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ゆっくりと、新たなる1年に向けての決意を促す日本語ソウル・カヴァー“ピープル・ゲット・レディ”。熱いサルサとレゲエのリズムが入り交じって繰り出される人類の大原則“死ぬまで生きろ!”。2011年の終わり、身に沁み入るような楽曲群に続くのは……。こんな話がある。震災後、はじめて被災地に足を踏み入れたソウル・フラワー・ユニオンの中川敬は、宮城県の漁港町である女川の瓦礫の中に、一台のターンテーブルを見つけた。その写真をtwitterにアップしたところ、持ち主が地元でかまぼこ店を営む男性であることが判明。彼はなんとソウル・フラワーの20年来のファンであり、阪神・淡路大震災の折には現地でボランティアとして活動、ソウル・フラワーの被災地出前ライヴにも協力していた人物だという。《何度もやり直す しつこく巻き返す》。再生の反骨精神が連なって辿り着いた“キセキの渚”。人生にはこういうことが起こり得る。誰がなんと言おうと、こんな歌の誕生を止めることはできない。三陸から、福島から、あらゆる現場から、365日いつでも、うたは自由をめざす。奥野真哉のけたたましく鳴らされるキーボードに、上村美保子のお囃子が跳ねて、伊藤孝喜のアップリフティングな高速マーチング・ビートが転げてゆく“神頼みより安上がり”が、力技で笑顔の新年を迎えにゆくためのMOON STAGEを作り上げていった。チンドン太鼓も持ち込まれる“海行かば 山行かば 踊るかばね”には老若男女も魑魅魍魎も踊れ踊れ! 《ヨイサーヨイサー♪ 原発廃炉♪》の音頭がフロアに広がってゆく。そしてステージ上のタイマーが10秒前というところで、オーディエンスが一斉にカウントダウンを始め……2、1、ゼロ! リボンキャノンが放たれ、色とりどりの風船が降り注ぎ、中川が破顔一笑「人生オメデトウ! 乾杯!!」と声を上げるのだった。新年が明けるとともに敢然と再び時代に向き合う“荒れ地にて”、悲しみも怒りも音楽に混ぜ込んで笑うアイリッシュ・トラッド風のアンセム“風の市”を披露し、三線を抱えた中川が「人生の祝いは続くよ、ホンマやで!」と最後に歌われたのはやはり、阪神・淡路大震災から歌われ続ける名曲“満月の夕”だ。悲しいかな、時代は再びこの歌を必要とした。しかし、この歌があって本当に良かった。「みんなで歌おか! 時代はお前を待っている!!」という中川の言葉を合図に、その旋律は幾重にも折り重なってフロアを満たすのであった。(小池宏和)