【知りたい】来日決定! ブルーノ・マーズ、極上のポップはなぜ生まれたのか? その軌跡を徹底分析
2017.08.09 12:00
2018年4月12日・14日に、さいたまスーパーアリーナで来日公演が行われることが発表されたブルーノ・マーズ。この「24K MAGIC WORLD TOUR」は今年3月にヨーロッパからスタートしており、すでに全世界で140公演以上のスケジュールが決まっている。
前回の「Moonshine Jungle Tour」は2014年4月に大阪と千葉で公演が行われたので、ちょうど4年ぶりとなる日本でのステージだ。プロモーター=H.I.P.のHP上ではミステリアスなカウントダウンが行われ、大々的に来日公演が発表されるに至った。
今をときめくスーパースターにして全世界で引っ張りだこのブルーノ・マーズは、2017年1月のプロモーション来日に伴ういくつかのテレビ出演でも大きな注目を集めていた。
2010年のソロ・デビュー曲“Just the Way You Are”がいきなりビルボード1位へと送り込まれ(結果的にこの曲はグラミーの最優秀男性ポップ・ボーカル賞)、これまでのアルバム3枚はすべてチャートのトップ3圏内に収まっている。歌って弾いて踊りまくれる多彩なパフォーマンスは、テレビ越しにでも目の当たりにしている人は多いはずだ。
(Bruno Mars “Just the Way You Are”)
(B.o.B “Nothin’ on You [feat. Bruno Mars]”)
デビュー・アルバム『Doo-Wops & Hooligans』がリリースされたとき、この彗星のように現れR&Bやファンク、ヒップホップ、レゲエやロックを軽やかに横断してみせるアーティストは何者なのだろう、と驚かされた。2009年にメジャー契約を結んだブルーノは、先にザ・スミージントンズというソングライター/プロデューサー・チームを結成し活躍。
ブルーノがゲスト参加したB.o.Bのナンバー1ヒット“Nothin’ on You”や、シーロー・グリーンの“Fuck You”を手がけ、後にスミージントンズはブルーノのソロ活動と並行しながら、アダム・ランバートやアデルらにも楽曲提供を行うことになる。
(Bruno Mars “Locked Out Of Heaven”)
(Bruno Mars Pepsi Super Bowl XLVIII Halftime Show Announcement)
セカンド・アルバム『Unorthodox Jukebox』をビルボード1位に送り込んでみせると、スーパーボウルのハーフタイム・ショー出演告知動画では、エルヴィス・プレスリーになり切ってみせる幼いブルーノの姿が公開された。
数ヶ月後に果たされたハーフタイム・ショーは、この時期のツアーの成果を凝縮して披露してみせるような極上のエンターテインメントとなり、ドラム演奏から怒涛のヒット・メドレー、ジェームス・ブラウンを彷彿とさせる圧巻のダンス、そしてレッド・ホット・チリ・ペッパーズとの豪華コラボと、ポップ・ミュージック史を総覧するかのような豊穣な音楽的バックグラウンドを見せつける内容が語り草になった。
(Mark Ronson “Uptown Funk ft. Bruno Mars”)
(Bruno Mars “24K Magic”)
2014年末に届けられたマーク・ロンソンとのコラボ曲“Uptown Funk ft. Bruno Mars”は、どこか懐かしい手応えでありながらヴィンテージ趣味に振り切れることのないブルーノの音楽性を、極めて粋にスタイリッシュに伝える楽曲となった。そしてブルーノは、1990年代初頭のブラック・コンテンポラリーやニュー・ジャック・スウィングに接近した作風のサード・アルバム『24K Magic』の季節へと向かうのだが、すでにアルバムがヒットを記録している今となっても、この作品の高い評価には不思議に思えるところがある。
ジャム&ルイスやベイビーフェイス、テディ・ライリーといったプロデューサー達が牽引した90年代ブラック・コンテンポラリーは、ざっくりと言えばヒップホップのトラックメイキング術を取り入れたR&Bだった。メロディとリズムが高度な折り合いを見せたスタイルであり、セールス的にも大きな成功を収めてはいたのだが、当時はアンダーグラウンドな文化からのし上ってきたヒップホップ・ミュージックが猛烈な勢いを感じさせており、時代の追い風は間違いなくそちらに向けて吹いていたと言えるだろう。
ブルーノ・マーズは、時代背景的には必ずしも恵まれていなかった90年代ブラック・コンテンポラリーに、新しい命を吹き込んで見せた。非アフリカ系アメリカ人(ブルーノはハワイ出身で、プエルトリコ系の父とフィリピン系の母のもとに生まれた)であるという生い立ちが、それを可能にさせたところもあるかも知れない。下手をすれば時代錯誤になりかねないスタイルを、優れたソングライターとしての資質とダンス・パフォーマンスへの飽くなき渇望によって、完成させたのである。かなりスリリングな賭けだったと思う。『24K Magic』の大ヒットが少し不思議に思えたというのは、そういうわけだ。しかしそれが見事にリスナーを熱狂させた。
(Bruno Mars “Versace on the Floor” [Billboard Music Awards 2017])
あらゆる時代の、あらゆるジャンルのポップ・ミュージックに対し自由でいられること。純粋に音楽そのものの効能を追求し、憧れを体現してしまうということ。それが、全世界を熱狂させるブルーノ・マーズのライブの原動力となっている。来日公演までまだ時間はたっぷりと残されているわけで、彼の作品に込められたポップ史観をじっくりと見つめ直してみるのも、ステージをより楽しむための一助となるのではないだろうか。(小池宏和)