開演時間ちょうどにメンバーが登場し、ホリエが深々とお辞儀をすると、客席から大きな拍手が起きる。ステージ上には必要最低限の機材と照明だけ。天上から刺す数本のライトの木漏れ日のような様も手伝い、どこか遠い世界の森の中に佇む小屋にて行われるプライヴェート・セッションのような趣だ。
1曲目“TRIBUTE”ではきらきらと乱反射するような大山純のギターが、2曲目“phantasien”では音像の中で一歩前に出て主張する日向のベースが、3曲目“Toneless Twilight”では凛とした鳴りで曲の物語を引きたてるナカヤマによるリヴァーヴの効いたドラムが、それぞれ代わる代わるこちらの耳を魅了する。だが、今日のライヴの主役はなんといってもホリエのヴォーカルと、彼が書いたメロディ/リリックであった。
「懐かしい曲からやっていきます。最後まで楽しんでいってください」というホリエのMC通りに続けられた”TOWER”、”DJ ROLL”というファースト・アルバムからの2曲を聴いている間、この曲はこんなに凄いメロディだったのか、と目から鱗が落ちるような瞬間が何度もあった。もちろん、音源で悪い曲だったと言いたいわけではない。ホリエとナカヤマの2人編成だった時代に、2人しかいないからこそ生まれたはずの曲(たとえば、A~Eメロくらいまであって除々に音数を足しながら盛り上がりを作るようなことはできなかっただろう。だから、アレンジと演奏力で起こす勢いや疾走感を殺さぬよう起伏の少ないメロディを書いたのだ)が、4人という最もベーシックな編成でシンプルに演奏されると、そのメロディの力によってこんなに大きなスケールで会場を包み込むようになるのか、という発見があったのだ。また、最近書いた曲たち、たとえば“YOU and I”のような曲では、初期のストーリーテリング調のスタイルからよりメッセージ性を強めたリリックが、通常のエレクトリック・ヴァージョンよりも簡素な演奏によって一層染みわたるように耳に流れ込んできた。良いメロディと良い詞、つまり良い「歌」に心酔し続ける、幸福な時間だったのだ。
大仰な展開など見せない穏やかでおおらかなメロディ。ごくごくシンプルなリズム。これまたごくオーソドックスなアレンジ。そして、真っすぐで素直なリリック。普通に考えれば平凡極まりない出来になってもおかしくない要素ばかりで構築されているのに、結果的にこの“シンクロ”はこれまでストレイテナーが書いてきた諸曲とは別のベクトルの中で名曲の域に到達している。なぜか。それは、(エレクトリックでの)セルフ・カヴァー作『STOUT』からセルフ・タイトル作『STRAGHTENER』を経た近年の流れにおいて、それまで常に未踏を目指してきたバンドが、自分たちが歩んできた歴史の価値を認め、初めて原点回帰を標榜し、さらにその原点回帰をただの原点回帰以上のリビルドとして成功させたことによって、「素のストレイテナー」への確固たる自信を持つことができたからではないだろうか。今の自分たちであれば、何の虚飾もなく在りのままパーソナリティを音に映して演奏すれば必ず素晴らしいものになるという確信こそが今日のライヴであり、また、その結晶が“シンクロ”だったのだと思うのである。良いバンドが、シンプルで良い演奏で鳴らす、良い曲たち。最後にもう一度繰り返したい。今日は、とても良いものを観た。(長瀬昇)
1.TRIBUTE
2.phantasien
3.Toneless Twilight
4.TOWER
5.DJ ROLL
6.Sad Code
7.Starless Coaster
8.GHOST OF CHRISTMAS PAST
9.YOU and I
10.EVERGREEN
11.Blue Sinks In Green
12.Farewell Dear Deadman
【休憩】
13.SIX DAY WONDER
14.LIVES
15.Dark Blue Day
16.REBIRTH
17.TENDER
18.MAGIC WORDS
19.KILLER TUNE
20.ネクサス
21.シンクロ
EN1 Melodic Storm
EN2 ROCKSTEADY