「中野といえば中央線沿線。今は中央線の車両が徐々に銀色の新型車両に置き換わってしまって、今では先代(全身オレンジ色の旧型車両)も1本だけ予備で残してるだけなんですけど。昨日もここで(ライブを)やって、終わって帰る時に、その先代が高架を走ってたんですよ!」と鉄ちゃん魂を静かにむき出しにした岸田繁のMCに、満員の客席からどよめきにも似た笑いが湧き起こる……そう、ここは今年2本目となる全国ツアー『くるりワンマンライブツアー2009~とろみを感じる生き方~』東京公演の会場=中野サンプラザ。10月21日から12月18日まで続くツアーの折り返し点的アクトとも言える同会場での2Days公演の2日目――ということで当然ながら曲順などのネタバレ掲載は避けるが、すっかりお馴染みのサポート・メンバー=世武裕子(Key・Cho)&ボボこと堀川博之(Dr・Cho)を迎えた4人編成でのステージは、「とろみ」という軽やかな響きではとても説明しきれない吸引力と包容力を持った今のくるりのアンサンブルを100%提示するものだった。
最新アルバム『魂のゆくえ』を軸にしつつ、シングルど真ん中の曲も外角低めの曲も盛り込んだ、アンコールまで含め約2時間のセット。途中、「最近はちょこちょこ新曲作ってまして。ユーミンさんと新曲作ったりしてるんですけど。今日はスペシャル・ゲストにユーミンさんを……」という岸田の声にどっと沸くオーディエンスを「……お迎えできずに……」と脱力させてみせた、というあたりが、いわゆる「ショウらしい見せ場」といえばいえようか。「地方出身者である私が、中野サンプラザという場所を知ったきっかけは、サンプラザ中野だったっていう……歳がバレてしまいますけど(笑)」というMCは、あまりにベタすぎて観客もリアクションに困っていたので「見せ場」にはカウントしないことにする。
しかし何より、ツアー前半戦で練り上がった4人の演奏の素晴らしいこと! 何が素晴らしいって、プログレ寸前のカオティックな展開からシーケンスの打ち込み、クラシカル&壮大な曲、シンプルの極みのようなスロウ・ナンバーまでその音楽的衝動の赴くままに変遷を遂げてきたくるりの音楽世界を、まるっきり過不足なく、ストレスなく、さらに増幅してみせることができるという点だ。前回のツアー=『くるりワンマンライブツアー2009~敦煌(ドンファン)~』での、岸田/佐藤/ボボのトリオ編成を基本とした演奏は、言わば「シンプルな『ブルースくるり』を提示する」というコンセプトの究極形であり、「過不足なく」「ストレスなく」は可能でも「さらに増幅して」は難しかった。が、ここでのくるりの音とプレイは、実に豊潤で、エッジが利いてて、パーソナルで、それでいて誰の心にも染み入る優しさを秘めていた。
特に、世武裕子のピアノ。岸田にも「この人のピアノに誘われて歌うと、違う世界が見えます」と絶賛されていた通り、時には岸田のギターに匹敵するくらいにアンサンブルの主役を担い、時にはシーケンスの細かいフレーズを手弾きで完全再現したり、時にはジャズ歌謡ばりばりな伴奏を披露しながら岸田とデュエットをキメてみせる。「身も心もグルーヴしまくり」と岸田がメンバー紹介したボボへの信頼関係を背骨にしつつ、世武裕子のプレイに感激しつつ、彼らはそのアンサンブルが生み出す「とろみ」の座標の中に、これまでのくるりのすべてを位置づけることに見事に成功していた。序盤は岸田のボーカルが本調子ではなかったようだが、それを「気迫と根性で100%に持っていく」ではなく「100%の音楽を聴きたい!」というポジティヴィティでMAXの状態まで持ち上げてしまうようなヴァイブが、この日の岸田にはあった。そして、それは他でもない今の4人のアンサンブルの充実度合いが招いたものだろう。
『とろみを感じる生き方』ツアー、次は1日空けて12日・13日の大阪厚生年金会館2Days!(高橋智樹)
くるり @ 中野サンプラザ
2009.11.10