ピーター・フック、幻のジョイ・ディヴィジョン音源に盗難届が出されていた裏を明かす


自身のユニット、ザ・ライトを率いてニュー・オーダーの1981年の作品『ムーヴメント』と83年の『権力の美学』の全曲ライヴ・ツアーをアメリカで敢行しているピーター・フックだが、今年に入ってネットで売りに出されたジョイ・ディヴィジョンやニュー・オーダーのアウトテイク音源やマスター・テープのコピー音源の行方についてさらに突っ込んだ話を明らかにしている。

「最初に報道された話よりもよっぽど込み入った話なんだよ」とピーターは『ローリング・ストーン』誌に語っている。
「ジュリー・アダムソン(かつてニュー・オーダーやジョイ・ディヴィジョンのプロデューサー、マーティン・ハネットのアシスタントも務めたプロデューサー)は相当昔にこのテープを発見していて、俺たちもなんとかして譲ってもらいたいと接触してたんだよ。それがある時からテープが盗まれたと言い出して、警察に被害届まで出したと言い出してね。これが数年前の話ね。と思ったら、今年の夏になったら出てきたっていう話で、自分のところに戻されたというんだよ! なんとも不思議な話だねえ。俺の奥さんがかなり正確にこの状況を言い表していて、報償と身代金は紙一重だというんだよね。俺たちとしては髪長姫のラプンツェルのように、誰かが髪を牢の塔から垂らしてくれれば、俺がそれをつたってよじ登ってテープを回収しようと思うんだけど。実はジュリーの前の旦那が『アンノウン・プレジャーズ』や『クローサー』のエンジニアを手がけたクリス・ネーグルで、クリスは俺の親友でもあるんだ」

「クリスはジュリーに電話してテープを戻すべきだと言ってくれてるんだよ。『テープは元々バンドのもので、きみの持ち物じゃないんだ!』ってね。ジュリーは俺たちのだけじゃなくて山ほどテープを持ってるんだよ。シンプリー・レッドとか、マガジンとかね。ジュリーはいろんなバンドの返却すべきテープをたくさん持ってるんだよ。返却するべきなのは、元々そのテープの制作にかかっているお金はバンドが払っているからだよね」

「ワーナーはものすごく腹を立てて、もう訴訟に動いてるんだ。俺も2週間くらい前にジュリーに会ったばっかりで、『で、返してくれんの?』って訊いたら『だめ。報償が少ないわ』って話で、ハッピー・エンディングとしてまとまらなかったんだ。ジュリーが持ってる音源はマスターのコピーがほとんどなんだよね。昔はさ、テイクをたくさんやるような予算的な余裕もなかったんだよね。今のコンピューターみたいにいくらでもメモリーの空きがありますっていう世界じゃないからさ。クリスも、『マーティンやぼくは滅多にアウトテイクなんか作れなかった!』って言ってるわけで、それはそんな余裕がなかったからなんだ。テイクを録って『これクソだな』って思ったら、もったいないからテープを巻き戻してその上に新しいテイクをレコーディングして再利用してたもんなんだよ。だから、アウトテイクは本当に希少なんだ。で、ジュリーはそんなアウトテイクを一巻分持ってるんだよね。もう1本はあのアルバム(『アンノウン・プレジャーズ』)のマスター・コピーだというんだよ」

「ジョイ・ディヴィジョンについてはマスターなるものがなくなってるんだよ。オリジナル作品24曲の全トラックについてね。これが長年経ってようやく発見された、それに一番近いものなんだよ。こういうものを見つけるとさ、人は往々にして、虹の彼方に埋められた金の壺を掘り当てたような気になるみたいなんだけど。宝くじかなんかに当たったようなさ。でも、それはやっちゃいけないんだよ。他人の音楽を許可なく利用したり譲ったりするのは、法律に反してるからなんだ」

なお、これまでジョイ・ディヴィジョンの1979年の作品『アンノウン・プレジャーズ』や80年の『クローサー』、そしてニュー・オーダーの『ムーヴメント』『権力の美学』の完全ライヴを行ってきているピーターだが、こうしたライヴ・プロジェクトで一番しんどかったのはヴォーカリストの役割を引き受けることで、特にイアン・カーティスの役割を担うのはかなり荷が重かったと打ち明けている。それについて、おそらく自分の失敗するところを観てやろうというプレッシャーが当初は大きかったからだろうとピーターは説明していて、その点、ニュー・オーダー作品になるとバーナード・サムナーの役割を引き受けることになるので、これはさほど大変ではなかったとピーターは語っている。ただ、ニュー・オーダーはアメリカでは大きな人気を誇っているので、ライヴについては細心の注意を払って行っていると説明している。

また、ピーターは来年にはニュー・オーダーの1985年の『ロウ・ライフ』と86年の『ブラザーフッド』のライヴも予定していると明かしていて、バンドをめぐる状況もファンに利することになるだろうと次のように語っている。

「妙なもんでね、敵意を向けられれば向けられるほど成功したい情熱もまた強くなってくるんだよね。ファンの視点からすれば、それはあらゆる意味でファンのためになってるんだよ。俺の方からは古い作品のライヴを次から次へと提供してもらって、ヒッツ・コレクションについてはあいつら(現行ニュー・オーダー)から提供してもらってるわけだからね。あいつらはかなり普通のセットしかやらないからね。ようやく重い腰を上げて一線に戻ってきたのはいいけれど、やってみたら2006年のライヴとまったく同じセットだったというのには、俺も感心したよ。やっぱり、あのまま一緒にはやれなかったんだろうなと。だって欲求不満だらけになっちゃってただろうさ」