すでに発表されている通り、アルバムのタイトルは『Rejoice』。トラックリストは未公開だが、2022年の“Anarchy”以降のすべての配信/CDシングル表題曲を含む全15曲が収録される。CDのみのバージョンに加えてCD+DVD/Blu-rayがつくバージョンも発売され、そちらには昨年2月に開催されたホールツアー「SHOCKING NUTS TOUR」日本武道館公演のライブ映像やツアードキュメンタリーが収められているという(ちなみにこの映像は7月4〜7日の4日間限定で劇場での上映も行われる)。つまり、コロナ禍を経てさらに加速度を上げながら進化を果たしてきたヒゲダンの3年間がみっちみちに詰まったアルバムということだ。
ヒゲダンのポップミュージックをアップデートすると同時にさらなる巨大なスケールへと彼らを連れていったアルバム『Editorial』のあと、彼らが「次の一手」としてリリースしたのは、映画『コンフィデンスマンJP 英雄編』の主題歌として書き下ろされた“Anarchy”だった。「ザ・クラッシュの“Rock the Casbah”みたいな曲を」というオーダーに応えて制作されたというこの曲は、まさに後期クラッシュのようでもあり、あるいはゴリラズのようでもあり、リズムマシンのようなタイトなリズムと延々繰り返されるベースリフ、ファンキーなギターが今聴いてもきわめて新鮮というか、ある種異質な感触を与えるものになっている。これを聴いた時、僕は「あ、ヒゲダン容赦しなくなったな」と思ったのを覚えている。「容赦しなくなった」というのは、ポップスとしての安心感や安定感を守るのではなく、積極的にそこに切れ込みを入れ、音楽的な挑戦心や野心を曝け出すことで、より強烈な爪痕をリスナーの内側に残していくようになったということだ。『Editorial』までをかけて積み上げてきたポップメイカーとしての側面から、よりアグレッシブで大胆なバンドへ進化しながら、それでもなおポップスとしての存在感を発揮し続ける、そんなヒゲダンの自信に溢れた未来図が、この1曲からは透けて見えた。文字通り「アナーキー」なポップバンドとして、彼らは新たなスタートを切ったのだ。(以下、本誌記事に続く)
文=小川智宏
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年7月号より抜粋)
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