ORANGE RANGE @ ZEPP TOKYO

photo by 平野タカシ
先月末より全国9都市11公演をまわってきたツアー『RANGE AID+ presents「RWD←SCREAM 013」』の最終日となる本日。ライヴ序盤のHIROKIによる「1つ過去の作品をフィーチャーして今のオレンジレンジが演奏するとどうなるのかというのを皆で楽しむ」というMCがそのまま表すように、このツアーでは彼らの2ndアルバム『musiQ』の再提示がコンセプトとなっていた。実際、全19の『musiQ』収録曲の中で本日演奏されなかったのは、アルバム最後を飾っていたエレクトロニカ・トラック“ジパング2ジパング”のみ。つまり、あの特濃アルバムがほぼ丸々楽しめる、贅沢極まりない夜だったのである。

定刻を5分ほどまわった頃、超満員のZEPP TOKYOが静かに暗転していく。真っ暗になったフロアに、ストリングスの音色が響く。少しオレンジレンジらしくないSEだな、と思っていると、ライトが灯り出し、実際には(薄幕がかけられた向こう側の)ステージの上で8人の弦楽隊が実演し放っている音色であることが明かされる。そして、その旋律に乗せてHIROKIが歌い出す。≪花びらのように散りゆく中で 夢みたいに 君に出逢えたキセキ≫ “花”だ。フロアにストリングスの音量を遥かに上回る驚嘆と歓喜の絶叫が轟き、まるで収まらない。1ターン目からジョーカーを切るような大胆にして鮮やかなこの配曲、素晴らしいの一言である。結局この1曲にのみ用いられたストリングスを最大活用した広大なサウンドスケープで歌われたこの名曲でフロアをガッチリ掌握した次の一手は、“チェスト”。薄幕が落とされた先のバンドが練り上げる、音源と比してあまりにも強度を増したそのビートの強度に圧倒される。ここから続く“FULLTHROTTLE”への怒涛の流れに、フロアもまたこのまま蒸発してしまうのではないかと心配になるほど天井無しに熱気を高めていった。

ナンセンスな世界観を多展開しながら高揚感のあるオケと合わせることでストレンジなロック・オペラに仕立て上げた“papa”を挟み、放たれたのは“ロコローション”。フロアには言わずもがなの特大合唱が巻き起こる。この曲のみならず、1つの音楽が本当に多くの人に共有され続けてきたという事実が、今日のライヴでは次から次へとアップデートされていった。もちろん、『musiQ』の250万枚という途方もないセールスに鑑みれば、それも当然なのかもしれないが、その音楽の内容に目を向ければ、これはロックもヒップホップもダンスホール・レゲエもアンビエントも祭囃子も飲み込んだ雑多なミクスチャーなのである。決して耳馴染みよくスマートに整えられた産業ポップスというわけではない。しかし、やはりポップなのだ、全てが。何の作為もなく(見せず)人を巻き込んでしまう、無邪気でありながら凶暴なまでのポップネスが全ての楽曲に渦巻いているのである。そのポップネスが、リリース当時間違いなく時代の頂点に座したという事実をも血肉とし、このアルバムを今や侵すことのできない日本大衆音楽の金字塔として聳えさせていることをオーディエンスに再確認させたことは、間違いなく今日のライヴの大きな収穫となったはず。

ライヴ中盤には、オフィシャルファンクラブ「RANGE AID+」会員に事前募集したリクエスト曲を演奏するコーナーも。地区ごとの集計をしているとのことだが、東京での上位は“Иatural Pop”、“キズナ”、“キリキリマイ”の3曲。こうしたアンケートで通常演奏されないようコアな曲に票が集まるのではなく、素直に人気曲が上位となるという健全さは、やはり彼らの全ての楽曲にポップという絶対軸が貫かれていて、その中で特に分かりやすく伝わりやすいものを正しく世に提示してきたからこそのことだろう。誠実なバンドと正直なファン、幸福な関係である。それを何より端的に物語るように、同会場で昨日行ったライヴに来ていた人への配慮も兼ねて最終日のみのサプライズとして演奏された“チャンピオーネ”を含め、フロアには始終歓喜が爆発しつづけていた。

アルバムのオープニング・トラック“KA・RI・SU・MA”により再び『musiQ』の流れに入り、ハイテンションをキープしなが4曲を駆け抜けた後、本編の最後は“ミチシルベ ~a road home~”→“SP Thanx”によって締められた。『musiQ』をリリースしてからのこの9年間に歩んできた道のりを振り返り、またその道のりに関わった全ての人々に感謝を捧げるという、これしかないというような素晴らしいフィナーレである。

アンコールでは、4月17日にリリースされる実に3年9カ月ぶりのニュー・シングルから、“オボロナアゲハ”が披露された。切れ味鋭いギターカッティングがリズム隊にスリリングに絡むグルーヴの上で、不穏なシンセのリフレインが印象的に繰り返されながら、複雑な曲構成が目まぐるしく展開されていく。でありながら、全体像はなぜか(やはり)これまたとてもポップになっている。フロアの盛り上がりも十二分。どこからどう見ても、新アンセムの誕生だろう。しかしこの曲を聴いていると、この9年間で彼らが恐らくは意識的に加速度的に獲得してきた音楽的含蓄と演奏技術(特にNAOTOは、元々図抜けていたセンスに見合うテクニックが備わり、えらいことになっている)に改めて驚かされる。また、何より凄いのが、それでありながら『musiQ』と同一の「無邪気なポップネス」を未だに有していることである。そうでなければ、流行りの「名盤完全再現ライヴ」のようなやり方ならまだしも、過去の作品をモチーフにし、ほぼ全曲を今の自分たちの表現として再構築して最新の曲と並列に繋げるような真似はできないはず。音楽的情報量を増幅させていくバンドほど、真っ直ぐ自身の過去と向き合うことは困難を伴うはずだ。だが、オレンジレンジにはできてしまうのである。それができてしまうのがORANGE RANGEというバンドの幸福さの理由だろう。しかし重要なのは理由よりも、そんなバンドだからこそ、老若男女、親から子供へ子供から親へと世代を越えて愛情が伝播していっているという結果に他ならない。終演後の場外でオフィシャル・グッズを抱え記念撮影をする何組もの親子を見ていたら、そう思えてならなかった。(長瀬昇)


チェスト
FULLTHROTTLE
papa
ロコローション
~パディ ボン マヘ~
Oh! Yeah
シティボーイ
Beat Ball
男子ing session
Иatural Pop ※リクエスト
キズナ ※リクエスト
キリキリマイ ※リクエスト
チャンピオーネ ※リクエスト
KA・RI・SU・MA
ZUNG ZUNG FUNKY MUSIC
祭男爵
HUB☆STAR
謝謝
ミチシルベ ~a road home~
SP Thanx


アンコール
オボロナアゲハ
以心電信