2020年春に最初のオリジナル曲“春を告げる”を発表してから約1年半、ついにファーストアルバム『the meaning of life』もリリースされ、ますます注目度を高めているシンガー・
yama。いまだ謎の多いアーティストだが、yamaが何者なのかは、その歌声が物語っている。気鋭のクリエイターが生み出すバリエーション豊かな楽曲たちを漂白し、裏側にある切なさを暴き出すようなその歌声は、単に歌唱力が高いとかスキルがあるとかいうレベルを超えたところでリスナーの心の奥底を揺り動かす。そんなyamaの声の力がはっきりとわかるこの5曲で、その深淵に触れてほしい。(小川智宏)
①春を告げる
今もなお、yamaのすべてが詰まった曲だと思う。2020年4月17日にリリースされた、yama初のオリジナル楽曲。前年にボーカリストとして参加し話題となった“ねむるまち (feat. yama)”に続きくじらとタッグを組み生み落とされた楽曲は、yamaというシンガーの名前と実力を鮮烈に世に知らしめることとなった。《深夜東京の6畳半夢を見てた》という、くじらの歌詞に宿る孤独感や寂寥感をリアルに立ち昇らせ、わけもなく焦燥感に掻き立てられるように小刻みに動いていくメロディラインをしなやかになぞっていく、夜更けの凛とした空気のようなyamaの声。楽曲と声の運命的な出会いの瞬間を刻んだこの曲は、いつ聴いても胸を突かれるような驚きに満ちている。
②a.m.3:21
4つ目のオリジナル曲として、2020年8月12日にリリースされた“a.m.3:21”。手がけているのはそれまでの3曲に引き続きくじらだ。アーバンなソウルフィールが満載のトラックを軽やかに乗りこなしながら、歌詞に描かれる後悔と未練をヒリヒリとした切なさで描き出していくyama。内容だけを取り上げればかなりウェットな心情が歌われているにもかかわらず、歯切れよくリズムを刻んでいくボーカルはそれをきれいに濾過し、さらりと乾いた寂しさへと変換する。そんな淡々としたトーンのなかにあってふと噴き出すもの――たとえば《諦めの悪い私の癖みたいで》の最後の《で》や《振り返れば 後味の悪い過去の道》の最後の《道》に表れる激情に、yamaの歌の凄みがはっきりと見える。
③真っ白
“春を告げる”以降瞬く間にブレイクスルーを果たしたyamaが、メジャーデビュー曲として世に放ったのがこの曲だったということは振り返ってみてもとても重要だ。それまでインディーズ時代のリリース曲をすべて手がけてきたくじらから離れ、気鋭のクリエイター・TOOBOEと組んだ“真っ白”は、yamaの歌に新たな角度から光を当ててみせるものだったからだ。ドラマティックなメロディで苦い恋の結末を歌ったラブソング。それまでの切れ味鋭い声でリスナーの心を刺すような歌とは違う、メランコリックでロマンティックなこの曲のボーカルが持つ切なさは、yamaの歌がより普遍的な力を持つものであることを証明している。
④麻痺
初のCDシングルとして、2021年2月10日にリリースされた“麻痺”。フジテレビ「ノイタミナ」枠で放送されたアニメ『2.43 清陰高校男子バレー部』のオープニング曲で、作詞作曲は“真っ白”に引き続きTOOBOEである。ホーンが鳴り響くアッパーなサウンドには他のyama曲とは違う温度があり、特に畳みかけるような終盤にかけての展開は圧巻。そんな楽曲に呼応して、歌うyamaのボーカルもまた、血がたぎるような力強さに満ちている。ミュージックビデオで描かれる全力疾走よろしく、前のめりで突き進むようなサビに、大地に旗を突き立てるような《嗚呼 今 静かに心が燃えてたみたいだ》というラストのフレーズ。この曲でまたしてもリスナーは知らなかったyamaに出会うこととなった。
⑤名前のない日々へ
セブン-イレブンのオリジナルWEBアニメ『レインボーファインダー』第2話の提供楽曲として2021年2月22日にリリースされた楽曲。作詞作曲はボカロPの南雲ゆうきが手がけている。アニメのストーリーに寄り添う卒業ソングとしての顔も持ちながら――持ちながらというか、楽曲のコンセプトとしてはまさに卒業ソングなのだが、yamaの何ものにも染まらない声がこの曲を歌うことによってその情景はもっと広くて大きな意味を持つものへと変化する。別れを経験しながら未来に進んでいく人間が常に抱えている孤独と、それゆえに拭えない切なさ。どこか優しさを帯びた歌はそんな人の真実を包み込んで肯定するように響く。
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