レディオヘッドのイスラエル公演をめぐり、トム・ヨークとパレスチナ支援団体らが批判の応酬


今月から7月にかけて主にヨーロッパでのフェスティバルに出演しているレディオヘッドだが、7月19日に予定しているイスラエルのテルアビブ公演の中止を呼びかけられ、それへのトム・ヨークの反論がパレスチナ支援団体などから批判の的となっている。

イスラエルの占領地域ではパレスチナ人へ人権侵害が行われていると人権団体の「アムネスティ・インターナショナル」などが指摘しており、4月にはサーストン・ムーアロジャー・ウォーターズTV・オン・ザ・レディオのトゥンデ・アデビンペら40名以上のアーティストや作家らによる連名で、テルアビブ公演を取りやめるようにレディオヘッドに呼びかける書簡が公開されている。

この経緯は以下の記事より。
レディオヘッドのイスラエル公演に一部ミュージシャンたちが中止要請
今年の夏にイスラエルのテルアヴィヴでのライブを予定しているレディオヘッドだが、サーストン・ムーア、ロジャー・ウォーターズ、TVオン・ザ・レディオのトゥンデ・アデビンペなどのミュージシャンがこの公演を取り止めるように連名でバンドに呼びかけている。 呼びかけはイスラエルでのアーティスト活…


これについてトム・ヨークは「ローリングストーン」誌に対して、そもそも自分は文化的なボイコットや制裁には反対だと明かし、団体側としては白か黒かという論法だけを押しつけてくるのでそのやり方には問題があると説明、次のように語っている。

「連中がぼくたちを個人的に説得しようとするんじゃなくて、公の場でこっちの顔に泥を塗るような形を取っていることに心が深く痛むよ。要するに、それはぼくたちが状況をよく理解していないか、まともな判断を自分たちじゃできないくらい頭が悪いかのどちらかだと決めつけているわけで、それはものすごくこっちには侮辱的なことだよ。極端なまでに思い上がったやり方だと思うよ。ものすごく無礼なことだし、どうしてイスラエルに行ってロック・コンサートをやったり、大学で講演したりすることが間違ったことになるのか、ぼくには理解できないよ(キャンペーンの活動母体となっている団体BDSではイスラエルの大学施設での講演などもボイコットするように呼びかけている)」

さらにトムは次のようにも反論している。

「こうしたことにぼくたちの中で一番詳しいのはジョニー(・グリーンウッド)なんだ。ジョニーにはパレスチナ人やイスラエル人の友達がいるし、奥さんはアラブ系ユダヤ人だからね。それなのにこれだけたくさんの人たちが遠巻きからぼくたちにいろいろ投げつけては横断幕を掲げてるわけだよね、『なんにもわかってない!』って。それがジョニーをどれだけ傷つけているか考えてごらんよ。こうしたことで騒がれていることでぼくたちがどれだけ気分を害しているか、それも想像してほしいよ。ぼくたちを『アパルトヘイト』呼ばわりすれば、それで全部解決したかのようにさ。マジで不気味だから。本当にものすごいエネルギーが無駄になってるよ。もっとポジティブに使われるべきエネルギーがね。

この件について話したのは今回が初めてなんだよ。できればなにも言いたくない自分もいて、というのもなにか言っただけでどうせ火に油を注ぐだけだからなんだ。でも、それと同時に、もし正直に自分の気持ちを言わせてもらうとするのなら、これはものすごく腹立たしいよ。仮にも自分が尊敬しているようなアーティストから、これだけ活動してきてもぼくたちにはまともなモラルを持ち合わせた判断ができないって決めつけられてるんだからね。完全に上から目線で言ってるし、それで当然だと思ってるところがぼくには信じられないよ。本当に驚いちゃうよね」

さらにトムは文化的な活動のボイコットや禁止は、人々を分断するだけだとまとめていて、
「こういうことをしていると分断のエネルギーが大きくなるだけなんだ。これじゃあ人々を集わせることにはならないんだ。対話も促されないし、理解も生まれない」と説明し、分断を生み出すとどうなるかを次のように語っている。

「そうやってファッキン・テリーザ・メイ首相が生まれるんだよ。そうやって(イスラエルの)ネタニヤフ首相が生まれるんだ。そうやってトランプが大統領になるんだよ。それがすごく分断が進んだ状況なんだよ」


これに対して今回のキャンペーンを展開している活動団体「アーティスツ・フォー・パレスチナUK」は書簡に署名した映画監督のケン・ローチの「トムが迫られている選択は簡単なものなんだよ。抑圧者の側に立つか、さもなくば被抑圧者の側に立つかというだけのことなんだ」という発言を団体オフィシャル・サイトに掲載した。

さらに団体としての声明では沈黙を守っていたトムが口を開いたのは収穫だったとしながらも、次のようにトムに反論している。

「しかし、トム・ヨークの発言は4月24日付の『アーティスツ・フォー・パレスチナUK』の公開書簡に署名したデズモンド・ツツ元大司教、サーストン・ムーア、ジュリエット・スティーヴンソン、ピーター・コスミンスキー、ベラ・フロイド、トゥンデ・アデビンペ、ロバート・ワイアットらを含む多数の有志のみなさんが望んでいた熟慮された返事ではなく、急場しのぎのコメントのようなものでした。

わたしたちはトム・ヨークのコメントをよく吟味し、トムと彼のバンドがこれからまさに植民地支配の状況が進行している場所へ向かおうとしていることをきちんと理解している痕跡があるかどうか見極めようとしました。しかし、その手がかかりはみつかりませんでした。

トム・ヨークのコメントを読んだパレスチナ人は誰もが、財産を強奪され、追放を強いられてきていること、そして軍事支配下での生活がどのようなものなのか、それが少しでもこの人物にはわかっているのだろうとか疑問に思うでしょう。トム・ヨークはギタリストのジョニー・グリーンウッドには『パレスチナ人の友達』がいるということ以外には、パレスチナ人についてもまるで触れていません。トム、そんな人はたくさんいるのです。だからといって、かつてあったパレスチナ人の村を潰してその上に建設した4万人強収容するスタジアムで演奏することを正当化できることにはならないとわたしたちは考えます。

わたしたちはレディオヘッドにモラルのともなう判断ができるかどうかということで言い争ったりはしていません。書簡に署名した有志はみな、あなたたちの判断が間違っていると考えています。

トム・ヨークは人々が個人的に自分たちを説得しようともせず、『遠巻きからぼくたちにいろいろ投げつけてくる』ことに不満を表明していますが、少なくともわたしたちの同僚が3名、個人的にレディオヘッドに接触しようと試みました。実際、この交渉がうまくいって実を結ぶことを願って、わたしたちは数週間も書簡の公開を延ばしてきました。しかし、そうはなりませんでした。

トム・ヨークはイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相や人々の分断の危険性について不満を述べています。しかし、彼はレディオヘッドのコンサートそのものが政治的な表明であること、そしてそれは根深い分裂を伴うものだということを理解していません。コンサートをやってしまうということは、イスラエルの人々に占領のことやパレスチナ人の苦しみについて昔から語られてきている退屈な話などについて心を煩わせることなどないのだと言ってしまうことになります。『軍服を脱いで、今日見たことや自分がしたことはもう忘れよう、レディオヘッドがそうしても問題ないと言うのだから』と。彼らはあなたに代わってモラルの判断をしたのです、レディオヘッドはなにも心配することはないと言うためにここに来たのだと。」

また、レディオヘッドのファンでもテルアビブ公演中止をバンドに呼びかけているファン集団、レディオヘッド・ファンズ・フォー・パレスチナはオフィシャル・ブログで、「わたしたちは何度も郵便でお願いの手紙をバンドに送りましたし、公のイベントでもきちんと断って渡そうともしましたし、バンドのスタッフや広報担当者などにも連絡しましたが、あなたたちは無視しました」と明かしていて、「そっちから無視しておいて個人的に接触しようとしなかったなどとは絶対に言わせません」とバンドを批判している。そして、ファンとしてグラストンベリーも観る予定だが横断幕も建てるつもりだと宣言している。

さらに「パレスチナのためのイスラエルへの学術文化ボイコット・キャンペーン」という団体の広報はイスラエルへのボイコット・キャンペーンを取りまとめている団体BDSに、次のように今回のトムの発言を報告している。

「少なくともトム・ヨークの言っていることに正しいこともあります。抑圧を受けていて、自分たちの権利を主張して闘争しているコミュニティのために張られるボイコット・キャンペーンというのは、確かに人々の分断を招くということです。

モンゴメリー・バス・ボイコット事件(50年代のアメリカで白人優先席に座っていてどくように求められた黒人婦人がそれを拒否して逮捕されたことへの抗議として、マーティン・ルーサー・キング牧師が組織したバス会社の利用のボイコット運動)、デラノぶどうボイコット事件(60年代にカリフォルニアのぶどう農園で低賃金を強いられていたフィリピン系とメキシコ系の労働者が総勢でストライキを決起した事件)、南アフリカの反アパルトヘイト・ボイコット(南アフリカの人種差別政策に反対して、多数の欧米のアーティストが南アフリカでの公演活動を80年代から1994年までボイコットしていた)など、そのほかのいろんなボイコット運動の渦中でも、抑圧者とのビジネスをいつも通りに続けた輩は常にいたのです。

そういう輩は、抑圧された人たちの権利と共に、歴史の正しい側についた人たちとは区別されることになりました。はたして、レディオヘッドは自分たちがどちら側についていると考えているのでしょう?」

なお、BDSによる反イスラエル・ボイコット・キャンペーンについては、レディオヘッドのほかにもジョン・ライドン、ジョン・ボン・ジョヴィジギー・マーリーのほか、作家のウンベルト・エーコやJ・K・ローリング、映画監督のコーエン兄弟らが反対を表明してきている。