【インタビュー】ザ・ハイヴスがついに帰還――沈黙の10年を破った驚異の復活劇、バンド史上最もポップな最新作。さらに19年ぶりのフジロックまでを語り尽した最新インタビュー


19年ぶりのフジロックで、ザ・ハイヴスのステージが完全無双の盛り上がりを見せたのは、彼らのライブバンドとしての実力を思えば当然だった。でも、最新作『ザ・ハイヴス・フォーエヴァー・フォーエヴァー・ザ・ハイヴス』のナンバーが、過去の代表曲に負けないほど盛り上がったのは嬉しい想定外で、「何故そんなことが可能だったのか?」といえば、彼らがこの新作で明確にアリーナでも通用するアンセムを作ることを目指したからだ。今回のインタビューでハウリン・ペレ(Vo)も語っているように、同作はハイヴス史上最もポップでキャッチー、文字通り「掴みOK」な楽曲がぎっしり詰まった一枚であり、これらの曲が苗場で瞬間沸騰したのも納得だ。30年以上のキャリアを誇る彼らは、沈黙の10年代を経て今、再びの黄金期を迎えつつある。『ザ・ハイヴス・フォーエヴァー・フォーエヴァー・ザ・ハイヴス』は、そんな彼らのある種の勝利宣言のようなアルバムなのだ。

(インタビュアー:粉川しの rockin'on 10月号掲載) 




●『ザ・ハイヴス・フォーエヴァー〜』はハイヴスの大復活と同時に、アップデートをも告げる一作だと思いますが、本作をハイヴスのキャリアの中でどう位置付けますか?

「現時点でこれまでのハイヴス作品の中で、個人的に一番気に入ってるアルバムであることは間違いないよ。個人的に作品を完成させた後に100%満足ってことはほぼなくて、どうしても粗が目につくものなんだけど、今回に限っては素直にいいと思える。それがすでに最新作について物語ってるだろう」

●前作『The Death of Randy Fitzsimmons』が10年以上の沈黙を破っての新作だっただけに、わずか2年のインターバルで新作が到着したのも驚きましたが、前作で得た手応えがアクセルを踏み込むきっかけになったんでしょうか?

「前作をレコーディングした時点で、今回のアルバムの半分はすでに完成してるみたいな状態だったんでね。この10年間沈黙してたとはいえ、曲作り自体は続けていたんで、曲だけは大量に溜まってて最初からアルバム二枚分になるだろうって予感はしてた。10年間待たせといて『The Death of Randy Fitzsimmons』の一枚だけで終わらせるなんて味気ないじゃないか。それもあって初めてバンド内で流れや勢いについて意識してみたんだ。

例えば初期の頃のラモーンズみたいに1stを出す前からアルバム二枚分の曲がすでにできてて、そのままひたすらツアーし続けながら同時にアルバムやシングルを連発して、新作にシームレスに移行していくやり方がいいと思ってね。ツアーのサイクルを終えた後、間髪入れずに今回の新作のツアーに入るという、うちのバンドにとっては初めての試みなんだけど、昔から一度やってみたかったのもあり、何とも爽快な気分だよ」

●本作で驚いたのは、予想以上にバラエティ豊かな楽曲が詰まっていたことでした。

「スタイルにバラエティを持たせるというのは今回こだわった点だね。と同時に、どの曲も構造的にポップの型を若干踏襲してる形にしたかったというか、あくまでもハイヴスらしいサウンドを貫きながらも、まさに『あ、今からサビが来るな』っていうタイミングでサビが訪れるみたいな展開が欲しくてね。アルバム全体の流れとしては、前半はいかにもハイヴス的なロックンロールで飛ばしつつ、終盤に向けて実験的で、ポップ寄りの世界に足を踏み入れていくような……とはいえ、ポップって言っても、あくまでもハイヴス流のポップではあるけど」

●ポップ的な要素を取り入れたということですが、何かインスピレーションはあったんですか?

「その源ってことで言うなら、最新作はこれまで以上に大きな会場で演奏することになるだろうって大前提の上で作ってるってところだろう。前作があれだけもの凄い反響だったんだから、今作は最初からそれを超えてくるに決まってると予想してたわけさ。だったら最初からアリーナ向けの音楽を作ってやろうじゃないか、というね。そうなると会場全員が『ハイハイ、今からサビ来た!』って、わかるような曲を提供したいわけじゃないか。とりあえず、その音が流れてきた瞬間に一斉に盛り上がれるようなパートというか。ポップ云々っていうアイデアも単純にそういうところから来てるんじゃないかな。

メンバー全員とも昔からポップが好きで普通に聴いてたものの、バンドとしてはあまり手を出してなかったというか、自分達はあくまでもロックバンドだっていう意識が強かったんでね。最新作のニューウェイヴ、あるいはパワーポップ的な要素は、ザ・ビート、ポール・コリンズ・ビート、あるいはカーズあたりからの影響かもね。要するにパンク直後に登場したギターポップというか、そういうスタイルが、最新作には自然に滲み出てるというか」

●王冠にマントという、アルバムのビジュアルの発想はどこから?

「誰が言い出したかは忘れたけど、新作の衣装について話してたときに浮上した案で。毎回、黒と白の衣装を新調するスタイルでやらせてもらってるんで。そのとき誰かが王冠とマントって言った瞬間、もうそんなん実行に移すしかないってくらい面白すぎだろと思ってさ。しかももう30年間これをやってるわけだからね。王に扮する資格があるだろうと思ったわけさ(笑)。この衣装が決定したとき、タイトルも派手に一発打ち上げてやらないとと思って、そこからの『ザ・ハイヴス・フォーエヴァー〜』ってタイトルになったわけ」

●プロデューサーとしてマイクDが参加しているのも驚きでした。あなたにとってビースティ・ボーイズはどんな存在? 

「メンバー全員ビースティーズが大好きでね! うちの兄弟が10歳くらいの頃に“ノー・スリープ・ティル・ブルックリン”や“ファイト・フォー・ユア・ライト”の、いわゆるビースティーズ節に出会って、その後、バンドを始めたくらいの頃に『イル・コミュニケーション』がリリースされてドハマりしてね。当時、パンクロックって言ったらカリフォルニア系統の完璧で洗練されたものが主体だったのに、ラップで一世を風靡したビースティーズが粗削りでゴリゴリのパンクサウンドを放ったっていう。“サボタージュ”とか、あの曲を聴いた人間はほぼ一発でヤられる、ただしヒット曲の法則に一切当てはまらないって、どれだけ偉大な曲なんだろうと。マイクが最新作にもたらしてくれたものって、彼自身の感性そのものだよね。

ハイヴスって完全に独立独歩の自分達だけの小さな世界の中で、あくまでも自分達だけの独自のルールにおいて自分達のやりたいことだけをやってきたバンドなわけで、自分達が心から尊敬できる人じゃないとうちの世界に受け入れられないわけさ。それこそ、もうひとりのプロデューサーで長年一緒にやってるペレ(・ギュナーフェルト)だって簡単に首を縦に振るわけがない。それでもマイクの意見だったらさすがに耳を傾けるだろう、と(笑)。実際、マイクにデモ音源を送ったらビースティーズでも使ってる機材でカバーし直して返してくれてさ。『おお、マイクのデモのほうがうちのバージョンの何倍もいいじゃん!』って(笑)」

●(笑)。《どいつもこいつもヒヨリやがって/マジで我慢の限界》と歌う“Enough Is Enough”はまさにパンク的な怒りの一曲ですが、何があなたにこの歌詞を書かせたんですか?

「ロックが最高に機能する瞬間って怒りと歓喜がクロスオーバーするときだと思ってるんでね。要するに、怒り一辺倒ではないんだよ、それだと個人的にどうもそそられなくてね。怒りつつ大興奮してハッピーっていうのが理想だよ(笑)。それがハイヴスのロックだよ、怒り込みの歓喜。だからアルバムの最初の一発目には『え、それ言っちゃってアリ?!』みたいな歌詞を持ってきてガツンと一発かましてやりたかった。まさにさっきの話にもあった“王冠とマント”と同じノリだよ。いったん思いついたらワクワクしすぎて衝動に抗えない。ただまあ、こんなに怒るネタの尽きない時代なんでね。塩と砂糖のバランスみたいに、怒りを飲み下すにも喜びが必要なわけでね」

●今振り返ってみて、10年代のハイヴスの沈黙は必然だったと思いますか? あの年代は時代的にロックバンドが求められていない、ロックンロールが死んでいた時代だとも言われますよね。

「休止に関しては単純にあまりにも飛ばしすぎて、電池切れを起こしてたんだろうね。ただ自分達はまったくそのことに気づいてなかったし、気づいたときにはもう完全にエネルギーが枯渇してた、みたいな。 本当はどこかのタイミングで立ち止まって休みを取るべきだったんだけど、そのまま突っ走って果てたという。とはいえ、ロックンロールが生きてるか死んでるかなんて、そもそも考えたこともないし意識したこともないね。というのもハイヴスが音楽を作ってるってことは、その瞬間、すなわちロックンロールは生きてるもんだと思ってるんで。少なくとも自分達が音楽を作り続ける限り、我々の中でロックンロールは健在なんだ。観客の規模や数とは一切関係なくね。

これだけ長くやってると、ロックは死んだと言われる時代もロックが復活したと言われる時代も、これで何巡目?ってくらい経験済なんでね(笑)。死んだだの生き返っただの、いずれにしろ大げさだろ(笑)。単にロックンロールがメインストリームじゃないってだけの話だろう。それ自体、何の問題があるのか?って話だしさ。それを言い出したら、自分達がロックンロールを始めた時代だって、ロックンロールはメインストリームでもなかったわけでさ」

●とはいえ、ハイヴスの復帰は図らずにしろ見事に時流に乗ってしまっているわけですが。

「それに関しては単純に運がよかった、ラッキーってことなんだろう(笑)、ほんとそうだよ」

●(笑)。つまり、ハイヴスが20年代に復活を遂げたのは時代的な必然、というわけではない、と?

「まあ、今の時代に関して何か思うところがあるなら、人気のあるロックバンドが出てきて活躍してて単純にいいじゃないかって感想くらいだよ。いつの時代にも優れたロックバンドは存在してたけど、最近はアミル・アンド・ザ・スニッファーズだのヴァイアグラ・ボーイズみたいなバンドが大会場を埋めてて頼もしいし、ロックンロールが盛り上がってるようで大いに結構じゃないかって。とはいえ、そもそもうちのバンドは昔から外部から完全に切り離された孤島みたいな形で機能してるんでね。外側の世界でどういう変化が起きてようが、そういうのとは一切関係なく完全に独立した世界のものとして、ハイヴスという王国は続いていくっていう」

●ハイヴスはロックンロールの普遍性を追求してきたバンドだと思いますが、今の時代にロックバンドが「変わるべき」点はあると思いますか?

「ロックのスタイルって無限に可能性を秘めてるわけじゃないか。自分がバンドを始めた頃は、例えばLAのヘアメタルみたいなスタイルは時代遅れで古臭く感じられて、まったく共感できなかったんだけど、今になってみると、ああいうスタイルにも少なくとも存在価値があったんだなって思えるようになったし……というか、要するにマッチョなロックに個人的にそそられないわけだよ。マッチョで筋肉ムキムキの男臭い感じよりは、どこかしらフェミニンなエネルギーが入ってるロックンロールのほうが断然面白いと感じる派。テッド・ニュージェントよりかは、断然ミック・ジャガー派だね(笑)。

とはいえ、ロックって本当に多種多様だから一般論にして語るのは難しいわけで……ただ、ここ10年くらいの傾向として、歌よりも語りが中心のバンドが今の時代の主流なのかな?って印象ではあるけどね。それこそフォンテインズD.C.にしろ、スリーフォード・モッズにしろ、ヴァイアグラ・ボーイズにしろ、ヤード・アクトにしろ、さ(笑)、ロックでラップをやってるみたいなノリというか(笑)。今みたいな時代だからこそ、逆に語りは一切なしで、派手に絶叫しながら朗々と歌だけで聴かせるバンドが出てきたら相当面白いだろうね(笑)、それが26年の新たなバンドに求める個人的なリクエストおよび希望的予測だよ。語りは一切なしで、ガチで歌う若いバンドが観てみたいもんだね (笑)」

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