アーティスティックかつ高品質なダンスナンバーを発表し続けてきたインディの雄チューン・ヤーズが、5月16日に通算6作目となる『ベター・ドリーミング』をリリースする。
前作『スケッチー』はレゲエやアフロビートなど雑多に咀嚼してきたその折衷的な音楽性において、グッとネオソウル〜ヒップホップ色を強めつつ、複雑化する社会問題に対する確かな視座と主張が刻まれたリリックを、以前より抱えていた芽が開花したかのように鮮烈にポップなメロディに乗せた、陽性のヴァイブに満ちた力作であった。しかし本作は、どうにも様子が異なる。
本作を印象付けているのは、音数を絞ったミニマルで密室性の高い、そしてファンキーで時にサイケな、80年代半ばのプリンスの傑作群を想起させる音像だ。多様なるビートを構築しつつヒプノティックな反復が多用されており、メロディもメリル・ガーバスのボーカルも、ダークでシリアスなトーンが基調となっている。高次でポリティカルなリリックの作法が不変であることを鑑みれば、自身をも蝕む問題意識ごと陽光で包みこまんとした前作に対し、より混沌もグロテスクさも際立った眼前の問題に生身で対峙しようとしたアルバム、と本作を位置付けることもできるかもしれない。
ただもちろん、メリルと彼女のパートナーでもあるネイト・ブレナーが、絶望にのまれた単なる暗黒作など制作するはずもない。前作以降2人の間で生を授かり3歳になった子供の歌声や笑い声が収録された底抜けにハイな“ライムライト”や、粘り気の強いベースと麗しく広がる多重コーラスとの絡みが腰を揺らす“ハウ・ビッグ・イズ・ザ・レインボー”を聴けば、むしろ作中の陰影が色濃くなったことに合わせ興奮の最高値も更新されていることに気が付くはず。そして、“サンクチュアリ”はクライマックスに相応しい狂騒的な盛り上がりを演出しつつ、唐突な笑い声によって締め括られる。現実の狂気を前に目を閉じ諦めることなく、ただ笑い飛ばすことでだけ「マシな夢」の中にいることができるのだと告げるように。そして、それがいつか希望へと繋がることを祈るように。(長瀬昇)
チューン・ヤーズの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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