今年の3月でシングル・カットのリリースから35年を迎えるニュー・オーダーの名曲“Blue Monday”のジャケットについてのエピソードが英メディア「Radio X」で紹介されている。
同楽曲はバンドにとって画期的な飛躍を示すシングルになっただけでなく、80年代末のイギリスのレイヴ・シーンとイギリスのインディ・ロックの融合を予見する作品だったともいわれ、今も史上最大のセールスを誇る12インチ・シングルとしても知られている。オリジナル・バージョンは当時のパソコンで使われていた5インチのフロッピー・ディスクをイメージしたジャケットでも有名だった。
「Radio X」によると、ファクトリー・レコードの専属デザイナーだったピーター・サヴィルが2005年の「MOJO Magazine」に対してこのジャケット制作にまつわるエピソードを語っていたことがあるのだという。
1982年にニュー・オーダーのリハーサルの様子を見に行ったピーターは、バンドが使っていた機材の中にフロッピー・ディスクを見かけた時のことを次のように回想している。
テーブルの上にとっても面白そうなものを見つけたんだよ。(ドラマーの)スティーヴン・モリスに、それはフロッピー・ディスクっていうんだよ、見たことないの? って教えてもらった。
それからそれを1枚もらえないかってお願いして、(マンチェスターから)ロンドンまで車で帰りながら、カセットで“Blue Monday”を聴いて、このフロッピー・ディスクのことをちらちら眺めてたんだ。
このディスクとバンドの新しい方向性には本質的な繋がりがあるのは分かったからね(このシングルで、バンドは初めて本格的なプログラミングを導入する)。
高速道路を降りる頃には、“Blue Monday”のジャケットはフロッピー・ディスクのケースをそのまま使うと決めてたんだ。
そうしてフロッピー・ディスクのケースを忠実に再現したデザインとなったが、右端の色つきの帯については1983年のセカンド・アルバム『権力の美学』のジャケットと連動するものだったことをピーターは明かしている。
『権力の美学』では19世紀の画家、アンリ・ランタン=ラトゥールの薔薇の静物画が表のジャケットとして使われているが、ピーターはこのラトゥールの絵に使われている色彩をすべてリストアップし、それを円形のカラーチャートとして配置して裏ジャケットに掲載しているのだ。
しかも、この円形の形はフロッピー・ディスクの磁気ディスク上のデータ保存の際の区画割をそのまま参照にしたデザインでもあった。そしてこの区画に1から9までの数字とAからZまでの英文字を対応させた文字チャートにもしてあるのだという。
というわけで、このチャートを参考にして“Blue Monday”のジャケットの表側の右端の帯の色を読み解いていくと「FAC73(ファクトリー・レコードのリリース通し番号)BLUE MONDAY AND」となり、ジャケットをひっくり返して今度は左端にある色の帯を読み解くと「THE BEACH NEW ORDER」とB面曲“The Beach”とバンド名が記されてあるのだという。
しかし、これだけの色の印刷と、フロッピー・ディスクのケースを模して穴を開ける加工なども必要となって、ジャケットのコストがかなりかさむことになったという。実際、ファクトリー・レコードの内実を描いた映画『24アワー・パーティー・ピープル』では、実は“Blue Monday”は売れれば売れるほど赤字がかさんでいくという噂話が交わされているくだりが紹介されている。
ただ、それは極端に盛られた話で、そもそもファクトリーのオーナーだったトニー・ウィルソンはそういう伝説を吹聴するのが得意だったとピーターは回想していて、次のように振り返っている。
僕としては誰かしらが埋め合わせのために、価格を調節するはずだと思ってたんだ。ただ、請求書を受け取るその日までは“Blue Monday”の制作にいくらかかっているのか誰も分かってなかったと思うよ。