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とても不思議な魅力をたたえたアーティストだ。透明感と芯の太さを持ち合わせた歌声。時に淡々と、時にどっしりと刻まれる重たいリズム。そして煌びやかな音とダークな音を行き来するピアノの旋律。その触れ幅が圧倒的に広いだけでなく、聴く者を一瞬で未知の世界へ連れ去ってしまう凄まじい吸引力を持っている。そんな彼女の摩訶不思議なパワーは、初出場となった今日のCOUNTDOWN JAPAN 10/11のステージでも全開だった。
キーボードとドラムが向かい合うようにセッティングされたステージ。SEに乗って世武ひとりがステージに登場し、"メトロ"をプレイ。深みのある歌声とフレンチテイストの旋律が奏でられた瞬間、フランスの地下鉄に迷い込んだような錯覚に陥る。さらにサポート・ドラマーのあらきゆうこが登場。"ハローハロー"では、神秘的なシンセの音とキレのあるビートが聴き手をさらに深い深い海の底へと誘い込んでいく。「今日は沢山の方に立ち寄って頂きありがとうございます! 短い間ですが聴いてください。……いや、聴いて頂けると嬉しいです!」という挨拶では、楽曲世界からは想像もつかないほど茶目っ気のある姿が露になって微笑ましかった。が、いざ楽曲に戻ると再びディープな情景が描かれてゆく。軽快なリズムの上で少女の浮き足立った心情が歌われる"彼女はラッキーガール"も、激しいピアノとドラムがスリリングに交じり合う"Le Bon Danse"も、躍動感がありながら、現実とは一線を画した孤高の世界を貫いていた。ラスト"空を眺める""太陽が照らすのは"では、生命感あふれる歌声とサウンドスケープでフロアを雄大な大地に変えた彼女。その情景豊かなサウンドの翼に乗って、海の底から雲の上まで束の間の空中散歩を楽しんだような至福の30分だった。(齋藤美穂)