【インタビュー】おいしくるメロンパン、サプライズのメジャーデビュー発表! 覚悟と初期衝動の最新曲“群青逃避行”の全貌とこれからを語る

6月29日、おいしくるメロンパンは9枚目のミニアルバム『antique』を引っ提げたツアーのファイナルの日比谷野外大音楽堂で、極めて重要なストーリーと肉体性を持つライブを繰り広げた。そしてアンコールの1曲目でTVアニメ『フードコートで、また明日。』のオープニングテーマとして人気の“未完成に瞬いて”を軽やかでアグレッシブなグルーヴで披露したあとに、10月1日に10枚目のミニアルバム『bouquet』をリリースすることと、彼らがトイズファクトリーからメジャーデビューすることを発表した。そして披露された新曲“群青逃避行”は、一作ごとに丁寧に意味のある一歩を刻み続けてきたおいしくるメロンパンの歴史の中でも圧倒的に大きな意味を持つ一曲だった。バンドの原点にある王道のオルタナロックで《最後の季節にしよう/片道分の呼吸で》という新鮮で揺るがぬ決意を打ち立てる。ロックで逃避行する変わらぬおいしくるメロンパンのままで、果てしない海をリスナーと共に泳いでいく新章のはじまりをナカシマ(Vo・G)のソロインタビューと野音レポートで紐解く。

インタビュー=古河晋 撮影=三森いこ


ここからいろんな人の手を借りていくことを念頭に置いて「自分たちだけでできることでたどり着いたのはここでした」っていうものを見せる重要なライブだった

──今日は“未完成に瞬いて”と“群青逃避行”のインタビューですが、この前の日比谷野音でのツアーファイナルで、メジャーデビュー発表の前後にこの2つの新曲をやりましたよね。ナカシマくんは、何をあのライブに込めたんですか?

ここからは、もっといろんな人の手を借りていくことを念頭に置いて「自分たちだけでできることでたどり着いたのはここでした」っていうものをみんなに見せるっていう、ほんとに重要なライブだったと思ってます。“色水”のような私的なところからどんどん世界観が大きくなって、こんなにスケールの大きいライブをできるようになったっていうところを見せたかったのはありました。本当に自分たちが純粋にやりたいことを貫いて10年間やってきたことの集大成というか。

──それを表現するうえでセットリストがとても重要でしたよね。たとえば“波打ち際のマーチ”からはじまることにも大きな意味があったと思うし。

あの曲は、お客さんと自分たちのバンドとか僕の持ってる世界を繋げるというか、この世界に惹き込んでいってさらに遠くまで一緒に行こうっていう意味合いも込めて作った曲なので、あの曲を最初に持ってきて、おいしくるメロンパンの世界に引っ張り込むという意味合いが強いかなと思ってますね。当時も外向きにやってみようと思ったときに作ったので。


──そこから2曲目“look at the sea”に繋がるのもすごく意味がある気がして、さっき言った「お客さんと自分たちの世界を繋げる」ということにおいて「海」とか「水」が重要なキーワードになってますよね。

バンドと聴いてくれる人の関係性みたいなものを象徴してるかもしれないですね。“look at the sea”も、そういうところがあって。バンドをこういうふうに聴いてほしいっていう気持ちも込めて作った曲なので。

──“色水”は天然でおいしくるメロンパンのスタンダードな曲の作り方をいきなり確立した感じだったけど、もっと意識的に、その当時なりに聴き手に向き合ったのが“look at the sea”だった感じがしますよね。

そうですね。1枚目の『thirsty』ができてすぐに作った曲でしたけど、その1枚目を俯瞰してみて、自分たちはこういうバンドだなって意識で作った曲ではあると思うので。そのときは聴く人とバンドがあって、それだけで十分じゃない?っていう内向きのメッセージだったんだけど、そこから時間が経って見える景色が違ってできたのが“波打ち際のマーチ”で。もっと面白いとこまで連れて行くよっていう前向きで開けたメッセージがあるなあって思いますね。

──一方で本編のラストが“水葬”“渦巻く夏のフェルマータ”“旧世界より”っていう流れで、その3曲で表現したいことというのも大きかったと思うんだけど、あの3曲が描いた物語はなんだったんだと思いますか?

おいしくるメロンパンがずっと言っていることの原液みたいな部分だと思うんですけど。まず“水葬”がいちばん最初に、おいしくるメロンパンが描きたかったものっていうか。抗えないような大きな力によって、別れてしまうことになる悲しさと美しさがあって。ここまでずっとやってきて、その核は変わらずに、でも自分の中で解釈は変わってきて。“渦巻く夏のフェルマータ”って曲で、それに対していったん諦めがつくというか。受け入れて前を向いて歩いていこうと。で、歩けるようになったところで“旧世界より”は、そのふたつをふりかえっている。だから“水葬”とまったく同じ座標にあるけど、Z軸が違うみたいなイメージなんですよね。同じようなメッセージなんだけど全然、聴こえ方もスケールも違っていて。諦めたうえで想いを馳せること自体に意味を見出しているというか。

──ここ読んでいる人にわかるように説明できるか僕もわかんないんだけど。まず“色水”が描いていたような純度の高い世界を“水葬”で完成させてここがゴールという発想がひとつ。

うん。

──でも、その前から実は“look at the sea”とかで、もちろん聴いてくれる人がいるから音楽をやってるからこそのトライを続けてて。そういう内向きながらもポップミュージックの発想で“波打ち際のマーチ”や“garuda”が入ってる『answer』に繋がっていった。そのどっちもウソじゃない両方のおいしくるメロンパンを重ねて、その先の物語に繋いでいくための“渦巻く夏のフェルマータ”や“旧世界より”が入っている『antique』というアルバムを作った。その物語をこのライブで完成させようとしたんじゃない?

ああ、確かに。それはわかりますね。“水葬”で一回完成したところから歩いてきた意味みたいな、やって来たことの価値みたいなものを自分でわかりたかったところはあるかもしれないです。止まんなくてよかったなって思えた『antique』という作品ができたので、そういうところを表現したかったんだと思います。

──だから今回の野音のライブで表現したことは、ずっと応援してくれていたお客さんにメジャーデビューの前にどうしても伝えたいことだったという。

確かに。本当に見せたかったものの全貌が見せられたというか。そういう心地良さはすごくありましたね。これで悔いなく気持ちよくメジャーに行けるなって気持ちはありました。

インディーズからはじまったものを最後までやりきってメジャーに行くのは自分の中で腑に落ちてる

──ここまでの段取りが必要だったことも踏まえて、ナカシマくんにとってメジャーデビューするってどういうことだったんだと思う?

“水葬”を作ったときと同じ感覚なのかなと今は思います。いったん綺麗に幕が下りたっていう達成感がある中で続けていくことを選んで……でも“水葬”のときは、途方に暮れていたんですね。じゃあ何作ろっかなっていうのがメインで感じていたものだったんですけど。今は、音楽を楽しめる自信があって。それは、自分が楽しめると同時に聴く人にも楽しんでもらえるだろうなっていう。そういうものを作りたいし、作っていけるだろうなっていう感情の変化はありますね。 “水葬”で止まらずに歩いてこれて、こんなにスケールの大きな美しいものを完成させることができたんだから、次は、もっとすごいものが作れるんじゃないか、もっと楽しんでもらえるものになるんじゃないかっていう自信が今はある感覚ですね。

──実際にメジャーデビューを発表してみてどうでした?

すごく祝福の声が多くて。祝福の声しか届いていないですけど(笑)、本当に喜んでくれるんだっていうのが素直に嬉しかったですね。インディーズに10年こだわってきて、ずっとこのままいくんじゃないかって思っている人もたくさんいるだろうなっていう中での発表だったので、どういうふうに受け取られるのか不安もあったんですけど、喜んでいただけているんだったらよかったなって。こうしてインディーズからはじまったものを最後までやり切ってメジャーに行くのは、自分の中で腑に落ちているし、最初から見てくれてた人も、しっかりと納得させてメジャーに行く形が取れたと思っています。


──ちょっと順番が前後するけど、メジャー発表の前にアニメのタイアップもあって作った“未完成に瞬いて”を披露したけど、これも明確に『antique』以降を感じる曲だよね。

そうですね。『antique』まで大きく高く視点を持っていたのを、いったんもう一度ひとりの自分に立ち返って作ってみたいなと思っていて。そう思いながら作りはじめた、等身大の目線で久しぶりに書けた曲かなと思っていますね。自分ともうひとり相手がいて、その関係性っていうミニマルなものって、あんまり最近は作っていなかったと思うので。それが今やるとこんな感じになるんだなっていう面白さはありましたね。

──アレンジもメンバーの演奏もすごくいいんだけど。この曲の持っているグルーヴをどう感じていますか?

奇を衒ったことをしないで──この『フードコートで、また明日。』って作品もそうですけど、ずっと同じような単調なリズムで進んでいく中にキラッと光る、印象に残る忘れられない瞬間があるっていう。そういうものをサウンドで表現したいと思って作っていたので、敢えて手札を絞って、素直に心地いいことをやったイメージのサウンドですね。

“群青逃避行”は自分の中の強引さが出た作品だなあと思います。こっからは捨て身で行くぞっていう

──そのあとメジャーを発表して一発目に聴かせたかったのが“群青逃避行”だと思うんだけど。 “未完成に瞬いて”と“群青逃避行”もまったく違うフェーズに入っていて、これは結構驚きました。これはどういう覚悟で作った感じなの?

まずおいしくるメロンパンであり続けたいなって気持ちが強くあって。それは、このバンドをはじめたときの自分が聴いて痺れるような曲をずっと作り続けたいなっていうのがあって。そういう気持ちで作ったのはあります。

──はじめた頃の自分が安心するような曲ではなく、痺れるような曲だった。昔の自分の期待を裏切ってないけど、カマしてるわけですね。

そうですね。そのときの自分にはできなかったことが曲の中に要素として入っているのは必要だなって思いますし。お客さんも、今までたくさん出してきたものを聴いてくれていて、それと地続きのものだという安心感はもちろんありつつ、今までになかった要素も含まれているところに痺れるという。どっちも必要だなと思いますね。

──これって今までのおいしくるメロンパンのグルーヴとアンサンブルの向いている方向が違うと思う。今までの、あんまり目が合っていないんだけど、ちゃんとグルーヴが合ってる感じとも違っていて、向いている肉体の方向が一緒な感じがする。

あー。

──明確なバンドの立ち姿の変化をめちゃくちゃ感じる。

確かに今まで以上の攻撃性があって。たとえばメジャーデビュー以降のおいしくるメロンパンに不安を持ってる人がいたとしても「じゃあ、ついていくよ」って思わせる何かを与えないとなって思っていたので。メジャーの一歩として自分が納得できるものってどういう曲かなっていうのがあって。いちばん自分の好きな曲調というか、聴いていて痺れるようなものを作んなきゃ意味ないなって思っていたので。ずっとやってきたオルタナで高速のロックをここで満を持してやるのはいいだろうなって思ってたし。自分たちなりの王道でまずは踏み出そうっていうのはありましたね。


──最初の話に戻る感じがするけど、この曲も《海へ行こう》からはじまるじゃないですか。でも今までの《海へ行こう》とは違う気がする。“look at the sea”“波打ち際のマーチ”の次の第三段階なんだけど、今回の《海へ行こう》は自分なりに言うとなんなの

今回の《海へ行こう》は、今までの「鍵開けといたから入ってきていいよ」じゃなくって無理やり連れてくというか、引き込んでいくみたいな、自分の中にある強引さが出た作品だなあと思いますね。ずーっと現実逃避みたいなものの先、現実逃避先になれたらいいなって思って作品を作っていたところがあったんですけど。それをこっちから引っ張り込んであげるみたいな。もう一歩だけ相手側に踏み込んでいってみようかなっていう。

──たぶん思想とか人格は変わっていないんだけど、トイズファクトリーからメジャーデビューすることになって人生観が変わったということなんだろうと思う。

うんうん。

──その結果、聴き手への向き合い方も変わって。今まではインディーズのおいしくるメロンパンは逃避できる安住の地を作っていたんだけど、ここからは海原に一緒に泳いで逃避していこう、生きていくってそういうことだからっていう。それって人生観が全然違うじゃないすか。

そうですね、確かに。

──自分が行きたい道を選んでいた結果、そうなったから、そんな大げさなことではないかもしれないけど、結果、全然違う生き方に変わったよね。

そうかもしれないですね。結局は今までは現実と片足ずつ立ってたのが、こっからは捨て身で行くぞっていう意思表示もあると思います。

──今まで好きだった人の人生観を変える力もあるし、今までのおいしくるメロンパンとは生き方が違った人たちも巻き込むパワーを持っている曲だと思いますね。

確かに、そうですね。

野音が終わってめちゃめちゃ重い肩の荷がおりたと同時に喪失感みたいなものもあった


──野音の最後に“色水”をやったじゃない? 野音まで、今回のツアーでやってなかったよね。

やってなかったです。初めてツアーのセトリから“色水”を抜いて。単純に入んなかったんですよね。どこに入れればいいんだろうって。

──たぶん野音で“群青逃避行”を披露するってなったときに、“色水”の役割が出てきたと思うんだけど、その役割はなんだったの?

単純に、並べて聴いてほしかったっていうのがありましたね。メジャーでの第一歩と、このバンドの第一歩の曲。「変わったよ」っていうよりは「やってること、ずっと同じだよね」っていうところなんですけどね。

──たぶん今回のライブにおいては、“群青逃避行”以外に“色水”と対になるものがなくって、セトリから外れたと思うんだよね。“色水”の質量が特殊だから。でも“群青逃避行”は初めて“色水“と対になる質量があって。

確かに。

──改めて“色水”って長年の呪縛だったんだなっていう気もする。

ははははは。そうですね、あれがなかったら、全然違うバンドになってたと思いますね。

──“look at the sea”の呪縛はロジカルに対応できる呪縛な気がするんだけど、“色水”の呪縛は肉体で答えを出すしかなくって。“群青逃避行”は違う生き方になるぐらいの肉体的な変化が起きているから初めて呪縛に対抗できる武器ができた感じがする。

なるほど。そうですね。

──この日の“色水”は格別だったんじゃない?

いや、そうでしたね。いろんなことがフラッシュバックして格別だったかもしれないです。いつもツアーが終わった瞬間は、こんなに重いものを背負ってたんだなっていうのがあるけど、今回は特にそれを感じたというか。ほんとにめちゃめちゃ重い肩の荷がおりた感じがあって。でも喪失感みたいなのも同時にあって。

──そうだろうね。

このセトリでもうできないのかとか。でも、すがすがしかったですね。

──このおいしくるメロンパンが観れるのは最後だろうね。ほんとに片道分の呼吸でどこまで泳いでいくかっていうおいしくるメロンパンになると思うし。変わらない部分は変わらないだろうけど、やらなかったことをたくさんやっていくことにもなると思う。『bouquet』という新しいミニアルバムを待っている人に今、言えることは?

改めてロックファンである自分を痺れさせるようなアルバム、初心に立ち返ったものを作っているし、素直にかっこいい作品になってるんで、楽しみにしてほしいと思います。


ヘア&メイク=栗間夏美


●リリース情報

Digital Single『群青逃避行』

配信中


10th mini album『bouquet』

2025年10月1日(水)Release
【初回特装盤】 2CD(「bouquet」5曲+Bonus Disc 4曲)+Photo Book(56P) ¥6,050(税込)
【初回映像盤】 CD+Blu-ray ¥5,000(税込)
【通常盤 CD】 CD ¥1,650(税込)


●ツアー情報

おいしくるメロンパン bouquet tour - never ending blue -