これらの作品には間違いなく、初期状態のバンドだけが持ちうる最良の瞬間がパッケージングされている。生まれたてのアンサンブルが空気に触れた瞬間の摩擦と感動を捉えた、生々しさと透明感が混ざり合うサウンド。巷に溢れるどんなゴージャスなアレンジが施されたポップソングにも響き負けない、純粋で特別なグッドメロディ。何にも掻き消されまいと、世界に向けて高らかに屹立する歌声。余計な味付けを必要とせず、自分たちの天然色で周りを見惚れさせてしまう圧倒的な存在感。エネルギッシュでロマンチックな、「永遠に記憶に焼き付けておきたい」と思える一瞬が、今のPURPLE BUBBLEの楽曲には見事に保存されている。
EPの1曲目であり、現状バンド最大のヒット曲となった“ナツメグ”で歌われる歌詞はこうだ──《これからぶつかる/無数に連なる壁の先/暗闇の中で1人もがき/負けてしまいそうな時もある/だけどそんな時は僕がさ/寄り添い愛を歌うよ》。
未来を獲得することが困難な世界で、今、こんなにも真っ直ぐに聴き手と「約束」を交わすことができるバンドがここにいる。「答えのなさ」や「わからなさ」に逃げ込まず、徹底的に自分たちの「確信」を歌うバンドがここにいる。
どんな未来が待っていようと、今、僕らが交わした約束は誰にも奪えないということを、PURPLE BUBBLEは知っている。
文=天野史彬
(『ROCKIN'ON JAPAN』2025年5月号より抜粋)
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