ブラー @ Zepp DiverCity

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これほど待望という言葉が似合う来日公演もなかなか珍しいかもしれない。2003年のサマーソニックでヘッドライナーを務めて以来、11年ぶりに来日が実現したブラー。なにせ11年である。その11年の間には、長年のライバルと目されてきたオアシスの解散があったり、例のノエルとデーモンの和解の一幕もあったりと、ブリットポップという物語のなかで語られてきた史実があらためて見直される契機があった。そのなかでブラーとは、2009年のグラストンベリーにおいて凱旋モードで受け入れられたのを挙げるまでもなく、このバンドがいかに愛され、偉大なバンドであったのかを証明してきた。

そんなブラーをZepp DiverCityのようなサイズの会場で観ることができる、その場内に渦巻いている熱量たるや半端ない。キング・タビーなどのダブの太いベースラインが流れるなか、開演予定の18時を過ぎると自然と客席からは拍手喝采が飛び始める。そして、18時4分、客席を照らしていた照明が落ちる。一瞬間を置いた後、デーモンを先頭にメンバーがステージに姿を現す。本当にブラーを11年ぶりに観られる。怒号のような大歓声がステージに投げかけられる。この時点で既に大きな感慨が襲ってくる。デーモンは早くも最前列の観客に握手をして回り、マイクを通して告げられた第一声は「Hi……Nice to see you」。そして、ストロークを試すようにグレアムのディストーションが鳴り響いた後、あのイントロが鳴り出して会場は更に爆発的な歓声に包まれる。そう、1曲目は“Girls & Boys”だ。ものすごい高揚感と共にZepp DiverCityの会場全体が揺れる。バンドは更に筋力増強したようなサウンドを響かせ、デーモンのヴォーカルは余裕と貫禄にあふれている。「You Guys」の合図と共にコーラスで会場中のシンガロングが起こったのは言うまでもない。特別なライヴでしか得ることのできない空気、それが1曲目から全開で花開いてしまう。この熱狂的なリアクションにはさすがにメンバーも驚いたようで、デーモンは「Thank You、Wow」と心境を吐露してみせる。そして、1曲目が終わった時点でデーモンは客席に水をかけ始める。もうすっかり祝祭的な空気が広がっている。

ブラー @ Zepp DiverCity
やっと戻ってこれた、というデーモンの言葉から始まった2曲目は“There's No Other Way”。バンドにとって初のTOP10ヒットとなった曲であり、ブラーによるギター・ロックのエッセンスが凝縮された曲、そのタイムレスな魅力に一瞬でもっていかれる。そして、デーモンは変わらぬフロントマンシップをこれでもかと見せてくれる。客席を煽るように何度もジャンプをきめ、客席とハイタッチをし、間奏では再び客席に水をかける。マイク1本を手に、なにも特別な演出などなくとも、その一挙一動で満場のオーディエンスを惹きつけてみせる。一方で、“Beetlebum”(これまた最高だった!)を挟んでの“Out of Time”演奏前には、口が乾いたと言って、「甘い物ない」と客席に語りかけるお茶目な一面も見せてくれる。もうなにかを証明する必要はない。ブラーの名曲群を、バンドとプレイすれば最高のステージになる。そんな自信に満ち溢れているように見えた。

ブラー @ Zepp DiverCity
ブラー @ Zepp DiverCity
グレイテスト・ヒッツ中のグレイテスト・ヒッツが並んだ今回のセットリストの中で、一風変わっていたのは“Trimm Trabb”~“Caramel”の流れ。どちらも『13』収録の楽曲だが、決してキャリアを代表する楽曲ではないこれらの曲がここに配置されることで物語っていたのは、ブラーがブリットポップのまさにポップネスを象徴するバンドでありながら、如何に実験精神に富んだバンドであったかということだ。そして、ライヴバンドとしての実力もこれらの曲では顕著だった。“Trimm Trabb”では最後のデーモンの絶叫によって歓喜の中に戦慄を描き出し、“Caramel”では3人のホーン隊も加えてジャムセッション的パートへと突入していく。“Trimm Trabb”では客席を正面から見据えて、高々と拳を掲げるデーモンの姿があったけれど、本人たちにとってもそんな自負があったんじゃないだろうか。

ブラー @ Zepp DiverCity
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そして、ここからは言わずもがなの名曲の連打である。グレアムの「Hello」という短いMCから始まったのは、もちろんグレアムがリード・ヴォーカルを務める“Coffee & TV”。続く“Tender”では当然ながら巨大なシンガロングが会場を包むが、曲が終わってもシンガロングが止まない。これに即興でデーモンはアコギと歌で見事に応えてみせる。“To The End”では、この名曲をデーモンが堂々と仁王立ちで歌い、“Country House”ではこちらでも会場中が大合唱のなか、デーモンがステージダイヴまで決行してみせる。“Parklife”では、なんと『さらば青春の光』への出演でも知られるフィル・ダニエルズがこの1曲のために登場。お馴染みの語りを披露してくれる。会場はもちろん「Parklife!」の大合唱だ。そして、デーモンが何度も最前列の観客と握手していた“End of a Century”を挟んで、本編最後は“This Is a Low”。ブラーの名曲に酔っているうちに本編70分があっという間に終わってしまう。デーモンは観客に向かって深々と一礼してステージを去り、グレアムのギターのループ音が残される。

万雷の拍手と共に迎えられたアンコール、その1曲目には、14年ぶりに演奏すると言って(ジブリの話もしていた)、日本にちなんだ『ザ・グレイト・エスケープ』の“Yuko and Hiro”が演奏される。デーモンがステージ右奥のピアノのところに座って始まったのは“Under the Westway”だ。最新の楽曲がこれまで演奏されてきたブラー・クラシックスに負けない楽曲となっている幸福をこの曲は物語っている。そして、グレアムのミスのために仕切り直しとなった“For Tomorrow”では再び一面のシンガロングとハンドクラップを巻き起こし、イントロの時点で大きな歓声が上がったのは“The Universal”だ。そして、ペットボトルをあるだけ持ち出して、客席に水をまき、最後に投下されたのは“Song 2”。“Girls & Boys”以上の強烈な揺れが会場を揺らす。まるで爆風のように「Whoohoo!」の大合唱を巻き起こして、約100分に及ぶライヴは終わった。デーモンは「Good night」と言い残し、タオルを客席に投げ入れてステージを去っていった。

ブラー @ Zepp DiverCity
今回の日本公演を最後にブラーの今後の予定は決まっていない。デーモンは今年2014年にファースト・ソロ・アルバムをリリースすることも発表している。その意味で、ブラーの未来がどうなるかは現時点でわからない。ただ、この日目撃したのは、これまでの来日公演と較べても最も幸福なブラーの姿だった。この幸福に1秒でも長く浸っていたいと思わせてくれるライヴだった。(古川琢也)

セットリスト
1. Girls & Boys
2. There's No Other Way
3. Beetlebum
4. Out of Time
5. Trimm Trabb
6. Caramel
7. Coffee & TV
8. Tender
9. To the End
10. Country House
11. Park Life
12. End of a Century
13. This Is a Low
Encore
14. Yuko And Hiro
15. Under the Westway
16. For Tomorrow
17. The Universal
18. Song 2
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