2013年に10代限定フェス「閃光ライオット」準グランプリで注目を集めてから5年。2017年のミニアルバム2作品『Nice To Meet You??』、『ADORE』と今年3月の1stフルアルバム『緑黄色社会』を経て、今作『溢れた水の行方』をEpic Records Japanからリリースした緑黄色社会。
誰もが一度聴いた瞬間に言葉とイメージを共有可能な透明度と輝度に満ちた長屋晴子(Vo・G)のボーカルは、緑黄色社会の象徴であり最大の魅力でもある。が、その在り方は「強烈な個性を持ったシンガーソングライターが主導するワンマンバンド」とは一線を画したものだ。
むしろ「J-POP/歌謡曲としてのわかりやすさを追求したシンプルなメロディ」とか「歌を聴かせるためにバッキングは控えめに」といったポップスの常道をことごとく覆すかのように、他メンバー=小林壱誓(G・Cho)/peppe(Key・Cho)/穴見真吾(B・Cho)も(曲によっては長屋自身も)その歌声を新たなアレンジやアイデアの突破口として活かしながら、次々に未知の扉を開くような曲や歌詞を紡ぎ続けている。
そして何より、そうやって多種多様な楽曲を体現していくことが、長屋の歌をさらに伸びやかに花開かせていく――という緑黄色社会ならではのマジカルなサイクルの躍動感を、『溢れた水の行方』の6曲から確かに感じていただけるはずだ。
誰か特定のロールモデルを目指すのでもなく、内面世界を重く激しく増幅するのでもなく、あるがままの僕らの感情や願いとごく自然とシンクロしていく――という緑黄色社会の楽曲や詞世界は、作品を重ねるごとにその浸透圧と色彩感を刻一刻と高めつつある。
「何が楽しいって、作ってる身としては、長屋にまず歌ってもらうっていう段階が一番楽しいので。で、案の定、長屋に歌ってもらったらいいものになったな、っていう瞬間が喜びだし」
現在発売中の『ROCKIN’ON JAPAN』12月号のインタビューで、バンドの永久機関的な原動力とも言うべき構造について小林がそんなふうに語ってくれたのが印象的だった。「その先」の風景がどれだけの規模で広がっていくか想像つかないほどのポテンシャルの片鱗を、今作『溢れた水の行方』でひとりでも多くの方に感じていただければ幸いに思う。(高橋智樹)