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音楽についての歌であり、私たちの気高く尊い孤独についての歌である。この曲でキタニタツヤは、「音楽」というものを、沈黙や退屈を塗り潰してしまうための道具としてではなく、小さな囁き声の1歩先にある祈りのようなものとして位置づけている。それはきっと、彼の創作者としての音楽に対しての向き合い方、あるいは、彼の人生にとって音楽はどのような存在であったのか、そうしたことへの自覚が生み出す眼差しなのだろう。小さな声、囁き声、声にならない声――それらもすべて、確かな「声」である。そういう声が、歌を歌う。消費されるためではなく、際限なく生まれる空腹を満たすためではなく、共に生きるための歌を。シンガロングもできるスケールの大きな歌だが、人生の実感が手渡しされるようなリアルさと切実さがある。キタニタツヤは今でもきっと、ひとりぼっちの帰り道に聴いた音楽のことを忘れていないのだろう。そしてその記憶が、その後何度だって、自分の足を前に踏み出させることを知っている。(天野史彬)(『ROCKIN'ON JAPAN』2025年1月号より)
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