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解体を待つあんこう
17:15、携帯が鳴った。ディスプレイを確認するまでもなく、相手はわかっている。みなと屋だ。きた。ついにきた。本フェスの裏メインイベントといっても過言ではない、「あんこうのつるし切り」タイムが!! クイックレポートの仕事場を飛び出し、ダッシュで現場に駆けつける。凄い人だかりだ。そしてその中心には……いた、あんこう(と、包丁をにぎりしめたみなと屋社長)だ!! すでにショーは始まっている。心拍数があがるのを感じる。
生まれて初めて観る「あんこうのつるし切り」。それは期待を上回る最高にエキサイティングな経験だった。昨日お店でカメラを向けた時とは別人のような真剣な表情で、あんこうに包丁を入れていく社長。思っていた以上に豪快だ。「さばく」というより「斬りかかる」と言ったほうが適切だろう。そう、これは親父とあんこうの真剣勝負、闘いなのだ。集まったお客さんも、みな固唾を飲んで見守っている。腹が開かれた。表面のぬめぬめ感が社長の手元を煩わせているが、だがこのぬめぬめ感も旨さを構成する大事な要素だ。社長、負けるな。と、そこで無言だった社長が口を開く。「これ、肝」。くぅーーーーーーーーー!!!!!! 肝! 肝!! きもぉ!!! もうだめ、アドレナリンが止まらない。ああ、早くその肝とひとつになって幸せになりたい。そうこうしているうちにも、どんどんあんこうは解体されていく。胃袋が取り出され、皮がはがれ、予想以上にぴかぴか光る(これは脂なのか、体液なのか?)ドラッギーな魚体が露になる。ばかっと開いた口の中も凄い。さすが魚丸呑みする奴なだけはある。ああ、美味しそう。こんなもの見せられて、この先どうしたらいいんだろう……あ、記念写真も撮らなきゃ。
解体を待つあんこう 海のドラッグ、肝、摘出!
続いて胃袋! 皮が剥がされ、その身が露に!
終了直後の社長。ひとつ成し遂げた男の清々しい笑顔です

そして17:33、あんこうとみなと屋の勝負は終了した。社長の完全勝利。頭と背骨だけになったあんこうが取り外される。まだ微妙に残る身は、まな板の上ですべて採取されるらしい。真剣だった社長の顔にも、やっと笑みが浮かぶ。何かをやり遂げた、すてきな男の顔だった。
そしてそしてさらに1時間後、このあんこうがたっぷり投入された「あんこうのどぶ汁」が完成。ぶつ切りにされた身がごろんと入っている。ぱくりとひと口。んんんんんー! ぷるんぷるんのもっちもち! やっぱりさばき立ては弾力が違う!! 簡単には噛み切れないし、噛むほどに味が出る! 正直言って昨日は主役にもかかわらず海老やカニに負けていたあんこうだったが、その汚名をばっちり返上していた。食のサイケデリア、みなと屋が、また一段とヴァージョン・アップした瞬間だった。(有泉智子)