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年越しまであと1時間と少しというところまで迫り、少しソワソワしたようなムードが漂い出したMOON STAGEに登場したのは、2009年のRO69JACK優勝バンドであり、このCOUNTDOWN JAPANにも2年連続での出場となる真空ホロウ。1発目に演奏されたのは、今年6月に発売された彼らの2nd ミニ・アルバム『ストレンジャー』から、“サイレン”。本人たちによるサウンドチェックの段階からすでに明白だったが、やはりこのバンドは演奏が良い。3人ともリズムがほとんどぶれないため、非常にタイトなグルーヴをサウンド全体の基盤にできているし、曲の展開に合わせた音圧の上げ下げも絶妙。各楽器のサウンド・メイキングも良い。2曲目3曲目に演奏された“クレイマン・クレイマー”も“誰も知らない”も、基本的な曲構造としては王道のギター・ロックなのだけど、演奏の妙によって曲の核心にあるものを表現できているため、それぞれまるで似通った印象を受けない。また、“クレイマン・クレイマー”の途中あたりで緊張が解けたのか爆発したように激しいアクションを見せだした村田智史(B)と、直立で無心にギターを弾き語る松本明人(G/Vo)との画的な対比も、描かれる感情の起伏が激しい彼らの楽曲を表現するのに一役買っているように思えた。世に出る前から、そして世に出てからのこの数年間にも、「伝えたいことがあるからとにもかくにも音を出す」のではなく、「伝えたいことが正しく伝わっていくように考える、鍛える」というプロセスを真摯に踏んできたバンドなのだろう。素晴らしいと思う。
と、思わず絶賛したくなるような演奏力なのだけど、さらに驚くべきは、松本明人のヴォーカル。いや、そのヴォーカルを最大限に活かすために完璧に機能した楽曲のアレンジも含め、か。初期椎名林檎とSyrup16gを直列に繋いだような、つまり剥き出しの情念と諦念と苛立ちがそのままメロディと声色に転化したような歌唱(そんな歌、今まで他の誰が歌えただろう?)を、彼らは2010年代モデルのピカピカのギター・ロックに乗せて放つ。この優れた演奏力をもって。良いバンドを通り越して、ちょっと、怖い。良すぎる。
5曲目に披露された新曲もまた、静と動を激しく行き来する曲展開に伴う緩急と、その緩急さえ切り裂くノイズが滅法格好良いギター・ロックだった。新曲とは思えないほど異様な盛り上がりを見せるフロアに、僕も完全に同意したい。盛り上がりといえば、セットリストが進むほどに観客が放つ熱気や歓声が増していったのが印象的だった。才能ある若いバンドを見て「ここからどこにでもいけるな」と思うことがたまにあるが、「覇道を真っ直ぐ歩んでいける」と確信できるのはそれよりさらに稀有だ。真空ホロウは、後者に当てはまるバンドである。(長瀬昇)