レニー・ケイによるアコギのストロークに、《We shall live again》のリフレインとオーディエンスのハンド・クラップが重なってゆく“ゴースト・ダンス”の後には、「ウィー・ラヴ・ユー!!」と放たれる声に笑顔で「ウィー・ラヴ・ユー、トゥー」と応え、「次の曲は、エイミー・ワインハウスの思い出を歌った曲よ」と“ディス・イズ・ザ・ガール”へ。スウィートなR&Bを奏でる演奏が、最高の追悼ナンバーと化してポップ・ミュージック・ファンの心を慰めてくれる。そして前線のオーディエンスと触れ合いながらの“ダンシング・ベアフット”。新旧の名曲群が入れ替わり立ち替わり繰り出され、逃れようのない高揚感を形成してゆく。
「昨日は仙台に行ってね。お酒とか焼きそばとか、美味しいものを食べたの。それで、たくさんの船が流されてしまった漁師町の方にも行って、残された瓦礫を見て。神社でお祈りをしてきたわ。今回、日本に来ることができて本当に良かった。大変な思いを抱えている家族のために、この曲を捧げます」と、今度は自らアコギを奏で、トリプル・ギター編成のコードの循環がエモーションを増幅させる“南十字星の下で”を披露する。何よりも彼女自身が、アートに打ち込む青春を共にしたロバート・メイプルソープや、夫フレッドら身近な人々を次々に失い、大きな喪失感と格闘していた時期のナンバーである。その説得力は生半なものではない。深いレイヤーを織りなすギター・サウンドの中、幾人ものオーディエンスが声を上げていた。
今回のジャパン・ツアーにかけるパティとバンドの意気込みは、音楽面だけには留まらない。会場ではチャリティーの募金が募られていたのだが、ラッフル(慈善福引)の要領でステージ上のパティがくじ引きを行い、ジェイのバスドラムのヘッド(「Banga」そして「絆」の文字が刻まれたスペシャル・デザイン)がプレゼントされるという一幕も盛り込まれていた。これは楽しい。幸運にもドラム・ヘッドを獲得したのは、パティ曰く「ハンサムな人だったわよ」という男性。この日16万円以上が集まったという募金は、福島県にある児童養護施設・青葉学園に寄付されるという。
「世界中でたくさんの人が、自然の脅威や、病気や、戦争の危険に晒されているわ。福島の漁師さんたちもそうね。でも、私たちは、新しい世代の子供たちのために、世界の未来を築いていかなければならないと思うの」。“ピーサブル・キングダム”を、全身から迸るような力強い歌声で歌い、盛大なコーラスを巻くパティは、最後に「それは、人類のルールなのよ」という一言を添えて、本編の最終ナンバー“グローリア”へと向かった。《イエスは誰かの罪を被って死んだ。でもそれはあたしのせいじゃない》の一節から始まるストーリーテリングが、ロックンロールの力を借りて膨大な量のエネルギーに満ちる。「アッ、アッ」というパティの発声の躍動感で加速しながら、どこまでも自由な生への渇望を描き出していった。音楽と言葉、生身の肉体と知性。人が持ちうるものを総動員させて、今日も運命に立ち向かうパティ・スミスがいた。
※レポートの本文中、バンド・メンバーの表記に事実誤認の箇所がありましたので、一部を削除しました。アーティストや関係者、ファンの皆様にご迷惑をお掛けしたことを、お詫びいたします。ご指摘いただき、ありがとうございました。
SETLIST
01. April Fool
02. Redondo Beach
03. Free Money
04. Fuji-san
05. Ghost Dance
06. This Is the Girl
07. Dancing Barefoot
08. Beneath the Southern Cross
09. (medley)
10. Because the Night
11. Pissing a River
12. Peacable Kingdom
13. Gloria
encore
01. Banga
02. People Have the Power