叫んで、ザ・クラッシュがいつの間にかアンダーワールドになってしまっているようなユニークな一曲“Hard To Beat”とダンサブルなロック・ナンバーが並べ立てられるのだった。オーディエンスの積極性と、練り上げられたセット・リストとの歯車がガッチリと噛み合って熱狂が続く。

ドン底からの叫びをタフなビートと爆音で武装していたハード・ファイが一転、他の3人は一時ステージから捌け、リチャードが切々とフォーキーな反骨精神を弾き語る“Move On Now”。そしてバンドに戻ってやけっぱち気味にハレルヤを唱える“Television”、ダメ押しとばかりにリチャード一流の歌心で世相を嗤う“Stars Of CCTV”と楽曲を繰り出して本編をフィニッシュした。メンバーの再登場を待ち構えていたオーディエンスはまたもや“Stars On CCTV”のコーラスを歌っている。アンコールではボビー・フラー、ザ・クラッシュ、グリーン・デイetc.と歌い継がれてきたパンク・クラシック“I Fought The Law”までが飛び出して、フロアは当然の沸騰。このサーヴィスにはちょっと笑いもしたけれど、それ以上にグッとくるものがあった。歌い継がれて来たロック/パンクの反骨精神を、ハード・ファイは2012年の始まりに堂々と引き受けて、我々の前に帰って来てくれた気がしたのだ。パンクの歴史にぶら下がるのではなく、自分たちのサウンドでパンクを更新したからこそカヴァー出来る“I Fought The Law”であった。

バンドの演奏は少々粗いところもあったし、(筆者は必然のある同期サウンドについては断然支持するが)「そこは同期使わない方が生々しくて格好いいんじゃないか?」と思えてしまうような部分もあった。しかし、バンドのアティテュードと新作の成果、それにファンの熱い支持によって、実際の演奏以上の、ひたすらヴォルテージが高まってゆく幸福なライヴ空間が生み出されていた。こんなライヴを体験してしまっては、またすぐにでもハード・ファイの来日を願いたくなってしまうというものだ。(小池宏和)

01:Tied Up Too Tight
02:Gotta Reason
03:Good For Nothing
04:Cash Machine
05:Excitement
06:Fire In The House
07:Suburban Nights
08:Like A Drug
09:Better Do Better
10:Bring It On
11:Hard To Beat
12:Move On Now
13:Television
14:Stars Of CCTV
EN-1:Stay Alive
EN-2:I Fought The Law
EN-3:Living For The Weekend