メニュー


第一回の『JAPAN JAM』で伝説のパフォーマンスを見せたあのバンドが帰ってきた。そんな感慨に包まれる。ZAZEN BOYS、2年連続の『JAPAN JAM』参戦である。「参戦」という言葉がこれほどふさわしいバンドもないだろう。昨年は、山下洋輔と坂田明というJAZZの巨人を招いて、まさに決闘という言葉がふさわしいジャム・セッションを見せてくれたわけだが、今年迎えたゲストは、昨年も参加したサックス・プレイヤーの坂田明に加え、トランペッターの近藤等則、そして七尾旅人という更なる異種格闘技戦になった。

ステージのセッティングもメンバー自ら出てきてやる気合の入りよう。百戦錬磨のミュージシャンによる一発勝負、ステージ上のコミュニケーションがすべてになる、それが分かっているのだろう。客席の期待もハンパではない。一旦ハケることなく、セッティングが終了した時点で、そのままパフォーマンスをスタート。合図は向井によるこの言葉、「幕張、時には女とまぐわり」。七尾旅人による会場全体を包み込むかのような、スケールの大きなボイス・パフォーマンスが先陣を切る。祈りとも、畏怖ともつかない、その声。ステージ上の全員が、この“世界”の感触を確かめるように音を鳴らし始める。その音はどんどん大きくなっていき、この時点で無数のカタルシスを生み出している。そして、嵐のような轟音。そうして始まったのは、震災の義援金のために音源もリリースし、このステージでやることを予告していた童謡“赤とんぼ”だ。向井がゆっくりと歌い始める。やさしい声だ。あの童謡の旋律が、その本性を遂に現すように、音楽として純化された力を放ち始める。しかし、インプロヴィゼーションに突入した瞬間、サウンドは一変する。ドラムは高速なロールを叩き出し、ベースは唸りを上げ、近藤のトランペットは意識を覚醒させるかのような高音で叫び、七尾によるボーカルのディレイはアンサンブルに輪廻を生み出す。そして、なお坂田のサックスは、このアンサンブルを破壊するような攻撃性に満ちている。その上で向井は一語一語を刻みつけるように、“赤とんぼ”を歌うのだ。もうこの20分を超えるパフォーマンスだけで既に、ステージ上の7人が集まった必然を証明してしまったと言っていい。




2曲目は“COLD BEAT”。ZAZEN BOYSのライブでは定番の楽曲だが、バンドの演奏を停止して、坂田と近藤によるやわらかな管楽器の音色から突入した中盤部の即興がすごい。坂田と近藤は曲名通り、絶対零度を描き出し、向井と七尾は言葉を使ってステージ上で交感する。かけ合いの中で思いがけず出てくる言葉。そのなかには「DA PUMP」なんてものもあったが、ステージ上ですべてが生まれ、すべてが過ぎ去っていく。続けて演奏されたのは大正時代の流行歌“東京節”。向井が松下に加わってドラムを叩きながら歌い、七尾旅人が歌い、そして坂田明も歌う。すべてが丸裸となった場所で、ミュージシャンが音楽をどうやるのか、そんなドキュメントのようだ。ステージ上のテンションと気迫はとっくに常軌を逸している。




「本当にみなさん、お集まりいただいて、ありがとうございます」という挨拶の後、向井がゆっくりとリズム・ギターを刻み始める。そして、七尾がゆっくりと歌い出す。七尾旅人の“Rollin' Rollin'”だ。やけのはらのパートでは向井がフリースタイルのラップをキメるロック・バンドver.の“Rollin' Rollin'”。後半はジャズをも呑み込み、自由な音の集合体になっていく。カシオマンのギターをきっかけに始まった“CRAZY DAYS CRAZY FEELING”では椎名林檎のパートを今度は七尾旅人が歌い、近藤等則はこれがトランペットの音とは信じられないような驚異的な即興演奏を見せる。そして、この「画期的」という言葉では収まりきらない規格外のZAZEN BOYSによるステージを締めくくったのは“Matsuri”。「ええじゃないか」の言葉と共に刻まれる日本的なリズムが、ロックとして目覚め、更に解体され、一音一音が音楽の快楽の根源に向かって花開いていくような完璧なエピローグ。昨年の伝説的なパフォーマンスを超えるべく挑んだ今回のジャム・セッション、向井は最後に「乾杯」と言い、近藤等則と抱き合って、ステージを降りていったが、そのときの表情が、結果についてすべてを物語っていた。(古川琢也)



◆ZAZEN BOYS
ゲスト・アーティスト:坂田明、近藤等則、七尾旅人

1 赤とんぼw/坂田明、近藤等則、七尾旅人
2 COLD BEAT w/坂田明、近藤等則、七尾旅人
3 東京節 w/坂田明、近藤等則、七尾旅人
4 Rollin' Rollin' w/坂田明、近藤等則、七尾旅人
5 CRAZY DAYS CRAZY FEELING w/坂田明、近藤等則、七尾旅人
6 Matsuri w/坂田明、近藤等則、七尾旅人