『BAYCAMP 2012』@川崎市東扇島東公園

2011年より、冬と夏の年2回のライヴ・イヴェントとしてスタートしたBAYCAMP。夏の開催は、昨年同様、開催日の午後から翌日の明け方まで、オールナイトの屋外フェスとして行われるスタイルが定着。場所は、神奈川県川崎市のベイエリアにある物流倉庫や工場群に囲まれた東扇島東公園だ。緑いっぱいの自然派フェスとは趣を異にする、独特の美しい夜景を背負って成功を収めた一昼夜の模様をレポートしたい。

全37組(そのうち、DJ出演等では複数の時間帯を担当したアーティストもいる)のアクトすべてを一人で観ることは物理的に不可能なので、筆者は交互に稼働する2つのステージ=EAST ISLAND STAGEとPLANT STAGEを中心に、時折FREE THROW DJ TENT(ステージ名の割にライヴ出演を果たすアクトも多い)にも足を運ぶという形で観て回った。それでも20組以上のアクトを観ることが出来たが、すべてのパフォーマンスの様子を書き連ねてゆくと大変なことになってしまうので、フェス全体の雰囲気を伝えるレポートに止めておきたい。

フェスの周辺情報についてもう少し。まず、オールナイトのフェスという点については、神奈川県の青少年保護育成条例に則って18歳未満の参加者は開催日の21時以降は滞在不可。そのため、一般チケットより割安な「U-18 TICKET」も販売されていた。スマホ向けの放送局であるNOTTVの生中継が行われていた(10/13には4時間の特別番組も組まれる)ことも、深夜の生のステージに触れることが出来ない若い音楽ファンに対する配慮が込められていたのだろう。また、昨年はBAYSIDE FREE THROW TENTという名称だったDJテントも、公園内の海辺寄りの場所から、入場ゲートをくぐってすぐのフードコートなどに隣接する場所へと移転していた。DJテントとは言っても大型ステージとの間の音漏れ上等なオープンエア型ステージで、休憩や食事がてらのんびりとこちらで過ごす参加者も多かった。それによって、2つの大型ステージを臨む観客エリアが、より広めに確保されることにもなっていた。

以上のような点がなぜ気になったのかというと、とにかく参加者が多かったからだ。昨年は深夜に偏執狂的な爆音をぶっ放していたPOLYSICSが今年のEAST ISLAND STAGEのトップ・バッター(15:30〜)を務めていたのだけれど、その時点でステージ前からもうもうと砂埃が舞い上がるような盛り上がりを見せていて、まだまだ参加者がとどまることなく流入してくる。当日券も用意されてはいたようだが、プレイガイドによっては既にチケットはソールド・アウトしていたらしい。2年目にして早くも夏フェスとしての成功と定着を伺わせるBAYCAMPの光景であった。

多くの物流倉庫や高速道路、海を挟んで向こう岸には火力発電所や化学工場を臨み、大型のタンカーが眼前を行き交い、羽田空港を離着陸する航空機が頭上の低空を舞う。文明の中の生活のリアルを突き付けてくるようなBAYCAMPのロケーションは、他のフェスではなかなか得難い独特の思いやフィーリングをもたらしてくれる。陽が沈む頃の情景は、無数のランプが煌めき、プラントの高い鉄塔の先に炎がゆらめいていて、本当に美しいものだ。The Birthdayのキュウちゃんが「海が見えて、非常に景色がいいですね」と挨拶した後、チバがぼそりと口にした「まあ、どんだけ汚れてても海は海だからね」という言葉は、生きることに真っ向対峙する現代型ロッカーのチバらしい言葉で、余りにもBAYCAMP的な名言だった。“涙がこぼれそう”では、歌詞を投げ打って「船だー!!」と声を上げる一幕も。

名言と言えば、[Champagne]の川上。時代を象徴するような最新型高性能エンジン搭載のロックンロールはいつも通りだとしても、なんかずいぶん演奏に気合が入っていないかと思っていたら「川崎生まれの川崎育ち、川崎在住の[Champagne]です! BAYCAMPに参加することが出来て光栄です! なんで去年、呼ばれなかったんだろう。昔、音楽の街・川崎だと思って路上ライヴをしていたら、警察に止められて。今日は野外で、思いっきり演奏します」と。なるほど、漲る気合にも納得だ。

出演時間を少し遡って、ASIAN KUNG-FU GENERATION。18歳未満もOKな時間帯ということもあって大盛況だったけれど、筆者は1曲目の“迷子犬と雨のビート”を聴いたところで一旦離脱。なぜかというと、フードコートで行列が絶えなかったアジカン・潔プロデュースの店のチキンクリームカレーピラフを食べてみたかったからだ。アジカンの店ならアジカンの出演中は空いているだろう、という作戦が成功し、すぐに戻ることが出来た。おかげでゴッチのMCは聞き逃してしまったが。

昨年のトリ出演時、圧巻のステージを見せてくれたモーサムに後ろ髪引かれながら向かったのは、DJテントにおける細美武士の弾き語りライヴ。洋楽カヴァーやthe HIATUSの楽曲は期待通りだったが、エルレの“金星”や“Make A Wish”が披露されたことには心底驚いたし、震えるほど感動した。彼がエルレの曲を歌ったという物語性に感動したこともあるが、それ以上に、「みんなの歌」になっているエルレ曲を改めて目の当たりにして、感動が膨れ上がったのだと思う。素晴らしかった。

日付が変わるところに出演したのは、Hermann H. & The Pacemakers。ヘルマン印の鋭角なダンス性を立て続けに浴びせかけたところに、“サマーブレイカー”の秀逸な切なメロが繰り出されるのはズルい。昨年の(今回も出演)PENPALSと同じく、単にイヴェントの運営サイドというよりもどちらかというとロック・ファン目線のような、活動再開組をサポートするブッキングがいい。また、夜の深い時間帯に独特のラップ・スキルと強力なバンド演奏とで強力なグルーヴをこねくり回した鎮座DOPENESS & DOPING BANDもヤバかった。そろそろ疲れてきたというこちらの体を叩き起こすような、ドSブッキングがキツい(喜んでいます)。最前線で踊ってしまった。

EAST ISLAND STAGEのアンカーであるsmorgasの2連砲MCミクスチャーが完全燃焼のステージを繰り広げたのち、PLANT STAGEのトリは新作『すとーりーず』を発表したばかりのZAZEN BOYS。楽曲が矢継ぎ早に繰り出される新作ライヴで、笑いを禁じ得ないほどの超人的コンビネーションと「ロック日本語使い現代最高峰」向井秀徳の今がビシビシと決まってゆくさまに、昇る朝日を眺めることも忘れていた。新作ツアーが楽しみだ。書き足りないことはたくさんあるのだけれど、消耗した体力以上に充実感が募るBAYCAMPの朝は、今年も素晴らしいものだった。今後ぜひ、より多くの人に味わって貰いたい。(小池宏和)