今週の一枚 BUMP OF CHICKEN『話がしたいよ / シリウス / Spica』

今週の一枚 BUMP OF CHICKEN『話がしたいよ / シリウス / Spica』 - 『話がしたいよ / シリウス / Spica』通常盤『話がしたいよ / シリウス / Spica』通常盤
BUMP OF CHICKENの約3年半ぶりのフィジカルシングルが明日発売される。今回の3曲入りシングルは、昨年から今年にかけて行われた大規模なアリーナツアー「PATHFINDER」を経てのバンドの新たなモードをしっかりと印象付ける、すべてがリード曲にふさわしい、トリプルA面とも呼ぶべき作品であり、それぞれが別の物語を描いているようで、実はすべてがつながっていると感じられる作品である。

“話がしたいよ”は映画『億男』の主題歌として、“シリウス”はTVアニメ『重神機パンドーラ』のオープニング主題歌として、“Spica”も同じくエンディング主題歌として、すでに耳にしている人も多いことだろう。バンプが手がける(いわゆる)タイアップ曲は、それがCM曲であろうとドラマの主題歌であろうと、その映像が表現する物語に、歌とサウンドでより美しい色彩を施すような、そして時にはくっきりとした輪郭を与えるような、まさに作品の一部として脳裏に刻まれるものが多い。今回のシングル曲は、特にその作用が強く、特に映画『億男』などは、エンディングで流れる“話がしたいよ”の歌声によって、物語が指し示すベクトルがより明確になったような、そんな感覚さえあった。しかし、そうしたタイアップ曲を集めただけのものであるならば、今こうしてフィジカル作品としてリリースする意図はどこにあるのか。それは3曲を続けて聴けば、すぐに理解できるはず。


“話がしたいよ”は、過ぎていった戻れない愛しい日々や懐かしい友のことを思い、未来へと進む時間の中で不安を抱えながらもまた強く一歩を踏み出していくという、映画のストーリーに寄り添った内容でありながら、そこには不思議なほどに現在のBUMP OF CHICKENの、そして藤原基央(Vo・G)の姿が重なる。
《ボイジャーは太陽系外に飛び出した今も/秒速10何キロだっけ ずっと旅を続けている》という歌詞なども、「PATHFINDER」ツアーで自分たちのスケールを更新し、バンドとしての新たな旅立ちを感じさせた、あのライブの余韻を思い起こさせるものだ。


“話がしたいよ”のその歌詞に呼応するかのように、“シリウス”と“Spica”という、夜空に道標のように明るく瞬く星の名前を2曲の新曲に冠したことも、とても興味深い。地球上から見える恒星の中で(太陽以外で)一番明るく輝く一等星をタイトルにした“シリウス”は、その存在の心強さがそのままギターサウンドに現れていて、全力で疾走する心臓の鼓動のようなテンポで駆け抜けていく。そして走り続ける自分がふと道に迷うことがあっても、“シリウス”の光が帰るべき場所を指し示してくれるのだ。そして《ただいま おかえり》と歌い終わって、たどり着くのが次曲の“Spica”なのである。

そもそもTVアニメのオープニングとエンディングという、対になる楽曲としての制作という前提はあったはずだが、“Spica”は「PATHFINDER」ツアーの最後に、藤原が弾き語りで「できたばかりの曲」と言って披露してくれた楽曲だ。あの感動的なライブをそっと締めくくるように、とてもあたたかな歌声で1コーラスだけ聴かせてくれたあの曲こそが、この“Spica”である。ずっと記憶に残っていた最後の《どこからだって 帰ってこられる/いってきます》の歌詞。「PATHFINDER」のライブを経るごとに、帰るべき場所がここにあるという自信と実感を手に入れたBUMP OF CHICKENは、新たな場所へと飛び立つことにももうためらいなどないのだ。その思いを“Spica”に込め、だからこそ、あのライブでの原石そのもののような弾き語りは強烈に記憶に焼きついた。

すべてがつながっているのだ。それぞれの楽曲が、別の作品を支えるための書き下ろし曲であったとしても、こうしてこの最新の3曲をパッケージする意図はそこにこそある。このシングル作品は、BUMP OF CHICKENがたどりついた現在地そのものであり、新たなバンプの音楽の宇宙がそこに広がっていることを示してくれている。(杉浦美恵)
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