くるり主催「京都音楽博覧会2024」の2日間を徹底レポート! 至高の音と繋がり、酔いしれたDAY1のすべて

All photo by 井上嘉和
くるりが主催する音楽イベント「京都音楽博覧会2024 in梅小路公園」が10月12、13日、京都・梅小路公園芝生広場で開催された。

京都市の中心部に位置する梅小路公園を舞台に、2007年より毎年開催している「京都音楽博覧会」、通称「京都音博」。今年で18回目を迎える「京都音博」は去年に続き2日間開催。これまで国内外問わず数多くのアーティストを招致し、良質な音楽を届けるのはもちろん、「環境・文化・音楽を“くるり”と繋ごう」をコンセプトに、くるりのメンバーが厳選した京都のお店を紹介する音博マーケットの出店、コンポストを設置しフードエリアで出る食材の使い残しや食べ残しを堆肥に変える「資源が“くるり”プロジェクト」を実施。秋の風情を感じつつ、様々な文化の発信・交流点となる一大イベントとして定着してきた。

rockin'on.comではその2日間をそれぞれ徹底レポート! まずは、初日の模様をお届けする。


心地よい秋の気配がする中、イベント初日は10月半ばとは思えないほどの暑さに。「京都音博」といえば雨、となるくらいに天候には恵まれなかった年が続いたが、この日は見事な晴天! 開幕宣言では、司会のFM COCOLO DJ・野村雅夫が「(セットリストを見て)ヤバイことになってますよ!」と興奮気味に観客を煽る。くるりの岸田繁(Vo・G)、佐藤征史(B・Vo)も「18回目の『音博』をともに作っていこう! 2024年、スタートでございます!」と軽快に開幕を宣言した。

●CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN

初日のトップバッターを飾るのはCHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN。メンバーはDaido(作曲・映像)、So(サウンドエンジニア・DJ)、Yuta(B)の3人だが、この日はギター、ドラム、コーラス、パーカッションも加えた大所帯でのステージ。アーティストの登場前にはくるりのふたりが出演者の紹介や出演への思いを語るのだが、佐藤曰く「ストリート系電子ワールドミュージック。このひとバンドで『音博』を表現している」と絶賛するだけあって、1曲目“秩父”からもう「音博」そのもの! 祭囃子が不思議に絡み合い、ご機嫌なリズムがループしていく。ラスト“琉球 Boogie Woogie”ではエイサーのお囃子に観客も瞬時に反応。不思議な魅力に誰もが夢中になって見入っていた。

●菊池亮太

「ピアニストの腕前はもちろん、彼のインスピレーションがどう『音博』で表現されるのか」と、岸田が熱い視線を送ったのがピアニスト・菊池亮太のステージ。世界中の街角でピアノを弾き、多彩な編曲やアレンジで注目を集める彼。“ラフマニノフメドレー”ではくるりの楽曲をさらりとアレンジしてみたり、ピアノ協奏曲をただひとりで演奏したり。誰もが知るクラシックの名曲も彼の手によって、また違った魅力を引き出されていく。「この方と一緒にできるなんて!」とゲストに呼び込んだのは岸田繁。悩みに悩んだというコラボは“さよならリグレット”。バンドでもオーケストラでもない、ピアノとギターだけの優しく朗らかな旋律が真昼の空に柔らかに響き渡った。

●KIRINJI

太陽の光はまだまだ熱く、誰もが汗だくになっていた昼下がり。KIRINJIのシュワッと爽やかなステージに心躍らされる。実はKIRIJIとくるりは互いに1996年に活動を開始しているが、意外にもこれまで共演の機会はなかったらしく、この日が「京都音博」初出演。観客の期待も高まる中、1曲目にセレクトしたのは“だれかさんとだれかさんが”。ノスタルジックなバンドサウンド、堀込高樹の温柔な歌声、小田朋美の美しいコーラスワークに胸がキュンとなる。“悪玉”に綴られた言葉に鼓舞され、“Rainy Runway”では芳醇なサウンドに気持ちが救われる。ずっと続く心地よさにまどろんでいたところへ投下された、ラストの“進水式”の優しく生命力に満ちたメッセージに心のパワーチャージができた。

●Daniele Sepe & Galactic Syndicate

これぞ「京都音博」!と感じたのがダニエレ・セーペ&ギャラクティック・シンジケートのステージだ。岸田が20年来のファンとして熱弁するダニエレ・セーペは、イタリアの鬼才音楽家/サキソフォニスト。つい先日には氏とともにイタリアのナポリで制作した新曲“La Palummella”をリリースしたこともあり、観客の注目度は言わずもがな。岸田は「イタリア・ナポリのオヤジと愉快な仲間たち!」と彼らを紹介していたが、“Peaches En Regalia”から始まったステージを観て即座に納得! トラッドでジャジー、ファンクでストリート、1曲でいろんな要素が詰まりまくっていてとにかく面白い。太陽がよく似合うご機嫌なナポリのオヤジたちはとにかく陽気だし、観客もその陽気さにつられてあっという間に会場の熱量は上昇。ダニエレ・セーペは事前に、今回のステージは小規模なワールドツアーさながらの曲を準備していると語っていたらしいが、“Tammurriata nera”、“Luglio, agosto, settembre (nero)”など新旧問わず、多彩な楽曲を披露。ダニエレ・セーペのテクニカルなサックス、エキゾチックなメロ、躍動感に満ちたリズム、パワフルなボーカル、名曲のフレーズを巧みにアレンジしたりと、雑多なんだけど絶妙な統一感のあるサウンドで魅せていく。

ステージ後半はくるりのふたりも加わったスペシャルセットで、まずはくるりの過去作“キャメル”を再構築した“Camel(’Na Storia)”から。遠い故郷を思わせる牧歌的なサウンドに、ダニエレ・セーペのフルートがよく似合う。ラストのダニエレ・セーペのオリジナル曲“Elektrika Pisulina”では、世界中で活躍する秀才な6名のプレイヤーからなるギャラクティック・シンジケートのエネルギッシュなサウンド、佐藤のグルーヴに拍手喝采が送られた。

●羊文学

岸田が「好き!」と惚れ込む、2年連続出演の羊文学。1曲目“Addiction”から塩塚モエカ(Vo・G)の透明感ある歌声に、強烈なインパクトのギターリフ、さらにグルーヴィーで重厚感ある河西ゆりか(B)のベースラインが乗っかり、骨太で繊細なサウンドが仕上がっていく。歪みを効かせたギターサウンドでより深く濃い世界観へと導く“Burning”、清廉としたメロはもちろん心の曇りを昇華させるような詞世界に心引かれる“祈り”など、曲を重ねるたびに熱量は増加。最終曲を前に、塩塚が「くるり、大好きです」と冒頭のメッセージへのアンサーを囁くように答えていたが、ステージでの猛々しいギタープレイを見せていた姿とは打って変わって、愛の告白のごとく囁くようにつぶやいた彼女のギャップに心奪われた人も多いだろう。

●ASKA

夕焼けから夜空へと変わる、美しいマジックアワーに登場したのはASKA。「背筋が伸びております」(岸田)、「個人的にも好き。中学時代から聴いてきた人。袖で歌いたいけど、硬直してるはず」(佐藤)と、ふたりも熱い言葉を送っていたが、ASKAがステージに姿を現すだけで拍手喝采が湧き起こる。実は数年前から京都に住んでいるというASKA。地元で開催されるイベントへの出演に「呼んでもらって光栄です」と感慨深そうに語るも、タイトなツアーの真っ最中ということもあって喉が不調らしく「いつもの俺はこんなもんじゃないんだよ。魂で歌います」と詫びつつ、1曲目に披露したのは名曲中の名曲“はじまりはいつも雨”。「酔いしれる」とはまさにこのことで、不調とは?と思わずツッコミを入れてしまいたくなるほどの圧倒的な歌声に誰もが感嘆の声を漏らす。
初めての「京都音博」出演に、イベントの雰囲気や客層がわからず最初こそ戸惑ったというASKAだが「こんなにも気持ちのいい空気のもとでやれるなんて!」と、いつもとは違う布陣で挑みたいと“笑って歩こうよ”や“帰宅”を披露。哀愁漂う歌声は夜の帳が下りた会場に驚くほどよく似合う。その後も“僕はこの瞳で嘘をつく”、“PRIDE”と名曲を連投しつつ、「気持ちいいね、この気候。最高だよ。こんなフェスあったかよ!」と、初出演の「京都音博」を絶賛し、ステージをあとにした。

●くるり

トリを務めるのはもちろんくるり。岸田繁、佐藤征史に、今年は松本大樹(G)、野崎泰弘(Key)、石若駿(Dr・Per・Cho)、加藤哉子(Cho)、後藤博亮(1st Violin)、江川菜緒(2nd Violin)、朴梨恵(Viola)、佐藤響(Cello)が参加。“ばらの花”から始まったステージにはダニエレ・セーペとアントネッロ(ギャラクティック・シンジケート)、翌日に出演するヒューマンビートボクサーのSHOW-GOらも参加し、1曲目から豪華な布陣で挑む。イントロから歓声が湧き起こった会場を見渡し、岸田は拳を高くつき上げ、笑みを見せる。真っ白なセットアップにカラフルな色を吹きつけた衣装が、この日の出演者たちの個性ある音を全身に受け継いでいるようで印象的だ。
ドラムのカウントから歓声が湧き起こった“ブレーメン”ではストリングスの荘厳な音色が観客を圧倒。優しさに強さを加えた岸田の歌声、くるりとしてはもちろん、「京都音博の楽隊」が鳴らす音はとにかく多幸感に満ちていて、チビっ子たちが楽しそうに音に合わせて踊っている姿もとても素敵だ。グルーヴィーな佐藤のベースラインが聴衆を踊らせる“Liberty&Gravity”。いろんな料理の美味しいとこだけを全部集めたような、ヘンテコだけどいつ聴いても心躍るサウンドも、観客とみんなで「よいしょ!」「ガッテンダ!」と合いの手を入れるのも楽しくって仕方がない。

「長いことやっててよかったです。楽しんでます」と、誰よりも自身がこのイベントを楽しんでいると語る岸田。それもそのはず。長年憧れていたダニエレ・セーペと楽曲を制作しただけでなく、バンドが主催するイベントで共演まで果たしたものだから、まるでバンド少年に戻ったように、とにかくずっと嬉しそうな表情を見せている。ライブはその後も“Time”、“California coconuts”と、ダニエレ・セーペのサックスが楽曲に躍動感を生み、いつもとは違うくるり、いつもとは違う「京都音博」を体感させてくれる。本編ラストの前、「ほんまにありがとうございます。(雨に濡れて)びしょびしょの思い出の人もいたはず……、今年は晴れました! いい演奏をありがとう。グラッツェ♪」と集まったオーディエンス、バンドメンバー、そしてダニエレ・セーペ、アントネッロに感謝の言葉を告げ、“潮風のアリア”へ。色彩豊かな音色だけでなく、秋風や公園の芝生の匂いまで記憶に残るような演奏に魅了され、あっという間にステージは最終曲へ。京都タワーが「京都音博」のために緑色に光る中、名曲“琥珀色の街、上海蟹の朝”で「京都音博」初日を締めくくった。(黒田奈保子)



DAY2
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